2-1:勇者が町にやってきた
ダンジョンのある町へと左遷され、その守護を頑張った結果。
自警団は町の衛兵へと変わり、私はその衛兵をまとめる長になってしまった。
あの町長の息子が色々とお膳立てをしてくれた結果だ。
何かと頼りになる彼のおかげである。
今となっては、町長の息子無しでは生きられないくらい。
まさか、左遷させられたはずの私が、こんなに充実した生活が送れるなんて。
そして、このまま私の生活は安泰する……はずだった。
厄災は町のダンジョンの中からではなく、外からの来訪である。
事も有ろうに、私をここに飛ばした元凶である勇者がやってきたのだ。
「久しぶりだな、ライト・ヌーム」
「どうして、貴方がここに!?」
「お前が聖騎士団に送っている報告書を読んだぞ。ダンジョンにモンスターに苦戦しているんだってな」
「確かに、ダンジョンの奥には私でも勝つのが難しいモンスターもいます。そして、それだけダンジョンが危険だという事です」
「ふん、それがどうした? 単にお前が弱いだけじゃないか」
──悪かったな。
だけど、それは何かと聖騎士団に力を示してきた勇者が一番知っている事。
「私なら、そんなモンスターを簡単に倒せる」
要するに、私が倒せないモンスターを自分で倒して自慢したいのか?
「その為に、わざわざダンジョンのある町まで来たのですか?」
「そうだ。気になるじゃないか、お前が倒せないモンスターがどの程度なのか?」
──呆れた。
「そういうわけで、明日からダンジョンに出入りするからな」
「見たところ、他に誰も連れていないようですが、まさか御一人で入るのですか?」
「そうだ、と言いたいところだが、違う。まずは、一緒に入りたい経験者を探さないといけない。僕はまだ迷宮探索は不慣れだからな」
こんなところだけ妙に冷静だなんて……。
一人でダンジョンに入って、迷って死ねばよかったのに。
「とにかく、この町に暫くの間滞在するからな」
「……わかりました」
それから数日後、勇者が一人でダンジョンの第八階まで進んだとの噂が流れ出した。
一人ではダンジョンに入らないと言っていたのに。
気になって調べたところ、先日の言葉通りそれは嘘であった。。
しかし、第八階層まで行ったというのは、どうやら本当のようだ。
最近、この町にやってきた二人組の冒険者と一緒に帰還したとの記録。
新参の無名二人が第八階層のモンスターを倒せるとも思えない。
きっと、勇者が一人で倒してしまったのだろう。
このまま、満足して帰ってくれたらいいのだが……。
そんな風に思っていた矢先の事。
町長の息子が勇者について探りをいれているとの情報が入った。
一体、何で……?
もしかして、勇者も客人として町に迎え入れようと?
いや、それなら私の時みたいに最初からだろうし。
まさか……あの勇者、町に対して良くない事をしたのでは?
聖騎士団に無茶な事をしたみたいに町に対しても……。
もしそうなら、絶対に止めなければ!
町長の息子には──いいえ、そんな私情で動くのではない!
この町にはお世話になっているし、私が何とかしないと!!
急いで勇者を探し出さなければ!
私は勇者が泊っている宿の情報を手に入れて、そこに向かった。
「ちょっと、アイス殿に迷惑をかけるなんて何をやったのですか!?」
私が、そう叫ぶように言いながら部屋に入ると、既に町長の息子がそこにいた。
間に合った……か?
とにかく、勇者を止めないと!
「何なんですか貴方は! エルフに気に入られているのをいい事に聖騎士団に散々迷惑をかけたかと思えば、それに飽き足らずこの町に押しかけて」
「勇者に対してそんな生意気な態度だから、中央から左遷されたんじゃないのか?」
「くっ……!」
いきなり返り討ちに……。
しかし、ここで引き下がるわけには!
「あの、お知り合いなのですか?」
町長の息子が困惑した様子で私に声をかけた。
「ええ、彼は何と言ったらいいか……その、聖騎士ではないのですが聖騎士団と深く関わる人物と言うか……」
「聖騎士と同じ能力を持っているんですよ。だから、時々聖騎士団のお手伝いをしているんです」
勇者め!
何が「お手伝い」だ!!
「戯言を……貴方のせいでどれだけの聖騎士が痛い目を見た事か」
「あれは弱すぎる人たちが悪いのです。それに、エルフの意向でもありますし、逆恨みもいいところです」
くそッ!
くそッ!!
何が逆恨みだ!
だが、そんな風に争う私たちを町長の息子は心配そうに見ている。
そして、私たちを見かねてなのか仲裁に入ってきた。
「大丈夫ですよ、ライト様。今回は私の方から一方的に勇者さんに用事があって訪ねただけですし、用事ももう終わりました。私の事を心配してくれての行為には感謝しますが、長居は無用です。帰りましょう」
──用事?
よく見れば、町長の息子の他に彼の友人兼ビジネスパートナーの女性もいる。
という事は、私の早とちりで何か仕事の話だったのかもしれない。
「私も、こいつ何か嫌いだから早く帰りたい。ですから、聖騎士様も御一緒に帰りましょうか」
「えっ!? あっ、はい。そういう事でしたら、私もこれで……」
「それでは、これで失礼するよ勇者さん」
流れるように私たちは勇者が泊っている宿の部屋から出た。
──迷惑をかけたのは私の方だ。
「す、すみません。出過ぎた真似でした!」
「いえ、そんな事は無いです。むしろ、あの勇者の情報を集めていたところなので助かりました」
「そうですわ。まさか、あんなに嫌われ者だったなんて」
そんな風に言ってくれるなんて、相変わらず町長の息子は私に優しくしてくれる。
本当は反省しなければいけないのに、その事に喜びを感じて仕方がない。
いけない、しっかりしないと。
それにしても、勇者の情報なんか何のために……?
「勇者の情報……ですか?」
「ええ、何でも第八階層まで一人でたどり着いたとの噂が流れていたので、念のために」
「そうでしたか。確かに、あの勇者は少なくとも私よりかは強いです。ですが、ただ強いだけではダンジョンの奥に進んでも帰還できない事は私が身をもって知っています」
「ですので、私もそこが気になっていたので調査していたのですが、色々調べた結果疑惑は晴れました」
何だ、町長の息子も同じところが気になっていただけか。
気持ちが通じ合っているみたいで何だか嬉しい。
このまま平和に事が進めば。
そう思っていた。