白百合の祝福28
決戦の日の夜明け前、まだ辺りは暗く静まり返っている。
私達は夜の闇に乗じて敵の待つ城の近くまで接近していた。
この日は月が雲に隠れているせいもあり、視界が悪くまだ相手側の姿は見えない
向かう先には無数の松明の火と大勢の人の気配、そして凄まじい殺気が漂ってくるのを肌で感じる。
ピリピリとした緊張感の中、私達は息を殺して突撃の合図を待っていた。
ゼナおばさんを先頭にベゼッタ部隊長を始めとする白百合の手練れの騎士が続く。
先頭集団に最精鋭を並べ、相手陣形の中央を突破する事にある
私とエレナ先輩はこの精鋭達の後ろに控え、敵の首謀者ガバルディとの最終決戦まで力を温存する作戦である。
特にエレナ先輩は活動時間に限りがある為、無駄な戦いはさせられない
いざとなったら私も先輩を護衛するために戦うつもりでいた。
ミランダさんの加勢により幾らか勝利の確率が上がったものの分の悪い賭けであることは否めない。
だが私には確信があった。どれほど困難であろうとエレナ先輩をガバルディの前に連れて行くことさえできれば必ず勝てると。
「エレナ先輩、必ず勝って帰りましょう」
「うん、また女子トークしようね」
先輩は優しく返してくれた。役割的に先輩が一番重圧を感じているのではないか?と思い
緊張感をほぐすために、柄にもなく気遣いをしたのだが、エレナ先輩は案外リラックスしていて
逆に私の方が逆に励まされてしまう。
実は、今日の出発前にゼナおばさんから私とエレナ先輩にある物が手渡されていた。
「これは?」
「開けてみるがいい」
手渡された物の中身を見て私は驚きを隠せなかった。それは見事なまでの剣であった。
銀色に光り輝く刀身はとても美しく、芸術的なまでに鍛え上げられていて、ひと目見ただけで名のある刀匠の作った業物であることがわかる。
「この剣は一体?」
「それはローザの剣だ」
「母の?」
「ああ、この剣は〈もし私が先に死んだらこの剣をリアに〉と、ローザから託された物だ」
「そんな事が……」
私は言葉を失い、母の剣をじっと見つめた。
「実戦でいきなり慣れない剣を使うのはリスクではあるが、お前の持っている乱造品の安物より数倍切れるし折れにくいはずだ。
この剣はローザに合わせた特注品だが、今のお前ならば使いこなせるだろう」
手渡された母の剣の感触を掴むため数回振ってみると、驚くほどに手に馴染み
今まで使い慣れた剣よりもずっとしっくりきたのだ。剣を振るたび
ヒュンヒュンという耳障りのいい風切り音が実に心地いい
まるで高級な楽器が奏でるしらべのように、その鮮やかな音色は剣というよりタクトを振っているような錯覚さえ覚えた。
「ありがとうございます、この剣ならば負ける気がしません‼」
私が力強く答えるとゼナおばさんは満足げに頷いた。
「エレナにはこれを」
先輩に手渡されたのは、先輩がいつも使っている剣と同じ物に見えた。
だがよくみると普段使っている物と一点だけ違う点があった。それは刀の刀身部分だけが数枚入っていたのだ。
「何、これ?」
「普段エレナが使っている剣は刀身がメルファイン鉱だ、つまり軽くて切れ味がいい分非常に脆い。
いざ戦いの最中で刀が折れてしまっては戦うに戦えないからな」
ゼナおばさんはその剣を手にし、持ち手の部分と刀身部分を取り外して見せたのである。
「あっ‼」
私達が驚きの声を上げる中で、ゼナおばさんの説明は淡々と続く。
「この剣は持ち手部分、つまりつかの部分と刀身部分がアタッチメント式に取り替えができる使用になっている。
つまり刃が折れたら取り替え可能というわけだ、取り外しも簡単だから戦闘中の交換も可能だ。
しかしその分だけ以前より強度は落ちている、だが元々おもちゃ程度の強度しかなかった物だ
それが更に脆くなったとしても、大した欠点にはならないだろう」
〈大した欠点ではない〉と、さも当たり前のように言い切るが。剣の強度が下がるというのは結構重要なことだと思う
それにもかかわらず、この大事な戦いを前にして、相変わらず大胆な事を言う人だと思わず感心してしまった。
こうして私達は新しい剣を手にして運命の戦いへと身を投じる事になったのである。
突撃前の緊張感で心臓が高鳴る。団員全員がゼナおばさんからの突撃の合図を今か今かと待っていた。
そして次の瞬間、ゼナおばさんは腰の剣をスラリと引き抜き、右手に持った剣を天高くかかげた。
「いくぞ、皆の者。祖国の為、正義の為に我らは戦うのだ‼
クーデターの首謀者ガバルディのゲス野郎をぶち殺し、我々白百合騎士団の意地と誇りを見せてやろう
全軍、私に続け‼」
〈おおおーーー〉という歓声と共に、白百合騎士団全員が突撃を開始した。
団員の士気は最高潮に達し、闇を切り裂くように砂煙を上げながら大軍の待つ戦場へと切り込んでいく。
白百合の乙女達は全員が炎の矢となり、猛然と敵軍に向かって行った。
そんな白百合の決死の突撃を、敵軍の最後尾から冷ややかな目で見ている男がいた、ガバルディである
。筋骨隆々の巨体に、銀色の全身鎧を纏い、ジッと戦況を見つめている。
「馬鹿が。せっかく暗闇なのに、号令をかけたら突撃のタイミングがバレバレだろうが。
少数で大軍と戦うには奇襲戦法しかないのに。戦の仕方も知らねーのか?これだから女は」
もはや勝ちを確信しているかのように、白百合の行動を嘲笑い、愉悦に満ちた顔で呟く。
「自ら炎に飛び込む虫ケラども。愚かだねえ」
突撃する白百合の正面には、正規軍の兵約六万人が万全の態勢で待ち構えていた。
「全軍密集隊形をとれ、万が一にも抜かれるな。敵は少数だ、数で押しつぶせ‼」
戦前の予想通り、正義軍の兵が正面に槍を突き出し、突撃に備えた迎撃体制をとる。
その瞬間、ミランダがペロリと舌を出し静かに微笑んだ。
「熱烈な歓迎待っていたわよ、それじゃあそのお礼に、私から熱い思いを届けてあげる〈ナパーム エクスプロージョン〉‼」
ミランダの叫び声と共に、正規軍の中央に突然巨大な爆炎が舞い上がった。
薄暗い空間に真っ赤な炎が立ち上る。
その炎はまるで巨大な肉食獣のように、轟音と爆風を伴いながら、その場にいる人々をあっという間に飲み込んでいった。
しかもその爆発は一度にとどまらず、次々と連鎖しながら爆発し続けたのである。
「な、何だ?何が起こった⁉︎」
先ほどまで悠然と構えていたガバルディが思わず立ち上がる。
自身のいる最後尾まで、爆発による熱風と衝撃が伝わってきたのである。
怒号と悲鳴が入り交じり、明らかに混乱している正規兵達。予想外の展開に、何が起きたのかわからず困惑する。
「おい、何が起きた⁉」
ガバルディは思わず横にいる部下に問いかけるが、部下達も顔を見合わせたまま、首を傾げるばかりであった。
「わかりません、どうやら何かが爆発したようですが……」
「奴らが特別な爆薬でも使ったのでしょうか?」
「よくわかりませんが、もしかしたら魔法かもしれませんぜ?」
聞かれた部下達も、当然この事態を把握できるはずもなく
思いつく限りの答えを無理矢理述べたが、オロオロするばかりで明確な答えはできないでいた。
「馬鹿野郎、あんな威力のある魔法や、爆薬なんかあるわけねーだろうが‼」
感情のまま部下達に苛立ち混じりの声を上げる。険しい表情で再び戦場に視線を向けるとジッと考えを巡らせた。
「何をやりやがった、あいつら。最後尾にいるこいつらでさえこれほど動転しているのだ
爆発のあった現場辺りは、さぞかし混乱しているのだろうな」
目を細め、ジッと戦況を見つめるガバルディ。
一方それとは対照的に、ミランダは自分の魔法の効果を観察するように、上目遣いのまま笑みを浮かべると、嬉しそうに呟いた。
「アンタらのような脳筋馬鹿共には何が起きたか一生わからないでしょう。
何せ今の魔法は私の開発したオリジナルだからね。魔法対策もしていない人間が密集して待っているとか
魔道士にとっては〈殺してください〉と言っているみたいなモノじゃない。
まあその分この魔法は魔力消費も半端ないから、二発目は無理だけれどね」
ガバルディの不安は的中し、ミランダの魔法により甚大な被害を受けた正規兵は
命令系統もままならずに混乱していた。逆にそれを見て、ますます勢いづく白百合の団員達。
「今だ、敵が混乱している隙に切り込むぞ、私に続け‼」
騎士団長の号令と共に一気に突撃する白百合騎士団、混乱している正規兵の群れの中に
白い甲冑を身につけた軍団が切り込んでいく。
「よし、ここまで敵陣深くに入り込めれば、弓矢は使えまい。一気に奴のところまで行くぞ」
ゼナおばさんが独り言のように呟くと、再び剣を掲げ大声で鼓舞する。
「我が名はベルトラン・ゼナ、私と戦いたい奴は前に出ろ、苦しまないよう一秒であの世に送ってやる。
我々の狙いは逆賊ガバルディの首一つ、死にたい奴だけかかって来い‼」
混乱している正規兵にさらに揺さぶりをかける。この国でベルトラン・ゼナの名前を知らない者など存在しない。
敵は益々萎縮し、味方の士気は上がっていく。形勢は完全に我々に傾きつつあった。
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