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2-2:消えた勇者

「勇者が、行方不明?」


 あれから、一週間後の事である。

 勇者が宿に荷物だけを残して居なくなっていた。


 実をいうと、あの日から勇者を見ていない。

 最初は、会わないものだから町を出て行ったとばかり思っていた。

 しかし、勇者が泊っている宿から帰っていないと連絡があり、事が発覚したというわけだ。


 正直なところ、私は楽観視していた。

 あの強い勇者を殺せる人間がいるとは思えないからだ。


 もしかすると、ダンジョン内で迷ってそのまま死んだのかもと考える。

 けれど、ダンジョンに勇者が入ったという記録は無かった。

 町を出た可能性もあるけれど、そうなると私には追えない。


 とどのつまり、私にとってどうでもいい事なのだ。

 でも、一応中央には報告をいれておこう。




 そして、更に一週間後。

 私の意に反して、中央の聖騎士団は勇者の失踪を重く見たようだ。

 行方を調査するようにお達しが来てしまった。


 あんな勇者、死んでいてくれた方がいいのに……。

 けれど、今回届いた指令書にはこう書かれている。


「魔王の手のものによる犯行かもしれない。心して調査せよ!」


 ──魔王だなんて馬鹿げている。


 だがしかし、上を納得させるためだ。

 生きているにせよ死んでいるにせよ、勇者が何処にいるのかを調査しなければいけない。


 やりたくないけど、やるしかない……か。

 とりあえず、町長の息子に相談してみようかな?

 あの人なら、今回もきっと良い方向に導いてくれると思うから。


「実は、上から行方不明になった勇者を探すようとの指令が下りまして。もし、見かけていればと」

「いえ、私も勇者は見かけていないですねえ」

「そうですか。ご迷惑をおかけして申し訳ないです。まったく、行方不明になるなんて何処まで迷惑をかければ気が済むんだか」


 やはり、町長の息子も勇者の行方は知らないようだ。


 町の人たちからも情報を集めていたが、何の手がかりも無かった。

 最後に勇者に出会った翌日くらいからの情報がまったく出てこない。

 要するに、二週間くらい前からの勇者の痕跡が唐突に消えているわけだ。


 勇者が消える直前の目撃情報もあいまいだ。

 町長の息子が勇者と一緒に歩いていたというものである。

 しかし、それならば町長の息子は私にその事を伝えるはずだ。


 多分、証言した人がその一日前に町長の息子と勇者が会っていたのを記憶違いしたのだと思う。


 結局、更なる手がかりもない。

 これ以上はどうにもならなかった。




 今日の通常業務を追えて自室に戻ると、町長の息子が訪ねてきた。

 もしかして、失踪した勇者の手掛かりを見つけてくれたのだろうか?


「先日話されていた勇者捜索の件ですが、ダンジョンを探してみるのはどうでしょうか」


 えっ……?

 勇者がダンジョンに入った形跡が無い事は既に分かっている。

 だから、そこを探す意味が無い事を伝えないと。


「しかし、勇者は……」

「衛兵を避けてこっそり入ったかもしれないじゃないですか」

「確かに。前に一人でダンジョンに入ったとの噂を聞いた時には私が軽く叱りましたので、ありえるかもです」


 勇者を叱ったというのは嘘だ。

 むしろ、勇者は一人でダンジョンに入りたがらなかった。


 だけど、あの時私は些細な嘘をついてしまった。

 あの勇者に対する恨みと、私が町長の息子の前でいいところを見せたいという欲からである。


「これだけ町中を探して見つからないのです。となると、後はダンジョンの奥深くくらいしかありませんよ」

「言われてみれば、確かにそうですが……」


 どうしよう……?

 さっきの嘘のせいで断り辛い。


「ダンジョンの深層を探索しなければいけないとなれば、捜索が難航かつ遅れている理由にもなりますし」

「ちょ、ちょっと待ってください。まだ、勇者がダンジョン内にいると決まったわけでは!?」


 勇者がいない可能性が高いところを探しても……。

 何より、町長の息子をそんな無駄な事に巻き込みたくない。


「ライト様、これは勇者の名誉のためでもあるのです。これだけ探して町に勇者がいないとなれば、逃げ出したのではないかと噂されます。しかし、死体が見つからなくてもダンジョンで名誉の戦死をした事にすれば、まだ勇者も報われます」

「ですが、嘘をつくというのは……」

「そうではありません。勇者が逃げ出していない事をライト様が信じてあげなくてどうするのですか? 行方不明になった勇者の事をライト様はあまり良く思われていない様ですが、これくらいは信じてあげましょうよ」


 町長の息子が言いたいのは、きっとこうだ。

 勇者は探すだけ無駄だから、ダンジョン探索中に行方不明になった事にしてしまおうと。


 本来ならば、それは駄目だと怒らなければいけないのだと思う。

 けれど、私は……勇者を探したくない!

 そして、そんな私の気持ちを汲んだ上で、町長の息子は提案している。


 ああっ、やっぱり彼に相談してみてよかった。

 私ではそんな方法は思い浮かばない。


「!! そうですね。私怨で勇者を悪者にするなんて行いは聖騎士の名折れです。アイス殿の提案通り、ダンジョンの中を探してみましょう」


 よかった。

 これで、私は行方不明の勇者を探さなくて済む。


 ダンジョンの深層ならば、他の聖騎士団の人間も迂闊に近づかない。

 これ以上の文句も出ないはず。


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