白百合の祝福22
国内最強と言われているこの男が、そこまでしないと私に勝てないと判断した事がとても誇らしく
湧き上がる興奮を抑えきれない。そして数日の間に、ここまで成長させてくれた
エレナ先輩の強さを改めて認識する事になる。
しかし、それと勝負は別である。〈負けてもいい勝負などない〉これが私の持論である。
ましてやこの戦いはエレナ先輩の未来にも影響するのだ。
私は相手に対し半身の構えを取り、重心を低く落とした。
私の持っている技の中で最大の技【破砕列波流奥義 五月雨】
相手が捨て身で来る以上、こちらもその覚悟に応えなければならない。
防御など捨てて、全ての思いを剣先に込め、魂ごと相手に叩き込むのみである。
二人は構えをとりながら互いに睨み合う。異様な殺気が辺りを満たし
不気味なまでの静けさが、その後にくる嵐を予感させた。
アドレナリンが体内を駆け巡り、自分の心臓の音すら聞こえてきそうだ。
もはや相手の姿以外、何も見えない、何も聞こえない。真っ白な空間の中に私達だけが存在しているかのような錯覚
そんな緊張感が高まる中で私とシュナイゼルは示し合わせたかのように同時に動いた。
シュナウゼルの放った一撃は唸りを上げ、もの凄い速度で振り下ろされる
それは怒り狂ったドラゴンが、口を開けて襲い掛かってきた錯覚さえ覚える凄まじい一撃。
それに呼応するように私も自身の全てを賭け、神すら粉砕するつもりで一撃を放つ。
互いの誇りと尊厳をかけた一撃が空中で交差する、そして次の瞬間勝負はついた。
「ぐああああああ‼」
私の左肩に凄まじい激痛が襲う、シュナウゼルの木剣が、私の左の肩口に食い込むように直撃していた。
私は思わず手にしていた木剣を地面に落とし、膝から崩れ落ちる。
ふと見上げると、シュナウゼルはジッと私を見下ろしていた、だが【大聖剣舞祭】の時のような余裕は微塵も感じられない。
大量の汗をかき、激しく息を乱している、頬がざっくりと切り裂かれ、血が噴き出しているところを見ると
私の一撃は寸前のところで交わされたようだ。自分が負けた事を認識した瞬間、再び激しい痛みが襲ってくる。
左肩はもう全く感覚がない、激しい痛みと左肩がやたら熱いという事しか感じることができなかった。
「勝負あり‼大丈夫かリア」
支部長が心配して私に駆け寄って来て、一撃を食らった私の左肩の様子を見てくれた。
「痛っ」
少し触られただけで激しい痛みが走る、自分でもわかる、これは相当の重症だろう。
だが考えてみれば、シュナウゼルの奥義を食らって、生きているだけでも幸運と言えなくもない。
「これはいかんな、鎖骨から左肩の骨が砕けている。おいミランダ、早く治癒魔法を……」
その時、考えるより先に、反射的に叫んだ。
「待ってください‼」
皆が驚いたようにこちらを見る。
「まだ終わっていません、私はまだ負けていませんよ」
私の発言に支部長はおろか、対戦相手のシュナウゼルまでもが驚きを隠せない様子だった。
「何を言っている、リア。お前の左肩の骨は砕けているのだぞ?そんな体で戦えるわけがないだろうが」
「そんな事はありません、支部長は言っていましたよね?勝敗はどちらかが動けなくなるか、負けを認めた場合だと
私はまだ動けますし、負けを認めてもいません、だから続行です」
私は地面に落とした木剣を右手で拾い上げると、それを杖代わりにして何とか立ち上がる。
激しい痛みで意識を保つのがやっとであり、左手も使えない
戦うどころか立ち上がるのさえやっとという状態では、万に一つも勝ち目が無いだろう。
だがそうせざるを得なかった。体が〈もう無理だ〉と訴えてきても、意志が体を突き動かす。
そんな私の鬼気迫る姿に、支部長は言葉を失い、唖然としていた。その時である。
「後は私に任せて」
私の背中を軽く叩き、そっと耳元で囁くエレナ先輩。
「ちょっ、ちょっと待ってください‼」
慌てて引き止めようとしたが、左手が動かないので、手を伸ばそうにも体が動かない
「ごめんね、リアちゃん、今のリアちゃんならば勝てるだろう、と思って無責任にけしかけてしまって……
だから責任は取らせて」
エレナ先輩はシュナウゼルの方を真っ直ぐ見つめながらそう言った。
その力強い眼差しと、強い意志を感じさせる表情、〈先輩は全力で戦うつもりなのだ〉とこちらに伝わってくる。
「待ってください、エレナ先輩。全力で戦ったら、先輩の体は……」
そう言いかけた時、先輩は右手の人差し指をそっと私の口に当て、ゆっくりと首を振る。
「いいのよ、今の戦いでリアちゃんの思いも、彼の意志も見せてもらった。
ここで戦いをうけないのは騎士道に反する。そうだよね、リアちゃん?」
普段、騎士道とか口にしない先輩があえてここでその言葉を使った
そういえば私が反論できない事を知っているからだ。この人のこういうところは本当にずるい。
そしてどうしようもなくこの人に憧れ、好きになってしまうのだ。
先輩は再びシュナウゼルの方を真っ直ぐ見つめ毅然とした態度で言い放った。
「私はいつでもいいわ、少し休憩してから戦う?何ならミランダに回復魔法を使ってもらってもいいわよ」
シュナウゼルと対峙したエレナ先輩はあくまで自然体のまま、相手を気遣うような言葉を口にした。
私とは違い、それがハッタリでも虚勢でもなく、絶対的な自信からくる本心である事は言うまでもない。
エレナ先輩が全力を出すならば、この戦いにおいて負ける事はないだろう。
なぜならば、曲がりなりにも私とシュナウゼルは互角に戦えた
そこから比較すると、正直エレナ先輩がシュナウゼルに遅れを取る事は考えられない。
だがこれはそういう問題では無いのだ。私がそんな事を考えていた時
シュナウゼルは突然目を閉じ、ゆっくりと首を振った。
「いや、止めておこう。今の会話から察するに、貴様には何か戦えない理由がある、そうなのだろう?」
シュナウゼルの問いかけにエレナ先輩は答えなかった。瞬きもせず無言のまま、真っ直ぐシュナウゼルを見つめているだけである。
エレナ先輩から明確な返事がもらえないと悟ったシュナウゼルは
師である支部長へと視線を向け、目で訴えかける。支部長はそれに応えるかのように無言のまま小さく頷いた。
「貴様が万全の体で戦える時まで、勝負は預けておく」
全てを悟ったシュナウゼルが勝負を預けるという形で幕を引いた。
先輩が戦わずに済み、安心感で全身の力が一気に抜ける。
その反動か、左肩の激痛を思い出し、一瞬気が遠くなる。
「エレナちゃん‼」
意識を失いかけ、倒れかかった私を、エレナ先輩が全身で支えてくれ、支部長も慌てて駆け寄ってきてくれた。
「ミランダ、早く治癒魔法を‼」
「わかったわよ、待っていなさい。ヒールブレッシング」
面倒臭そうに杖を私の左肩に近づけ、目を閉じながら魔法を放つと
私の周りに青白い光の玉がいくつも発生する。
精霊たちの加護により、私の左肩が青白い光に包まれると、みるみるうちに痛みが引いていった
そして、一分もかからない時間で完全に回復できたのである。
「これが魔道士による治癒魔法ですか、初めて経験しましたが、凄いものですね」
初めて味わった、魔法という不思議な力をこの身で体験し、感慨に耽っていると
ミランダさんが不服そうな表情でこちらに近づいて来る。
「言っておくけれど、これだけの大怪我をこんな短時間で治せるのは私ぐらいなのよ
魔法が凄いのではなくて、私が凄いの。そこのところを忘れないでよ」
言いたい事を言ったせいなのか、少し得意げな表情を浮かべていた
先日の大魔法を見てもわかるのだが、この人が凄い魔道士である事は疑いようもない
世間で言う大魔道士と言われる類の人物なのだろう。
だがこういった発言が、やや小物感を感じさせてしまい、結果的に自分を貶めているのでは無いだろうか?
と思ってしまった。とはいえ彼女のおかげで、大怪我が全快したのは事実である
私は素直に感謝の気持ちを伝えた。
「ええ、わかっていますよ。本当にありがとうございます、ミランダさん」
素直に感謝の意を告げ、丁寧に頭を下げると、彼女はなぜか照れ臭そうに横を向いた。
「わかればいいのよ、わかれば……」
こちらに聞こえるかどうかの小声で呟いている。十歳以上も離れた大人の女性に対して
こんな言い方は不適切なのかもしれないが、私がこの時抱いた印象は〈この人思ったよりも可愛い性格をしているな〉というものであった。
そんな時、シュナウゼルが真剣な表情で、再び私に近づいて来きて、口を開く。
「改めて聞きたい、お前の名前は?」
「私の名はミュンヘルト・リアです。いいかげん、覚えなさい」
この男の前で名乗るのは何度目だ?それだけ私の事を、認識する価値もない雑魚だと思っていたのだろう。
そして、私に対する呼称が〈君〉から〈お前〉になっているのも、益々怒りに拍車をかけた。
「ああ、そうだったな。だが安心しろ、もう二度と忘れん」
私を睨むように言葉を発するシュナウゼル。この時、私は不覚にも嬉しく感じてしまった。
そんな中で、私の肩に手をかけながら、顔を横に近づけてきたエレナ先輩。
そしてニヤリと笑うと、シュナウゼルに対し、なぜか得意げに言い放った。
「強かったでしょ、私の相棒は」
結果的に敗れてしまった私の事を、まるで自慢するかのような先輩の発言に、少し戸惑いを覚えるが
シュナウゼルは目を閉じ小さく頷いた。
「ああ、強かった。貴様に事情があって戦えないと言うのならば
私の標的はお前に変更することにした。私はもう【大聖剣舞祭】には出場しないつもりだったが
来年もう一度出場することにする。ミュンヘルト・リア、お前も必ず出てこい。
それほどの腕を持っていれば、私以外の者に遅れを取ることはなかろう
今日の戦いは、私にとっても、やや不本意なところもあった【大聖剣舞祭】の舞台で決着をつけようではないか」
国内最強と呼ばれる男からの挑戦状ともとれる発言に、私の心はかつてないほどに興奮していた。
何もできずに敗れた前大会の後、悔しくて、情けなくて、流した涙が今、報われた気がした。
しかし知っての通り私は異常なまでの負けず嫌いである、興奮と嬉しさを必死で隠し精一杯、平常を装い返した。
「そこまで言うのならば、出場してもいいですよ。あなたこそ、私に当たる前に、負けないでくださいね」
私の言葉を受けたシュナウゼルは、何も言わずにフッと微笑むと
クルリと背中を向けて、本国へと帰っていった。突然現れ、どこまでも強さに執着し、すべてを察して去って行った。
今、考えると、シュナウゼルが大勢の女性に、絶大な人気を誇っているのもわかる気がした。
もちろん私にそんな気持ちは微塵もない、私にとって、あの男はあくまで敵であり、ライバルの一人にすぎない。
私が憧れ、目標にしている剣士は一人だけなのだから……
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