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2-3:町長の息子たちへの疑念

 あれから、私たちは毎日ダンジョンに入るようになった。

 行方不明になった勇者を捜索する名目でだ。


 助っ人として一緒に入ってくれる、町長の息子とその友人の女性が無茶苦茶強い。

 地元の人間だからなのか、まるでダンジョンを自分の家の庭の如く扱い、時に寒気すら感じる程だ。

 だが、おかげでダンジョン探索はどんどん進んでいく。


 私自身はダンジョンの攻略そのものに興味はない。

 けれど、こうして毎日ダンジョンに潜る事が結果的に良い修行になっている。

 そして、自分が強くなることも悪い気がしなく、むしろ快感だ。


 だが、そんな楽しい日々に、ある意味での正当な形で終わりが来てしまった。


 そこに、あるはずがないものをダンジョンの第九階層で見つけてしまったのだ。


「あれは……?」


 部屋になっている場所に入ると、遠目に死体の様なものが見えた。

 本当に死体ならば、この階層に到達した人間がいる事に驚きなのだが……。

 しかし、それが身に着けている装備、何処かで見たような……?


「ライト様、どうかしましたか?」

「あそこに見える死体を確認したいのですが……あの巨人のモンスターが邪魔です」


 今すぐにでも死体を確認したい。

 だが、それを守るかの様に巨体のモンスターが一体いて邪魔になっている。


「どうやら、この部屋を守るボスの様ですね。向こうに見える死体も、恐らくはアレに殺られたものかと」

「ですが、立派に成長なされた聖騎士様ならば、こんなモンスター楽勝ですわ」


 本当にアレが勇者を倒したのであれば、楽勝なはずがない。

 いや、それ以前にまだあの死体が勇者のものと決まったわけでは……。


 だが、何れにせよあのモンスターを倒さなければ先には進めない……か。




 私は意を決して巨体のモンスターに挑んだが、これまでの修行の成果なのか体が軽い。

 その巨体から繰り出される攻撃を難なく回避しながら、順調にこれを倒せてしまった。


「驚きました。正直、もっと苦戦すると思っていたのですが、こうもあっさり倒せてしまうとは」

「それだけ、ライト様が強くなったという事ですよ」


 確かに私は強くなった。

 けれど、この程度のモンスターがあの勇者を倒せるわけがない。

 ならば、あの死体は……?


「いえ、そういう事では──いや、まずはあの死体が本当に勇者のものか確認しましょう」


 私は気になっていた死体を調べてみた。

 残念なことに、時間が経過しているせいで見た目では判別し辛い。

 しかし、それが身に着けている装備は、間違いなく神樹から作られた勇者の装備である。


 まさか、本当に勇者がダンジョンに入っていたなんて……。






 こうして、楽しいダンジョン探索の日々は終わってしまった。


 勇者の死を知った聖騎士団は酷く落ち込んでいるとの知らせを聞く。

 私もまた落ち込んでいる。

 しかし、それは勇者の死そのものに対してではない。


 何故、勇者の死体があんなところにあったのか?

 その事に対して疑問と疑念が浮かび上がったからだ。


 少なくとも、勇者を殺したのはダンジョンのモンスターではない。

 私程度が倒せる相手が勇者を殺すだなんて不可能だ。

 だから、何者かが勇者を殺した後、あの場に放置したと考えるのが自然。


 この町で私より強い人間に心当たりはある。

 町長の息子と、その友人の女性だ。

 特にその友人の方は、強力なモンスターを素手だけで倒す芸当を見せた事もあり、強さは底知れない。


 思い返せば、ダンジョン内を探そうと提案したのは町長の息子だ。

 そして、生前の勇者が最後に目撃されたのが町長の息子と一緒にいるところである。

 これは、偶然だろうか?


 現時点で、町長の息子は何も言っていない。

 私から聞いてみればいいだけの話ではあるけれど……。

 私は、町長の息子を……あの人を疑いたくはない。


 どうすれば……どうすればいいのか……?

 私には分からない。

 分からないよぉ……。


 いけない。

 弱気になってはいけない。

 私が……私が町長の息子を信じられなくてどうする!


 町長の息子は、左遷されてこの町に飛ばされた私を信じてくれた人。

 衣食住や仕事を与えるなどして、今日までこんなによくしてくれた人。

 そんな人を少しでも疑ってしまうなんて、私は……。


 私は、そう決意しようとした。

 けれど、そんな私に町長の息子は信じられない提案をしてくる。


「実は、ダンジョン内に放置されている勇者の死体の事なんですが、やはり回収した方がいいかと思ってご相談をと」


 あの時、私たちは勇者の死体を回収する余裕はなかった。

 死体が損傷していて、何の用意もなく運び出そうとすると壊れそうだったからである。

 その上、ダンジョンの深部のモンスターから死体を守りつつ帰還するのは不可能に近い。


 仕方なく、あの場では勇者の剣のみを証拠品として持ち帰った。

 けれど、今になって死体の回収だなんて無謀にも程がある。


 本当は断りたい。

 でも……。

 町長の息子は、私が了承する事を期待している様子だ。


「よかった。丁度その事を私も考えていたのです。アイス殿とエイラムさんが大丈夫なら、是非手伝ってほしいと」


 そんなわけがない。

 けれど、私は町長の息子の期待に応えるために嘘をついてしまった。


 町長の息子だって、ダンジョンの恐ろしさは十分知っているはずだ。

 けれど、それを恐れる様子がないなんて、まるで安全だと思っているような……。


 そうだ。

 きっと、本当は怖いけど私の力を過信して提案しているに違いない。

 だったら、いざという時は勇者の死体の回収を諦めてでも町長の息子を守らないと。


 私の聖騎士としての仕事は、この町の人たちを守る事。

 ならば、町長の息子の事も守らないと。


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