10-1:善心と悪心
あの討伐から数日が経過した。
エルフの討伐としては今までで一番大規模だったかもしれない。
思い返せば結構な大きさのエルフの拠点だった。
けれど、それを勇者一人のために森を焼くという形で終わらせる事になるとは。
改めて、あの日の事を思い出すと恐ろしい。
結局、森の勇者を名乗ったあの女は魔王の娘によって殺された。
何度も復活する勇者を都度瞬殺する力量。
アレには勝てないと改めて思い知らされたわけだ。
そして、更には勇者の復活を阻止するためだけに森を焼き払う大胆さ。
魔王の娘を本気にさせると何をするかわからない。
そういう恐怖も改めて植え付けられた。
だが、一番怖かったのはやはり町長の息子を失うかもしれなかった事。
それに比べれば魔王の娘の事なんて──。
いや、あんなに恐ろしい魔王の娘がいるからこそだ。
町長の息子を守るため、そして町を守るためにも私がいなければ!
「(どうだ、自暴自棄になんて死のうとする貴様とは違うのだ、もう一人の私)」
「(だからといって、魔王の娘の行いを見て見ぬふりするなんて、私には──)」
「(またそれ? もう、いい加減消えれば楽になるものを!)」
「(それは……)」
決着は……つかないのか。
エルフたちへの復讐を行えば吹っ切れるかもと希望を抱いていたのに……。
ああッ、もう!
もう一人の私、聖騎士の部分の私とは何なのだ?!
「(貴様は……貴様は何なのだ!)」
「(私は私、貴女も私)」
「(それはわかっている。だけど、だけど……私は一人でいい!)」
そうだ、私は一人でいい。
二つに分裂した私が一つに戻れないのならばだ。
もう一人を消してしまえばいいだけの事。
「(私もこうして逆に抑えられる立場になって初めて分かった。貴女は私がずっと抑えてきたもの。意識する事なく抑えていたもの)」
──何だそれは?
答えになっている風を装って、まったく答えになっていない。
「(ふざけるな! 何が抑えてきただ。そんな記憶、私にはない!)
「(それは、貴女が私を抑えつけるまで、私は貴女と対話しなかったから)」
「(対話だと? 元は一つだったのに対話なぞ行うはずが!)」
「(そうです。ですが、貴女と私は元より相容れない存在)」
どういう事だ?
わからない、訳がわからない。
「(私、私は──)」
「(貴女は悪心、邪心、淫心……一言で表現するなら『穢れ』)」
「(はぁ? それは貴様が何処までも善くあろうとするための言い訳だろうに!)」
「(…………それが、貴女の答えですか)」
何を言うかと思えば。
結局、私ももう一人の私も、知らないのではないか。
だが、もう一人の私は続けてこう返してきた。
「(人間なら、例え復讐の相手でも殺すのを躊躇します)」
「(ふざけるな、復讐の相手だぞ!)」
「(それでも、一度は戸惑うのが善心というものなのです)」
「(貴様、貴様は──)」
ふざけるな、ふざけるな!
私が悪で、貴様が善だというのか?
こいつは、もう一人の私はそんなに自分を善くみせたいのか!?
「(町長の息子との事は──まあ、いいでしょう)」
「(おい!)」
結局は戯言……か。
対話しようと頑張った私が愚かであった。
元は一つだったのに、こんなにも分かり合えないとは。
「(だけど、穢れである貴女でしか守れない事は認めます)」
「(何だと!?)」
「(これ以上はもう、語る必要もないでしょう?)」
──まったくだ。
語る必要はもうない。
今、私は何をしていたのだったか?
そうだ、自室のベッドで横になって休んでいたのだ。
そこから考え事をして、もう一人の私と対話して、だったな。
今は特にやる事もない。
もう少し休むべきか?
そんな事を考えていたら、部屋の扉をノックする音が聞こえた?
「今部屋にいるーー?」
魔王の娘の声。
とりあえず、私はベッドから起き上がる。
そして、魔王の娘を迎え入れた。
「私たちの暗黒騎士、出かけるからついて来て」
「あの……行先は?」
「中央だよ。アイスくんも一応連れて行こっか」




