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白百合の祝福26

〈勝機はある〉の一言で、皆の目つきが変わる。


「勝てる……と?」


「ああ」


強がりではなく確信のある表情で、力強くうなずく。


「一種の賭けになるが勝ち目はある。今回の首謀者ガバルディは、国王陛下と宰相閣下を監禁し


その名を使って好き放題に権力を使っているクソ野郎だ。


奴はとんでもない恥知らずで最低のゲス野郎だが、一つだけ認めてやってもいい点がある。


それは奴が必ず戦場に出てきて戦うという点だ、そこに我々の勝機がある」


 騎士団長の言葉を一つも聞き逃すまいと、真剣なまなざしで話を聞く団員達。


そんな彼女たちの期待に応えるべく説明は続いた。


「作戦としては、戦場においてガバルディを討ち倒し、奴等が動揺している隙に一気に城へと突入する


そして捕えられている陛下と閣下を奪還、救出して奴らの非道と我らの正当性を訴えてもらうのだ」


 作戦内容を聞いた団員達は再び〈おおーーー〉という歓声を上げた。


「なるほど、正規兵は国からの命令だと思って戦っているのだから


陛下と閣下が〈白百合の方が正義である〉と知らしめてくれれば、正規兵は敵ではなく味方になるというわけね」


「そうなれば立場は逆転し、我らが正義、そして奴等が逆賊になるじゃない」


「いける、いけるわ」


 希望が見えたことに湧き立つ団員達、だがゼナおばさんは険しい顔を崩さなかった。


「だが戦況は相当厳しい。モタモタしていれば奴らは全ての権力を手中に収め、クーデターは成功してしまう。


それにいつロデリア軍が攻めて来るのかわからない状況では時間的猶予は全くない。


一刻も早く奴らを倒し、国を正常な状態へと戻さなければならない」


 浮き足立っていた団員達の顔つきが一気に引き締まる。そしてゼナおばさんの話は続いた。


「奴らもそれをわかっているから、我らが来るのを手ぐすねを引いて待ち構えていることだろう。


ガバルディを討ち取るためには、まず正規兵約六万を突破し、奴のところに辿り着かなければならない。


かなりの困難が予想されるし、相当の犠牲が出るだろう。そして何とか辿り着けたとしても奴は強い。


姑息な奴の事だ、何か罠を仕掛けているかもしれないし、まともな勝負はできないかもしれない


おそらく一筋縄ではいかないだろう。だがそこで確実に奴を倒さなければ我々の未来はないのだ」


 厳しい状況を突きつけられ皆が息を飲む。そんな中で、部隊長が再び手を挙げた。


「では、ガバルディを戦場で討ち取る為に、我々は騎士団長を守りながら


何とか奴の元まで辿り着かせる事を最優先する、という事でいいのですね?」


「いや、ガバルディを確実に討ち取る為には、最強の者をぶつける必要がある」


 その意味深な言い回しに、団員たちは少し戸惑いを見せる。


「最強……とおっしゃいましたが、その言い方ですと騎士団長よりも強い剣士がいると?」


「ああ、入ってこい二人とも」


 ゼナおばさんに呼ばれた私たちは、複雑な気持ちで皆の前に姿を見せる。


特に団員に嫌われ追放されたエレナ先輩の心中は複雑だろう。うつむいたままバツが悪そうに登場する。


予想通り私たちの姿を見た団員達は、驚きを隠せない様子だった。


「お前らは、ミュンヘルト・リアとベッカー・エレナ……どうしてお前らが」


 思わぬ展開に動揺し、ざわつく団員達。


「この二人の事は知っているな、今回の任務に適任と判断し、私が呼んだ。


そして皆に一つ説明しておくことがある。ここにいるベッカー・エレナの名前は本名ではない。


本当の名はベルトラン・エレナ、つまり私の娘だ」


 先ほどよりもさらにざわつく一同、誰もが動揺を隠しきれず、信じられないといった表情でこちらを見ていた。


中でも一番信じられないといった表情を浮かべていたのは、エレナ先輩本人だった。


びっくりした様子で母親であるゼナおばさんの顔をマジマジと見つめている。


なにしろ今まで、エレナ先輩の素性は国家の最重要機密であり


ゼナおばさんとの親子関係はひた隠しにされてきたのだ。


それなのに団員が全員いる前で、堂々と打ち明けたのである。エレナ先輩の驚きたるや相当のものなのだろう。


「エレナが騎士団長の娘……それは本当なのですか?」


 ベゼッタ部隊長の質問にゼナおばさんは小さくうなずく。


「ああ、本当だ。エレナの素性は色々な事情で明かせなかったのだがここにきてもう隠す必要はあるまい。


皆も知っての通り、ここにいるエレナとリアの強さは本物だ


特にエレナは子供の頃から私が剣を叩き込んでいるから実力は私が保証する


はっきりいって全盛期の私より強いだろう。リアも白百合にいた時より数段強くなっている


ハッキリ言って今のリアならば一人でもガバルディを倒せるだけの力がある」


 ゼナおばさんからエレナ先輩と私の強さに太鼓判を押され、また〈おおーーー〉という歓声が上がる。


「だが、エレナには体力的なこともあり、長時間戦えないという事情がある。


だからエレナには体力温存の為に、ガバルディとの最終決戦までは戦わせない。


つまり我々全員でエレナとリアを守りながら進み、必ずガバルディの前に連れていく、というのが今回の作戦だ。


正直苦しい戦いになるだろうし、かなりの犠牲が予想される


だが二人をガバルディの前に連れて行くことさえできれば、必ず奴を討ち取ることができる。つまり我々の勝ちだ‼」


 団員達から怒涛のような歓声が上がる。絶望的な状況から一筋の光明が見えたからだ。


しかしいくら士気が高かろうと、それで戦いに勝てるというわけではない。


正規兵六万人を突破しなければガバルディの元へは辿り着けないのだ。


相手がこちらを待ち構えている以上、奇襲戦法は使えない。


真正面からぶつかり、食い破るしかないのだ。


基本的に戦いとは数の勝負である、二千五百人VS六万人 どちらが有利か、子供が考えたってわかる図式だ。


「作戦の決行は明朝、日の出前に仕掛ける。各自それまで休息を取っておくように、以上だ」


 団員達は騎士団長の命令に従い、各自休息を取る。さすがはゼナおばさんが鍛え上げた精鋭達


誰もが落ち着いており、静かに決戦の時を迎えようと腹が決まった様子だ。


夜になり、私たちを含め皆が目を閉じ休んでいた時、外から微かに音が聞こえてくる。


どうやら馬が近づいてきているようだ。


「追っ手か?」


 休息していた団員達はすかさず立ち上がると、剣に手をかけ戦闘準備に入る。


皆が慌てて外へと出ると、一台の荷馬車が近づいてきているのが視界に入ってきた。


「一台?一体何だ……」


 緊張感が高まる中、遅れて出てきたゼナおばさんは笑みを浮かべ、独り言のように呟いた。


「ようやく来たか」


 その言葉の意味はすぐにわかった。段々と荷馬車が近づいてくると荷馬車の上から手を振る人間が見えて来る


そしてその人物は私たちの知っている人間だった。


「おーーい、お待たせ、敵じゃないから攻撃するなよ」


 緊張感のかけらもない声でこちらに呼びかけてきていたのはミランダさんであった。


「ミランダ?」


「ミランダさんがどうしてここに?」


 呆気にとられる私たちを尻目に、にこやかに手を振って近づいてくるミランダさん。


その緊張感の欠片もない言動に、一瞬で皆の肩の力が抜けた。


「ミランダの方には私から連絡を入れておいた、白百合に謀反の疑いが着せられれば


必ず店の方にも手が回るはずだからな」


「もしかして、あの時の伝書鳩は、ミランダさんに向けてのモノだったのですか」


 私の質問に小さくうなずく。さすがはゼナおばさん、抜け目がない。


「お待たせ、急な呼び出しだったから馬車の手配に苦労したのよ。


言われた通り店にある食料と回復系のポーションは全部持って来たわよ


全部積み込むのは本当に大変だったのだから」


 若干キレ気味に訴えかけてくる。こんな状況にも関わらず相変わらずの態度で何だかホッとしてしまう。


「無理を言って悪かったな、ミランダ」


 ゼナおばさんが彼女を労うように右手を差し出すと、それに応えるようにミランダさんも右手を差し出した。


「本当よ、貸しはきっちり返してもらうわよ、ゼナ」


 不思議な信頼感でつながっているのか、妙に親しげな二人。


がっちりと握手を交わし、笑みを浮かべる両社の姿には、どこか心温まるモノを感じた。


「昔から〈空腹の戦いは負けにつながる〉というからな、皆今のうちに腹に何か入れておけ。


戦いになれば食べる暇などないだろうからな。そして各自体力回復系のポーションを携帯しておくように。


治癒系ではないから傷の回復はできないが、明日は長い戦いになるからな」


 緊急に集められ、そのまま首都を脱出した為、朝から何も食べていなかった団員達は


ミランダの持ってきた食糧を黙々と食べ始める。文字通り最後の晩餐になるかもしれない食事を貪るように食べ進め


腹へと詰め込んでいく、その姿は可憐な乙女というより野生の獣を思わせた。


ゼナおばさんはそんな団員達の姿を温かい目で見つめている。そこにミランダさんが近づき小声で問いかけた。


「それで、どんな感じ。勝てそうなの?」


「正直かなり厳しいな、戦場でガバルディとの一騎打ちに持ち込めれば勝ち目は十分にあるが


その前に六万の正規兵を突破するのは至難の業だ、確率的には一割にも満たないだろう」


 冷静かつ的確な状況分析に、ミランダさんの表情が曇る。


それほどまでに分の悪い賭けとわかっていて、部下たち共々そこに身を投じなければならない苦しさが嫌でも伝わってきた。


ミランダさんは目を閉じ、大きくため息をつくと、両手を腰に当て話し始めた。


「ハア、仕方がないわね。じゃあ私が手を貸してあげるわ」


 それを聞いたゼナおばさんは驚きの表情を浮かべた。


「どういう風の吹き回しだ〈勝てない戦いはしない〉というのが、信念だったはずだが?」


「まあね、アンタらの熱に当てられちゃったかな。それにエレナは私の妹みたいなモノだから……」


目を細め、愛おしげな眼差しでエレナ先輩を見つめる。小声で話しているので二人の会話は私たちには聞こえてはいない。


「今回我々に加勢するということは、おそらく死ぬぞ」


「しょうがないわね、あんた達親子に関わったのが運の尽きだったという事よ。それに……」


 ふと視線を逸らすようにうつむき、つぶやくように言葉を発した。


「ここであんた達を見捨てたら、多分私は一生自分の事を許せないと思うから……」


 その短い言葉にミランダさんの思いが詰まっていた。


「損な性格をしているな、お前は」


「あんたら親子ほどじゃないわよ」


 笑みを浮かべながら話すゼナおばさんに皮肉っぽく返すミランダさん。


だが二人の表情はどこか嬉しそうにも見えた。


「だからさっさと仲直りしなさいよ、あんたら親子の面倒はもう見切れないから」


「ああ、面倒をかけたな」


 立場上普段から気を張り詰めているゼナおばさんだがミランダさんの前でだけは本音を語っているようにも見えた。


そしてそのまま〈パーン〉と大きく手を叩き、皆の注目を集める。


「皆、食事しながらでいいから聞いてくれ。今回ミランダが加わってくれたことで作戦を少し変更する」


 皆の食事をする手がピタリと止まりゼナおばさんに視線が集まる。


「今回、我々は夜明けと共に城へと突撃する。


目的は今回のクーデターの首謀者であるガバルディを戦場にて討ち取り


監禁されている国王陛下と宰相閣下を奪還、救出することにある。


だが相手側にも我々の狙いはバレているだろうから万全の態勢で待ち構えているはずだ」


 一瞬で皆の表情が強張る。そんな重苦しい空気を察したのか、ミランダが割って入るように質問をぶつける。


「で、相手側はどんな布陣で待ち構えていると思うの?」


「おそらく、我々の突撃に対し、突破されないように縦深陣による密集隊形を敷いてくるはずだ。


数による戦力差を最大限に活かすには、この作戦が最も有効だからな」


 その説明を聞いたミランダさんはサディスティックな笑みを浮かべ、ペロリと舌を出す。


「いいじゃないの。魔法対策もしていない兵士が無防備なまま密集しているとか


魔道士にとって格好の的よ。お行儀よく待っている兵隊達に、ド派手な魔法をプレゼントしてあげるわ」


 悪魔的な笑みを浮かべるミランダさんに団員達は頼もしさを覚えるが、同時に少し背筋が寒くなった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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