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白百合の祝福3

物心ついた時から色々な人に〈あなたの母親は凄かった〉と聞かされ続け


いつしか母の名は私にとって憧れや目標ではなく十字架となって重くのしかかっていた。


〈母のようになりたい〉から〈母のようにならなくてはいけない〉と思うようになっていたのである。


 唯一私に〈母親のことは気にせず自分の思う通りに生きなさい〉と言ってくれる人物は母の相棒だったゼナおばさんだけであった。


「あっと、紹介が遅れたがカウンターで昼間から飲んだくれているこいつがミランダ、二十七歳の独身女だ」


「ちょっと、マスター、私の紹介にだけ悪意があるわよ‼」


 さっきからこの女性が飲んでいたのは酒だったのか、でも軍に勤めていて昼から酒を飲んでいるって……


とても軍の施設とは思えない、ここには規律とか規範意識とか無いのだろうか?


「面倒だけれど自己紹介するわ、私はジョージ・ミランダ。元アメリア王国の魔道士、ちなみに恋人募集中よ」


 その自己紹介を聞いた私は反射的に腰の剣に手をかけ戦闘体制に入る。


「アメリア王国って、敵国じゃないですか‼」


 我々の国ゲドルマン帝国と隣国であるアメリア王国、そしてロデリア連邦とは百年以上も戦争状態が続いている。


 どうしてそれほどの長い間戦争が続いているのかというと有体にいえばそれぞれの国の信仰する教えの違い、いわゆる【宗教戦争】といわれるものだ。


 我がゲドルマン帝国は【祝福の女神フィラメーゼ】を崇拝する【女神教】


アメリア王国は【絶対神ガリスト】を崇拝する【ガリスト教】


ロデリア連邦は【全智の神ヨハスト】を崇拝する【全智教】と分かれている。


各々の国が自国の神を信じ、それを押し付けあう形で百年以上もの長い間、戦争をつづけているのだ。


信仰心の薄い私にしてみれば、〈馬鹿らしい〉の一言だ。


 そして各国の戦い方の特徴として我が国ゲドルマン帝国は剣、アメリア王国は魔法、ロデリア連邦は魔道具を用いての戦い方が主流なのである。


話が逸れたが本題に戻ろう。目の前にいる女性がアメリア人と知り、私は思わず腰の剣に手をかけ戦闘体制に入った。


「ちょっと待て、ミランダはもう我が国の人間だ、政府も正式に亡命を認めている、だから剣から手を離すのだ、リア」


 ラウンデル支部長が慌てて私を制止した、どうにも釈然としないものの上司がそういうのであれば従うしかない。


ここでも初日に問題を起こしたとあれば今度こそ間違いなく軍をクビになってしまうからだ。


しかしどうにも釈然としない私はミランダの方をジッと見つめる。


「何よ、文句でもあるわけ?」


 私の目つきが気に入らなかったのか、不機嫌そうな顔でこちらを見てくるミランダ。私はつくづく気持ちが顔に出るらしい。


「文句ではありませんが、今ミランダさんが今飲んでいるのはお酒ですよね?


職務中の軍人が飲酒とかどういうつもりなのですか。それに先ほどあなたは魔道士だとおっしゃいましたが


魔道士の使う魔法はかなりの集中力を必要とすると聞いた事があります、しかしそんなアルコールを摂取した状態で魔法など使えるのですか?」


 私の質問に対し、彼女はすぐに答えることはなく目を細めジッとこちらをみてきた。


「ちょっと若くて可愛いからって調子に乗っているのじゃ無いわよ


魔法のことなんか何も知らないくせに……それにこれはお酒じゃない、薬よ、薬」


 酒の匂いをプンプンさせながら訳のわからない事を喚き散らすミランダ。


「どこが薬ですか、どう見てもお酒ですよね?」


「違うわよ、大人にとって酒は心の薬なの。マスター、もう一本ちょうだい」


「まだ飲むつもりですか?いい加減に……」


 私がそう言いかけた時、ラウンデル支部長が私を制しゆっくりと首を振った。


「いいのだ、彼女のことは……」


「でも……」


 何か事情はありそうだが、だからといって勤務中に飲酒など……


もういいこの人の事は放っておいて、私は私のことだけを考えよう。 


「ねえ、リアちゃん、酔っ払いは放っておいてここでの仕事を教えてあげる。


それじゃあ今日は私が村を案内するね、ついて来て」


 意気揚々と歩き始めるエレナ先輩、心なしかとても楽しそうだ。


 この極東支部があるペスカ村は面積が8.25㎢、人口324人という本当に小さな村だ。


 村の南部は【ブランウッドの大森林】と呼ばれる密林地域と接している。


この大森林は全長80㎞もあってゲドルマン帝国の首都、ベロリアまで続いているのだが


森には凶悪な魔物が住んでいる為に立ち入り禁止地域に指定されている。


 この村はゲドルマン帝国の最東端に位置している為、敵国であるロデリア連邦と国境を面しているのだが


戦略的価値がほとんどない為に過去に戦闘があったという記録は一度もない。


「リアちゃんにもこの村を好きになってもらえるといいな〜」


 気乗りしない私とは対照的にハイテンションで前を歩くエレナ先輩


だが案内するといっても見渡す限り農家と畑しか目に入ってこない。


「あの〜ちょっと聞いていいですか?エレナ先輩」


「なになに、何でも聞いて」


 目を輝かせ食い気味にグイグイくる先輩、正直この距離の詰められ方は少しウザったい。


「極東支部は一応軍の施設ですよね?それなのにどうして雑貨屋みたいな感じになっているのですか?もしかしてカモフラージュなのですか?」


「いや、そんな事ないよ。本当に雑貨屋として営業しているし


どちらかといえばそっちの方が本業かも。夜になるとバーとしてお酒も飲めるし」


 夜になると……って、昼間から飲んだくれている人がいたじゃない。いう言葉は口に出さずに何とか飲み込んだ。


「軍の施設が雑貨屋として営業っておかしくないですか?」


「う〜ん、言われてみればそうなのだけれど、まあいいんじゃない、本国の軍司令部からも何も言われていないみたいだし。


元々あの店は村にあった唯一の店だったのだけれど、前の店主さんが引退して後継者がいなくなったみたい


それで店を続けるという条件で雑貨屋兼極東支部という形で軍がそのまま引き継ぐ形になったという訳。


まあ軍の施設と言っても私とマスターとミランダの三人しかいないし


軍として普段やることも特にないから雑貨屋をやっていてもいいんじゃないかな?あの店があることで村の人も助かっているし」


 なぜ雑貨屋として営業しているのか?という説明を聞いたのだが、とてもじゃないが納得できるモノではなかった。


それにしても何という緩さだ、ある程度は覚悟していたものの、とんでもない所に来てしまったようだ。


 ゼナ騎士団長がどういうつもりで私をここに赴任させたのかはわからないが私にはこんな所で油を売っている時間などない、


一刻も早く白百合騎士団に復帰して母のような立派な騎士にならなくてはいけないのに……


「どうしたの、リアちゃん?お腹でも痛いの?」


「いえ、大丈夫です」


 どうやらまた顔に出ていたらしい、とりあえず誤魔化してはみたものの、ここでこの可愛らしい人に気を使う意味などあるのだろうか?


そんなことを考えていると、前方から牛を連れている農夫とすれ違う。


「おや、見かけない顔だね、もしかして新入りさんかい?」


「そうよ、今日入った私の後輩、すごいでしょ〜。名前はリアちゃんよ」


 何故か得意げなエレナ先輩。今の会話からして、村の人間とのコミュニケーションはとれているようだ。


「エレナちゃんもいよいよ先輩という訳か、でも大丈夫かい?」


「ちょっと何よ、それ、ベルさんは私が先輩として頼りないって言いたいの?」


「まあそこまでは言わないけれど……それにしても新人さんは中々の美人さんだね」


「そうなの、それに凄く強いのよ」


「へえ〜その若さで大したものだ、じゃあまた店に寄るよ、新人さんも頑張ってね」


 屈託のない笑顔で言葉をかけてくれた農夫のベルさん、今の何気ない会話をみてもこの村の暖かな感じが伝わってくる。


「ベルさんはね、親子三代で野菜を作っているのにあの牛はモー君っていうのよ。あそこの畑で取れるキュウリは絶品なのよ」


 何故か他人の作った農作物を自慢げに語るエレナ先輩。すると横の畑で農作業をしている中年女性に声をかけられる。


「エレナちゃん、採れたての大根持っていくかい?」


「ありがとう、いただきます。ついでに紹介するね、ミルおばさん。


私の横にいるこの可愛い子は何と今日来たばかりの私の後輩、リアちゃんよ」


「あれま、あの店の新人さんかい?随分と別嬪さんだね」


「へへ~ん、そうでしょう、それに凄く強いのよ」


「それは凄いね、じゃあ頑張ってね、リアちゃん」


 何故か初対面の人に〈ちゃん付け〉された私、先輩の手前一応会釈はしたが正直いうと私はこういうベタベタした感じはあまり好きではない。


私は基本的に不愛想であり子供のころから〈愛想がない、可愛げがない〉と言われ続けてきた


だがそんなことは少しも気にもしていなかった。剣の高みを目指すものにとってそんなモノ必要がないからだ。


むしろ私にとってその愛想の無さがいい面につながることが多い。


余計な気遣いをしなくて済むし無駄な人間関係に気を回す必要もなくなる


そして実年齢より年上に見られることも利点だ。客観的に見て私の容姿は優れているのだと思う


その理由として〈可愛い〉とか〈美人〉とかよく言われるからなのだが、他人による外見的な評価など私にとってはどうでもいいことだ。


今まで何人か男性に告白されたこともあるがハッキリ言って迷惑以外の何物でもなかった。


剣の強さに一番の価値を見出している私にとって自分より弱い男など検討にすら値しない、むしろ煩わしさすら感じていた。


 ここに赴任してきた唯一のメリットは〈人口の少なさによる人間関係から解放される事〉だと思っていたのだが


田舎ほどベタベタした人間関係が強いという噂は本当だったようだ。


 それからエレナ先輩は道行く人々に片っ端から私を紹介して回った


本来の目的は私に村を紹介してくれるはずだったのだが、私を紹介する為のお披露目会みたいになってしまった。


 そして村の最東端に到着する、小さな村なので店から村の端までもそれほど時間はかからなかった。


「この向こうがロデリア連邦ですか……」


「うん、一応ここが国境という事になるのかな」


 村とロデリア連邦との境には一応敷居のような柵が設けられてはいるのだが


それは戦争中である両国の国境とは思えないほどの簡易的な物であり、その気になれば簡単に乗り越えることができるだろう。


 ただ一点不思議に思ったのは国境を示す木製の柵の周りにはこれでもかというほどの青いバラが植えられていたのだ


戦時中の両国の国境というには似つかわしくなく、この村のイメージともかけ離れた不自然なほど無数に咲き誇る青いバラ


それが何を意味しているのかを知るのはもう少し先の話である。


「ロデリア連邦の兵士とは直接手合わせしたことはありませんが、どんな感じですか?」


 国境の向こうに見えるロデリア連邦の大地を眺めながら独り言のように呟いた。


「そんなに変わらないよ、同じ人間だもの」


「えっ、先輩はロデリア兵との戦闘を見たことがあるのですか?」


 思わず聞き返したが先輩は私の質問に答えることはなく遠くに見える高い山をジッと見つめていた。


しばらくの間、私も先輩も口を開く事なく、無言の時間が流れると


そんな空気を嫌ったかのように、先輩がいつもの明るい口調で話し始めた。


「じゃあ戻ろうか。ごめんね、色々連れ回しちゃって」


「いえ、軍の者として地域の住民とのコミュニケーションは大事ですから……」


 もちろんこれは口から出まかせである、一刻も早くこんな田舎から出て白百合騎士団に復帰したい私は


この場の話を合わせるためだけに微塵も思っていないことを口にした。


「そう言ってもらえると嬉しいよ、リアちゃんも早く村の人たちと馴染めるといいね」


 屈託のない笑顔で語りかけてくるエレナ先輩、この人には社交辞令とか人の言葉の裏とかは理解できないのであろう。


いい人なのは間違いないが少し心配になってきた、だがこの人ともそう長く関わることはないだろう……


この時の私はそんなことを考えていた。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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