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白百合の祝福20

「コラコラ、二人ともそんな喧嘩腰では衝突するだけだろうが。


で、今日お前がここに来た要件は?またエレナに会いに来たのか?」


 支部長の言い回しが引っ掛かる。また会いに来た?この男がエレナ先輩に?


その意味深な言葉と、エレナ先輩の態度から察するに、シュナウゼルがここに来たのは一度や二度では無いみたいだ


しかし両者の様子から、愛の告白をしに来たのでは無さそうだが。一体何が……


 そんな私の疑問をよそに、シュナウゼルは自分の気持ちを抑えるように大きく息を吐くと、支部長に伝えた。


「いえ、今回は司令部から先生への軍令を伝えに来ました。


〈今後の対策を含めた会議を開くので、至急本国に戻られたし〉とのことです」


 シュナウゼルからの伝言に、支部長はゆっくりと頷いた。


「わかった、明日にでも本国に行くと伝えてくれ。だがそんな事を伝えるためだけに


わざわざ騎士団長であるお前が来ることはなかっただろうに」


「いえ、先生への軍令を私が伝えにくるのは当然です」


「そうか、ありがとう」


 やれやれとばかりに少し困ったかのような顔を見せたが、少し嬉しそうに口元を緩める支部長


そんな支部長の態度にシュナウゼルも満足げだ。だがそんな空気をぶち壊すようにエレナ先輩が口を開いた。


「用件が済んだのならば、さっさと帰りなさいよ」


 辛辣な先輩の発言に、シュナウゼルの顔が再び険しいものへと変わる。


何だ、この険悪な雰囲気は?普段人当たりのいい先輩がこのような発言をするのはただ事じゃない。何なのだ?


「確かに私の騎士団長としての使命は済んだ。


だからここからは一人の騎士として発言させてもらう。今日こそは私と勝負しろ‼」


 シュナウゼルは腰の剣をスラリと抜くと、その剣先をエレナ先輩に向け言い放った。


「アンタもしつこいわね、勝負なんかしないって何度も言っているじゃない」


 やる気満々のシュナウゼルとは対照的に、うんざりした表情でやや食傷気味に返すエレナ先輩。


そうか、この男は先輩に勝負を挑みに来ていたのか……


「どうして勝負を受けない、私が一人の騎士として正々堂々と勝負を挑んでいるのだ


貴様は騎士としてそれを受ける義務があるだろう‼」


「何よ、その意味不明でメチャクチャな理屈は?そもそも私は騎士じゃないし」


「嘘をつけ、騎士でない者があれほど強いわけがないだろうが


私は貴様と戦いたくて、毎年【大聖剣舞祭】に出ていた


だが三年待っても貴様は出てこなかった。だからその日が来る事を信じて己の剣を磨き研鑽を重ねてきたのだ。


ここで偶然貴様に会えたことは女神様のお導きだろう、だから貴様には私からの勝負を受ける義務があるのだ‼」


 よくわからない理屈を一方的にぶつけるシュナウゼル。だがその熱い信念というか、執念だけはこちらにも伝わって来た。


「まあ落ち着けシュナイゼル。そんな一方的な喧嘩腰口調では相手も納得できないだろう


エレナも困っているじゃないか」


 二人を仲裁するように支部長が割って入るが、シュナウゼルはその鋭い視線を今度は支部長に向ける。


「先生、無礼を承知で言わせていただきますが、先生は私が昔からこの女を探していて


戦いたがっていたことを知っていましたよね?まさか先生の元にいたとは驚きましたが


どうして私にそれを教えてくれなかったのですか」


 恩師である支部長に対して、苛立ち混じりの言葉と、思いをぶつけるシュナウゼル。


この男にとって、エレナ先輩と戦うということは、己の誇りと尊厳をかけたものなのだろう。


正直この男の事は好きにはなれないが、騎士としてその気持ちだけはわかる気がした。


でもどうして我が国最強の剣士であるこの男が、これほどまでに先輩と戦いたがるのか?


その疑問だけが頭に引っかかった。


「おいおい、俺に噛み付くな。エレナの事は極秘事項になっていると前にも説明しただろう。


いくらお前が相手でも軍の機密は漏らせない。軍に身を置くものであれば、そのぐらいはわかっているだろう?」


 支部長は愛弟子相手に、なだめるように説明するが、シュナウゼルの方はどうにも納得できていない様子であった。


「先生のおっしゃることはごもっともです。でも俺は……」


 両拳を握り締め、唇を噛み締めるその姿は、己の感情を必死で抑えているように見えた。


複雑な思いを抱えながら、先輩との戦いを熱望するシュナウゼル、それに対し


やや引き気味で呆れ顔を浮かべるレオナ先輩。この二人に何があったのか?私は、こっそりと支部長にてみる。


「支部長、この二人には、過去に何かあったのですか?」


 無言のまま睨み合う二人を尻目に私は支部長に近づき、小声で問いかけてみると


支部長は苦笑いを浮かべながら答えてくれた。


「シュナウゼルの【金獅子騎士団】での初陣は五年前なのだ……」


「五年前……ということは」


「ああ、例の【バネットガランの戦い】だ。俺の金獅子騎士団長としての最後の戦いであり


エレナのおかげで我が国存亡の危機を免れた、あの戦いだ」


 ようやく話が見えてみた。ロデリア軍の大軍の前に、大苦戦を強いられていた金獅子騎士団は


助っ人として駆けつけたエレナ先輩の獅子奮迅の活躍によって敵を撃退できた。


だが、軍の意向でエレナ先輩のことは秘密にされてしまった為、世間的には


〈全て金獅子騎士団の活躍で国を守れた〉ということになっている。


手柄を譲られた形の騎士達にとって、大変な屈辱だったと聞いた。


その騎士達の中に、若き日のシュナウゼルもいたのだ。


戦場でエレナ先輩の、鬼神の如き強さを目の当たりにしても尚、己の誇りと騎士としての尊厳を取り戻すために


ひたすら剣を磨き上げ、エレナ先輩と戦う事をだけを夢見ていたのだろう。


【大聖剣舞祭】では、圧倒的な強さを見せつけ三連覇を果たしながらも


この男は笑顔一つ見せなかった。強さを追い求め、どことなく人を寄せ付けない雰囲気が


〈孤高な剣士〉というイメージを植え付け、人々から羨望と尊敬を集めた。


その根源には〈エレナ先輩と戦い、勝って己の誇りを取り戻す〉という、並々ならぬ決意があったのだ。


同じ騎士としてその気持ちはよく理解できる。


だがエレナ先輩にしてみれば、向こうが勝手にそう思っているだけであり


目の敵にされるのは単に有難迷惑でしかないだろう。


大体、シュナウゼルの思いを受け止め、本気で戦えば、自分の寿命が縮んでしまうし


いつものように回避のみで対応すれば、余計に相手のプライドを傷つけてしまう事になるからだ。


つまりエレナ先輩にしてみれば、シュナウゼルと戦うことはデメリットでしかないのである。


それがわかっているから支部長もシュナウゼルの気持ちを知りながらもエレナの事は話せなかったのだろう


全てがつながり、ようやく理解はできた。だが私の心の中のモヤモヤが消えたわけではない。


理由はどうあれ、シュナウゼルが私の事を〈とるに足らない雑魚〉と認識し、忘れていた事に変わりはないのだ。


だが二人の問題に私が口を挟める余地はない。己の力の無さのせいで、完全な部外者となっている


今のこの現状がとにかく悔しい。


「どうしたの、リアちゃん?」


 また気持ちが態度に出ていたようだ。私の様子を察したエレナ先輩が、声をかけてきた。


「いえ、別に……何でもありません」


 〈自分を忘れられていることが悔しくて、シュナウゼルを睨んでいた〉などと、言えるはずもなく


咄嗟に誤魔化すが、エレナ先輩は目を細め、ジッと私を見つめて来る。


「私とリアちゃんは背中と命を預ける相棒同士だよね?そんな私にも言えない事なの?」


 私は思わず言葉に詰まった。


「ずるいですよ、そんな言い方されたら、言わない訳にはいかないじゃないですか」


「じゃあ話してよ」


 それが当然とばかりに、あっさりと言い放つ、この人のこういうところは本当にずるい。


「じゃあ、話します……」


 渋々ながらも、流れで自分の思いを話すことにした。流石にシュナウゼルには聞かせたくはないので


先輩の耳元に近づき、小声で伝える。


「私は【大聖剣舞祭】で彼に負けているのです。


ですがこの男は私の姿を見ても、名前を聞いても、私の事を全く覚えていなくて……それが、その……悔しくて……」


 本来の私は、こんな事を他人に話せるような人間ではなかったのだが


この人にだけは包み隠さず、思いの丈を話した。


これが人間として成長した証なのか、心が弱くなったせいなのかはわからない、


だが私自身が確実に変わっていっている事を改めて自覚した。


「そうなんだ……ふ〜ん」


 私の話を聞いても、特に大きなリアクションを取るでもなく、含みのある表情を浮かべながら、何かを考えていた。


そして、何か思いついたのか、突然私に背中を向けて


無視を決め込んでいたシュナウゼルの方に振り向くと、淡々と言い放った。


「わかったわ、そんなに言うならば勝負してあげる」


 その言葉が意外だったのか、シュナウゼルは一瞬あっけに取られたような表情を見せたが


すぐに気を取り直したのか、目をぎらつかせてニヤリと笑った。


「ようやく貴様との勝負ができるのだな。こちらは今すぐにでもいいぞ、勝負の場所は……」


 念願の勝負が叶い、もう待ちきれないといった様子のシュナウゼル。


だが本当にいいのだろうか?先輩にとって、この勝負にメリットなどないはずだが……


 私がそんな事を考えていると、エレナ先輩はチラリとこちらを見た後、再び口を開いた。


「ただし、勝負するには一つ条件があるわ、まず私の相棒であるこのリアちゃんと戦って


勝てたら勝負してあげる。それが勝負する条件よ」


 突然、訳のわからない事を言い出した、あまりに突然で、シュナウゼルよりも私の方が唖然としてしまった。


頑張って毎日投稿する予定です。少しでも〈面白い〉〈続きが読みたい〉と思ってくれたならブックマーク登録と本編の下の方にある☆☆☆☆☆から評価を入れていただけると嬉しいです、ものすごく励みになります、よろしくお願いします。

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