白百合の祝福2
三日後、私は馬車に乗って極東支部へと向かった。極東支部は我が国の最東端である小さな村にあり
正直なところ戦略価値などほとんどない地域に存在している。
過去にもこの支部で戦いがあったという記録はない、つまりはわかりやすい左遷先という訳である。
「ここよね……」
私は渡された辞令書と地図を片手に極東支部へと訪れたのだが、そこにあったのは雑貨屋のような店であった
周りは畑ばかりでそれっぽい建物もない。仕方がないのでこの店で聞いてみることにした。
扉を開けると〈カランコロン〉という音がする。
「すみません、ちょっと聞きたいのですが……」
中に入ると店の中は思ったより広く、色々な日用雑貨が置かれていた。
飲食業も営んでいるのか三席あるカウンターでは一人の女性が何かを飲んでいる。
「いらっしゃい、何かお探しで?」
奥から一人の中年男性が出てきた、おそらくここの店主なのだろう。
背は低いがガッチリとした体格に鋭い顔つき、おそらくは元軍人なのだろう。
なぜ元軍人だと推察したかといえばその男性には左腕がなかったからである。
「ああこの腕ですか、昔、戦でね……」
私の態度と視線で気が付いたのだろう、店主と思しき男性は左腕の部分をさすりながら説明してくれた。
どう言っていいのか、私が返答に困っていると、その沈黙がどこか気まずい空気となってしまう。早く何か言わなくては……
「すみません私は客ではないのです、実は国軍の極東支部を探していまして、地図ではこの辺りだと書いてあるのですが……」
バツが悪くなった私は慌てて要件を話すと意外な答えが返ってきた。
「ここが極東支部ですよ」
「は?」
私は一瞬自分の耳を疑った、いくら戦略価値のない地域の支部だとしても一応は軍の施設のはず
だがここは明らかに雑貨屋にしか見えなかったからだ。
私は茫然としたまま言葉を失っていた。その時、〈カランコロン〉という扉の音が聞こえてきて誰かが入ってくる。
「マスター、ノゲルさんがこんなにリンゴをくれたよ」
入ってきたのは小柄な少女だった、紙袋いっぱいに入ったリンゴを持ち嬉しそうに笑っている、ここの店員か?
見たところ私より二、三歳ぐらい年下のようだが、ここが軍の施設というならばこんな少女が勤めているのはおかしい、近所の農家の娘さんだろうか?
私がそんな事を考えているとその少女は店の商品につまずき前のめりに転んだ
その衝撃で手に持っていたリンゴが一斉に店の床に転がる。
「うわあああ~やっちゃった」
慌てて立ち上がり急いでリンゴを拾う少女、私の足元に転がってきたリンゴも素早く拾い上げると、ふと視線を上げ私と目が合う。
「マスター、この人はお客さん?あまり見ない顔だけれど」
「いや、どうやら軍の施設に用があるみたいだが、俺にもわからん」
二人の会話を聞いて我に返った私は慌てて直立し敬礼をした。
「申し遅れました、私は元白百合騎士団所属 ミュンヘルト・リアと申します。
本日付けをもってこの極東支部に配属になりました、よろしくお願いします」
「は?」
「へ?」
二人は驚きを隠せない様子で不思議そうにこちらを見ている
私がここに転属になるという辞令はすでに届いているはず。何だ?私何か変なこと言ったかな?
「ああ〜そういえば昨日軍本部から手紙が来ていたわよ〜」
カウンターに座っていた女性が一枚の手紙を持ってブンブンと振りまわしている。
ていうかこの人もここの支部の人だったのか?カウンターに座って何かを飲んでいたのでてっきり客かと思っていたのだが。
「こら、ミランダ‼︎そういう事は早く言え」
「だから今、言ったじゃない」
男性が奪い取るように手紙をつかむと急いで中を確認する。
着任一日目から何だかとんでもない事が次々と起きている、どうやら私が想像していたよりずっとおかしな所のようだ。
「確かに、君の着任指令が書いてある。悪かったな、色々と。
改めて自己紹介させてもらう、私はラウンデルという者だ、一応ここの支部長と店主をさせてもらっている
支部長でも店長でもマスターでも好きに呼んでくれ、よろしく」
ラウンデル支部長はフレンドリーな態度で右手を差し出してきた、私も釣られるように握手に応える。
その右手の掌はゴツゴツしていていかにも男性の手という感じがした、そしてはっきりとわかる剣ダコ
おそらく現役時代はかなりの剣士だったのかもしれない。
向こうも私の手を握って何かを感じたのか、ニコリと微笑み、何度も頷いていた。
「あ〜マスター、何をニヤニヤしているのよ、若い女性の手を握ってニヤけるとか、すけべジジイにも程があるわよ」
先ほどの若い少女が両手を腰に当てながらラウンデル支部長を注意する。
何だろう随分と砕けた会話だな、とても軍の施設とは思えない。
「そんな訳ないだろう、この子の手をさわればわかる、相当の鍛錬を重ねてきている手だ、君はかなりの剣の腕前なのではないのかな?」
「あ、はい、一応前回の【大聖剣舞祭】ではベスト8に入りました」
「ほう、それは凄いな」
「凄く優秀じゃない、どうしてこんな所に来たの?」
私の実力を知って驚く二人、気分としては悪くないがやはりここは予想通り、場末の左遷先みたいだ。
「自己紹介が遅れたわね、私はエレナって言います。ここに勤めて三年かな、年は十七歳よ」
「えっ?」
私は思わず声を上げてしまった、十七歳って……年上なの?てっきり私より年下の近所の子供かと思った。
なぜならば彼女は私よりずっと背が小さく手足が細い、とても十七歳には見えないのだ。
「私子供っぽく見えるでしょ?でも十七歳なの、よろしくね」
その笑顔はフレンドリーというより無邪気に見えた、私は思ったことがすぐ顔と態度に出るらしく相当驚いた目で彼女を見ていたようだ。
「失礼しました、改めて自己紹介させてもらいます、私はミュンヘルト・リアと申します、年は十六歳です、よろしくお願いします」
「私より一つ年下なのか〜、でも敬語はいらないわ。
私、歳の近い友達っていなかったからあなたのような女の子が来てくれて大歓迎よ
友達になってくれると嬉しいな、よろしくね、リアちゃん」
満面の笑みで右手を差し出すエレナ先輩、私もそれに応え握手を交わす
だが予想通りというかエレナ先輩の手はとても柔らかく小さい、明らかに戦う者の手では無い事が見て取れる。
そして近くでよく見てみるとエレナ先輩は童顔ではあるもののかなりの美少女だ
少しウエーブのかかったプラチナブロンドの長い髪に青い瞳、整った顔立ちにどこまでも白い肌
まるでお人形のような容姿に思わず見惚れてしまう、まさにザ・女の子という感じである。
「そういえばリアちゃんのファーストネームのミュンヘルトって、もしかして……」
「ええ、ミュンヘルト・ローザは私の母です」
通常母の名を出すと誰もが驚きと共に感心し色々と言ってくるものだが
この二人の反応は思ったより薄いものだった。
「そうか、それは大変だな、頑張れよ」
「お母さんはお母さん、リアちゃんはリアちゃんよ、これからもよろしくね」
二人のこの反応は少し意外だったが私にとってはありがたいものであった。
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