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白百合の祝福30

戦況はますます激しいものへと変わり、こう着状態へと入っていた。


白百合騎士団は開戦当初の勢いを完全に失い、ガバルディに近づくどころか


一歩も前に進めないという状況へと変わっていた。このまま消耗戦になれば圧倒的に数が少ない白百合の敗北は必死である。


 次々と倒れていく味方を目の当たりにし、私は思わず自分の剣に手をかける。


気持ち的には今すぐにでも参戦し、白百合の騎士達と共に戦いたいという思いだ。


だがここで体力を使ってしまってはせっかくの作戦を台無しにしてしまう。


私は忸怩たる思いと、はやる気持ちを抑えながら何とか思いとどまる。


自分の心を落ち着かせるためにも、ふと横に視線を移すと。相棒であるエレナ先輩は冷静な眼差しで戦況を見つめていた。


その姿を見て私は改めて思い知らされる。この戦況の中で、この落ち着きぶりは感心を通り越して驚嘆に値するからである。


そもそも私と先輩ではくぐって来た修羅場の数が違う、その差をまざまざと見せつけられ、身が引き締まる思いだった。


だがその時、急にエレナ先輩の目つきが変わり、独り言のように呟く。


「嘘でしょ……」


 最初、何の事を言っているのかわからなかったが、その答えはすぐに出た。


突然私たちの周りにいた人間がバタバタと倒れていったのだ。


 しかも倒れたのは味方だけでなく、敵も含めてであり、私は何が起きたのかすぐには理解できなかった。


しかし倒れた兵の背中に突き刺さっている物を見て、ようやく事態を把握する。


「これは弓矢、でもこんな敵味方入り乱れた混戦状態で弓矢なんか使ったら


味方にも甚大な被害が出るじゃない。一体どういうつもりで……」


 敵の司令官であるがバルディは、私たちを全滅させるため、味方の犠牲を考えず、弓矢による攻撃を仕掛けて来たのである。


「ガバルディ、貴様という奴は‼」


 頭上から降り注ぐ雨のような弓矢を、自らの剣で払い落とし、怒りの声を上げるゼナおばさん。


しかし残念ながらその叫びはガバルディには届かなかった。


「弓隊、第二射の用意だ、さっさとやれ」


 まるで虫を殺して楽しむ子供のように、ガバルディは残虐な笑みを浮かべ命令を下す。


そんな通常では考えられない上司の命令に、部下の一人が恐る恐る問いかける。


「しかしお頭……じゃなくて騎士団長、いいんですかい?このままじゃ正規兵の方にも相当な被害が出ますが?」


「あ?馬鹿野郎、いいに決まっているだろ。せっかく空も明るくなってきて、敵も一箇所に留まっているのだ。


弓矢を使えば一番効率的にアイツらを殺せるだろうが」


「し、しかしそれですと味方にもかなりの被害が……」


「だから何だというのだ?これは戦だ、戦には犠牲は付きものだろうが。まあ名誉の戦死ってやつだ」


 何の躊躇もなく言い放つガバルディを見て、部下たちの背中に冷たいものが走った。


「弓隊、第二射、放て‼」


 容赦のない命令により、弓矢による一斉掃射が行われた。


弓隊から放たれた無数の矢は空を覆い尽くし、放物線を描いてこちらに向かって来ていた。


「こんなのどうやって避ければ……」


 上空を見上げながら絶望感に苛まれていると、突然目の前に視界を遮る物が現れた。


「な、何?」


 私は何が起きたのかわからず、改めてその目の前の物を確認すると、その正体はすぐに判明する


それはベゼッタ部隊長であった。


「部隊長……どうして?」


 私は言葉を失う。ベゼッタ部隊長は私とエレナ先輩を庇うように、その大きな体を駆使して私達の盾となってくれたのである。


「か、勘違いするな……貴様とエレナは作戦の大事な鍵だ……わ、私は白百合の為にやっただけだ……」


 苦痛に顔を歪ませ、絞り出すように言葉を発する。よく見るとその背中には数本の矢が突き刺さっていた。


「弓隊、第三射だ、さっさと撃て」


 ガバルディの非情な命令が淡々と下される、もはや何の感情もなく、機械的に私達を殺すことだけを考えているように見えた。


 そして弓矢による次の攻撃が行われた。またもや空を覆い尽くすような大量の矢がこちらに向かってくる。


すると今度は私とエレナ先輩を抱き抱えるように覆いかぶさってくるベゼッタ部隊長。


飛んでくる矢の大群に背中を向け、必死で私たちを守ってくれていた。

「どうしてそこまで……」


 思いは言葉にならず、涙が溢れてくる。部隊長は私たちを力一杯抱きしめ、盾となり必死で守ってくれた。


部隊長の体越しに弓矢の突き刺さる衝撃が伝わって来るたびに〈うぐっ〉という低い唸り声が聞こえてくる。


「お前ら、それでも人間か‼」


 怒りの表情を浮かべたミランダさんが、右手を天に掲げる。


「消し炭になってしまえ ライトニングインパクト‼」


 叫び声と共に上空から巨大な雷が舞い降りた。


青白い怒りの鉄槌は、まばゆい光と耳をつんざくような轟音を伴い、あっという間に弓矢隊を飲み込んだ。


電を受けた敵軍は、跡形もなく消え去っていた。だがその反動からか、ミランダさんは力なく膝から崩れ落ちる。


「ハアハア……もう……魔力がほとんど残っていないわ……後は、よろしく……」


 そのまま脱力するように、地面に倒れ込んだ。


「部隊長、ミランダさんが敵の弓隊を撃滅してくれましたよ。ありがとうございま……」


 弓による脅威が消え、お礼を言おうとした時、ベゼッタ部隊長は既に亡くなっていた。


両目を大きく見開いたまま絶命していたのである。


私は隊長の死体を地面に寝かせ、その目をそっと閉じると、その亡骸に深く頭を下げた。


改めて周りを見渡すと、敵味方含めた死体の山が転がっていた。


もちろん数の関係で敵の死体の方が多かったのだが、白百合の騎士達の被害も相当であった。


志半ばで無念のうちに死んでいった彼女達をみると胸が張り裂けそうになる。


その中には私の初めて相棒であるアンナ先輩の姿もあった。


だが悲しんでばかりはいられない、今はまだ戦闘の真っ最中なのだ。


周りを見渡すと生き残っている白百合の団員は全体の三割ほど


傷を負っている者や、疲労困憊の者もかなりいて、まともに戦えるのは二割いるかどうかという状態である。


ミランダさんの魔法により敵の弓隊は壊滅し、ここまでかなりの敵兵を倒したとはいえ


薬物により狂気に染められた残存兵がまだ四万はいると思われる。


魔力の枯渇により、もはやミランダさんの魔法支援もままならない現状で戦況は非常に芳しくない


というより絶望的と言ってもよかった。


「クソっ、ここまでか……」


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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