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2-4:勇者を殺した犯人

 ダンジョン深部に放置された勇者の死体の事で、ここ何日かは不安だった。

 しかし、それを回収する予定日がとうとう来てしまった。


 私はこの時まで、どうやって死体を回収するつもりなのかを知らなかったのだが──。


「棺桶……ですか?」

「はい。既にダンジョンの入口まで運ばせてありますので、後はそれを持っていけば」


 確かに死体を運ぶのであれば、これ以上適したものは無いと思う。

 けれど、こんな大きなものを運びながら危険なダンジョン内を移動するのは無謀が過ぎる。

 町長の息子だって、ダンジョンの恐ろしさは十分承知しているはずだ。


 てっきり、今日までに何か安全策の準備をしているのかと思っていた。

 しかし、現実はこの棺桶を用意するための準備。


 町長の息子はダンジョンを恐れていない。

 疑問が確信へと変わろうとしている。


 ひょっとすると、ダンジョンに入ってからこの作戦が危険だと気付くのでは?

 ならば、私が危険だと判断した時に二人がいち早く逃げられる様に、私が棺桶を運ばなければ。

 私でなければ、棺桶を捨てて逃げるという判断を即決できないし。


 私は棺桶を受け取り、町長の息子とその友人の二人と合流する。


「それでは、行きましょうか」

「本当に宜しいのですの? やはり棺桶は殿方に運んでもらった方が……?」

「いえ、本来ならば死体を回収するのは私の役目。ですから、これは私がやらなければならない仕事です」


 こうして、私たちは勇者の死体が放置されている第九階層へと向かった。






 第九階層。

 途中の階段で苦労しつつも、何とかここまで棺桶を運ぶことができた。

 だが私は今、まったく別の事が気になっている。


 怖いくらいに道中では危険がなかった。


 モンスターが襲ってこなかったわけではない。

 何時もと違いがあるとすれば、棺桶を運ぶ私が戦闘に参加できなかった事くらい。

 むしろ、私が加勢するまでもなく町長の息子とその友人が軽々とモンスターを倒してしまったのだ。


 暢気に棺桶なんかを用意した理由が分かった。

 町長の息子たちにとって、ダンジョンのモンスター程度は取るに足らない存在。


 どうやら、何時もは私に合わせてなのか手加減していたようだ。

 本気を出せばこの通りだなんて。


 この二人ならば、もしかすると正面から勇者に立ち向かっても勝てるかも。

 いや……間違いなく勝てる。


「到着しましたわ。私たちが周囲を御守りしますので、その間に聖騎士様はお願いしますわ」

「……わかりました」


 町長の息子とその友人は、涼しい顔で周囲を警戒している。

 危険なダンジョンの深部であるというのに、恐怖や惑いといった感情が少しも見えない。


 ここに勇者の死体があるという事は、勇者を殺す程の強敵が襲い掛かってくる可能性がある。

 だけど、あの二人はその事をまったく気にしていないし、それに気付かない程愚かではない。

 それは、つまり消去法で勇者を殺したのがあの二人である事を意味してしまう。


 私は、言われるがままに勇者の死体を棺桶に入れる。

 死体がそれなりに痛んでいたので崩れないよう慎重に行う。

 そのために時間がかかったが、その間も町長の息子たちは余裕の様子であった。


「終わりました」


 死体を棺桶に収納し終えた私は、二人に声をかけた。

 このまま、死体を地上まで運べば事は終わる。

 だが、もし勇者を殺したのが町長の息子たちであるのならば──。


 問い詰めるチャンスは今しかない!


「あのッ! ちょっと宜しいでしょうか?」

「どうかなさいましたか、聖騎士様?」

「大丈夫ですか、ライト様? もしかして、死体の回収が上手く行かなかったのですか?」

「いえ、それは大丈夫です。ですが、ですが、御二人に大切なお話があります」


 これ以上踏み込めば引き返せない。

 けれど……けれど、犯人が町長の息子なのであれば、私もその真意を知りたい!


 きっと……きっと、何か理由があるはず。

 あるに決まっている。


 あの勇者は人間の屑だ。

 私だって、殺せるものならば殺していたかもしれない。


 そう。

 だから、きっと町のために仕方なく勇者を殺したに違いない。


 だったら、私もこの事を知っておかないと。

 だって、そうしないと町長の息子に疑惑が向いた時に庇ってあげられないし。

 勇者の死体にも、私の方で隠蔽工作とかしなきゃいけないかもだし!


 私は、意を決して踏み込んだ。


「生前の勇者の最後に目撃した人の話では、アイス殿と一緒に歩いていたそうです」


 町長の息子の表情が変わった。

 第九階層のモンスターよりも、今の一言の方が心を動かされるようだ。

 嫌われたらどうしようかとの不安が、一瞬私によぎる。


「ですが、アイス殿がその事を私に話してくれなかったのが、ずっと気になっていました」


 けれど、私はもう引き返せない。

 いいえ、引き返さない!


「そんな時です。アイス殿にダンジョンを探すように提案されたのは」


 もう止まらない。


「私は最初、偶然だと思いました。いいえ、偶然であってほしいと思っていたのかもしれません。何かあるにしても、これ以上の勇者の詮索を止めてほしいのではと考えていました」


 もう迷わない。


「ですが、ダンジョンで……第九階層のこの部屋で勇者の死体を見つけた時、思いもしていなかった事に私は驚きました。あるはずの無い……いいえ、できるはずのない事が行われたからです」


 もう悩まない。


「今日まで、その事で悩んでいました。アイス殿の実力では勇者は殺せない。だから、アイス殿は関係ない。関係あるにしても共犯者がいる。そう、考えていました」


 そう。

 もし、勇者を殺した人間がいるならば、町長の息子ではなく……。


「他の人は勇者が殺された事でダンジョンの深層を恐れています。ですが、今さっきまでのアイス殿とエイラムさんは、勇者の殺害現場なのにまったくの平常心でした」


 殺したのは友人の女性の方。


「そして、エイラムさんは初めて戦っているのを見た時から常に異次元の強さです」


 だから、もしかすると町長の息子は主犯ではないかもしれない。

 その事もあって、私はここで確かめなければ!


「これらの事から私は確信しました。勇者を殺したのは……貴方たち二人。そうですね?」

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