第一章 「許すこと、許さないこと」
うさぎの妊娠成功率は、脅威の99パーセント。
またうさぎは多産でもあり、一度に6~10羽程度出産する。
「ユウジ、大丈夫かい?それ、重くないかね?」
「ありがとう、太郎。大丈夫だよ」
つまりうさぎとは、たった1回の交尾で、ほぼ確実に子孫を6羽以上残すことが出来るということだ。
さらに、うさぎの性成熟はおよそ3ヶ月程である。
「ごめんね、ユウジ。僕が引っ張っていけたらよかったんだけどね…」
「仕方ないよ、俺たちにはそれぞれ、役割があるのさ」
これらの事を複合すれば、いかにうさぎが繁殖に特化した動物なのかは一目瞭然だろう。
日本ではかつて、愛玩用に飼っていた2羽からおよそ2年で200羽以上に増えてしまい、飼育崩壊が起こったという。
「これからどこに行こうかな。太郎はどっちに行った方がいいと思う?」
「うーん。あ、向こうから何か聞こえる気がするね」
「お、じゃあ今度はあっちに行ってみるか」
令和の時代が終わる頃、地球という箱庭は、人間にとって緩やかに終わりへと進み始めた。
突然の太陽膨張の影響により、常時太陽フレアを受け続けるようになった地球では、機械の文明から逆行することとなる。
高速の移動手段は徐々に消失していき、人類に車の時代が再度訪れた。
「少しづつ道が乱れてきたね、無理せず疲れたら言ってね」
「うん、ありがとう。でもこれでも鍛えてるんだ、そう簡単に弱音は吐かないさ」
車が増えると、もちろんガソリンの需要も増える。
化石燃料の消費が爆発的に加速し、資源の枯渇が進む。そしてもちろん、排ガスにより公害も進む。
地球はそうして、順調に死の星への道を辿って行った。
「…あれ、向こうに見えるのってもしかして、町かね?」
「あー、確かに町に見える気がする。蜃気楼じゃ無ければ」
死の星に住み続けたい変人など、当たり前だが数える程しかいない。人類は別の星に移住すべく、宇宙技術を加速的に進歩させて行った。
「あそこに、誰か住んでいるといいんだけどね」
「そうだな。そういえば、もうしばらくの間、人と会ってない気がする」
「最後に人に会ったのは、1年で1番暑い季節だったよ」
そうして多くの人類が地球から旅立ち始めて、およそ150年が過ぎた。
この地球という星は今、大きな生存競争が行われている。
この星に残った人間は、150年の間に、うさぎによって滅亡寸前となっていたのであった。