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オープニング

 むかしむかし、アルトコロ州アルトコロシティには高名な画家と美しい音楽家が立派な屋敷でくらしていた。

 二人はやがて子をもうけた。

 男の子と女の子の双子。

 画家と音楽家は男の子には「太郎」、女の子には「太郎の姉」と名付けた。

 画家と音楽家は、双子に絵の描き方と作曲の仕方を幼い内から学ばせることにした。

 将来的には偉大な芸術家の姉弟になるだろう。

 双子は両親の期待通りすくすくと成長し、家庭は順風満帆だった。


 だが幸せは長くは続かない。

 始まりは画家に起きた異変だった。

 クリエイターなら誰もが一度は患う病にかかり、全く作品を描けなくなってしまった。

 彼は自らに嘆き、悲しみ、やがてはやり場の無い怒りの渦に飲まれていった。

 音楽家は自らの活動に集中できなくなった。

 それでもはじめのうちは彼に献身していた。

 それでも彼は良くならなかった。

 そして……疲れきってしまった。

 だが、だからといって彼女が弁護士の男と共に子供を残して去っていったことは擁護できないだろう。

 更に不幸は続く。

 太郎が信じられないことを言ったのだ。


 「もう絵なんか描きたくない。父さんが学校にクレームを入れるせいでまともに授業を受けれないし、勉強もさせてくれないからテストでもいつも最下位だ。友達とも遊べない。俺の人生を台無しにするのはやめてくれ!」


 彼の姉は言った。


「私も作曲なんかもうやめたい。楽譜なんか見たくもない。お願いだから普通に過ごさせて。私の人生を台無しにしないで!」


 画家は壊れた。

 彼の脳内を怒りの嵐が渦巻いていた。


 裏切られた!

 12年もお前たちに費やしてきた俺の努力を、お前達自らが無駄にしようとしている!

 ふざけるな!

 

 「そうかそうか、お前も同じなのか」

 

 大きな声では無かったが、怒りで震えていた。


 俺を裏切り、去っていった売女と同じか。


 娘の顔に、裏切り者の顔が重なった。


 裏切り者には報いを与えなければ。

 

 それは完璧なロジックだった。

 

 「仕方ないな。それじゃあ、今度は良い子を作ろう。俺を裏切らない良い子をな……お前を母親にしてやる!そうなりゃ俺の苦労がわかるだろう!」


 後退りする娘の腕を掴み、押し倒す。

 服をビリビリに引き裂く。

 ベルトを外し、ズボンを下ろした。

 それは性衝動では無かった。

 それは激怒の嵐だった。

 屈服させることが目的だった。

 自分を裏切ったことを後悔させたかった。

 

 娘は恐怖で固まっていた。

 これから何が起こるのかを悟って、舌を噛みきる準備をした。

 ……だがその必要はなくなった。

 ゴンッという何かが砕ける鈍い音が鳴る。

 そして、父親は糸を切られたマリオネットのように倒れ込み、動かなくなった。

 娘は肉の塊となった父親の下敷きになってしまったが、弟と共にそれを押し退け立ち上がった。

 そして何が起きたかを知った。

 弟は金属バットを握りしめていた。

 バットには血がべっとりとついている。

 それは間違いなく、父親の頭蓋骨を砕いた凶器に違いなかった。

 

 「姉さん」


 ぼそりと太郎は言った。

 そして、姉と顔を見合わせた。

 彼の頬を涙が伝う。

 ぐしゃぐしゃに泣いて、叫びたいのを堪えて、頑張って笑顔を作っていた。

 敬愛する姉を安心させるために。


 「もう大丈夫だよ」


 優しくそう言って、姉を抱き寄せた。

 カラン、とバットが床に落ちた。

 姉は弟を強く抱き返した。

 

 むかしむかし、あるところに、邪悪な鬼を退治した勇者がいた。

 それは太郎だった。

 太郎はそこにいた。

 太郎がいた。

 彼の姉は知っていた。

 


 


 

 

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