10-5:公爵と侯爵の夫
あれから三ヶ月。
すんなりと城が完成した。
ドワーフたちによる仕事の結果だ。
決して急いで建てたわけではなく、ドワーフにとっての普通の仕事らしい。
普段からダンジョンを建設したり修繕したりしているからだろうか?
その建築技術と仕事の速さに驚きしかない。
「早速、中を見に行こっか」
魔王の娘に誘われ、私と町長の息子は城の内部へと入る。
そして、完成したばかりの城内の上部へと登った。
「今日から、部屋使えるって」
今すぐにでも住めると魔王の娘は言う。
しかし、
「部屋の荷物をまとめるのに時間が。それに、運ぶのも大変ですし」
あまりにも急過ぎる。
新しい部屋が完成しても、今すぐに住むのは難しい。
その事を私は魔王の娘にそう伝えた。
私たちの居住用に作られた部屋は城の高いところにある。
部屋から町全体を眺めるにはいいのだけれど、荷物を運ぶのは大変そうだ。
「うーん、しばらくは町長さんの屋敷との往復でいいと思うよ。自分で運びたい荷物もあるよね」
「はい」
「それに、お城の使用人も用意しないといけないから、やっぱり往復生活になっちゃうかも」
それは考えつかなかった。
確かに食事の問題もあるし、今日からのお城住まいは無理。
もう少しだけ、町長の屋敷での生活が続きそうである。
「うちとしては、今まで通り屋敷に住んでもらっても構わない」
「それもいいけど、アイスくんも将来的には城に住むんだよ」
「えっ?!」
町長の息子は驚き、そして一瞬考えこんで理解したようだ。
「そうか、政略結婚」
「最初に考えていたのと形は変わっちゃったけれど、これからも町の事で何か合った時は矢面に立ってもらうから」
「ああ、分かっている」
今、魔王の娘の本心がほんの少しだけ見えた気がした。
何処となく冷たそうに、そして寂しそうに放った彼女の言葉。
そこから、やはり政略結婚と言うのは本当で、町を支配するため町長の息子を使うという方が本心だと感じた。
「でも、夫婦なんだから、私にもう少し甘えてもいいんだからねッ!」
「ま、まあ、頑張ってみるよ」
それでも、魔王の娘は町長の息子に甘え、そして要求する素振りを見せている。
それは、単に町長の息子の事を弄んでいるのだろう。
けれど、私はその魔王の娘が町長の息子とイチャイチャしている姿に胸がざわつく。
魔王の娘は単純に、力で町長の息子をいいようにしているだけなのに。
私も、力で町長を息子をいいようして、愉悦を感じていただけなのに。
思えば以前からそうだった。
今までは、余り深く考える事はなかったけれど。
それは、つまり──。
魔王の娘に一度殺される前に言われた通りなのが悔しい。
私は町長の息子の事が好きなのだと。
二つに分裂して暗黒騎士になり、聖騎士という枷が外れた結果だ。
どうしようもなく彼の事が好きになってしまったのだと。
「ライト様。城での共同生活、改めて宜しくお願いします」
町長の息子に声をかけられた。
そうだ、側室とはいえ私も町長の息子とは夫婦。
たとえ侯爵の夫となるための政略結婚だとしてもだ。
「は、はい! 私たちは夫婦なのですから当然です!」
見ると、町長の息子は恥ずかしそうに照れている。
「嫌では、無いのですか?」
「そんなわけ……私は、アイス殿の事が好きです。だから、これは私が望んだ事」
そう、だから。
「褒美であろうが、政治的な結婚であろうが、私はアイス殿が欲しいのです」
「分かりました。ならば、私もライト様のために共に歩みましょう。それが私の望みですので」
自然と、お互いに抱き合い、口づけを交わす。
「少し、風に当たってきます」
火照った体を冷やすかのように、私はバルコニーへと出た。
バルコニーからは町を一望でき、その光景は美しかった。
私は、魔王の娘に一度殺されてから、初めて生を実感する。
そう、思った。




