9-5:焼き払わなければいけない事情
私は急いで来た道を戻り、町長の息子のところへと走った。
町長の息子は、一人で大丈夫だろうか?
いや、ドワーフの何人かは出入口に向かうエルフを狙っているはず。
町長の息子は、エルフに殺されたりしないだろうか?
私と一緒にダンジョン深層のモンスターと戦えるのだから、大丈夫なはず。
町長の息子は、不安になっていないだろうか?
私が到着すれば大丈夫!
様々な思考が私の頭を過る。
だが、それも私が騎士として町長の息子を守ればいいだけの事
だから急ぐ!
出入口付近に着いた。
辺りは、ここから脱出しようとするエルフと、それを許さないドワーフとで乱戦になっている。
町長の息子は何処……?
私は逃げ惑うエルフたちを押しのけ、町長の息子を必死で探す。
──見つけた!
エルフたちに囲まれている。
このままでは、町長の息子が危ない!!
だが、間に合った。
私は、とっさに町長の息子の背後を狙うエルフを斬り殺す。
もう少し遅かったらと思うと、恐怖を覚えた。
「アイス殿!」
「?! た、助かりました」
「今は、この状況を切り抜けましょう」
「はい!」
私は町長の息子の背中を守る位置に立つ。
互いに背中を守る形。
これなら、彼を守りながら戦いに集中できる。
ああッ……いい、いいぞッ!
高まる気持ちを抑えながら、私は目の前の敵を斬り殺していく。
一人。
そして、また一人。
私は襲って来るエルフの戦士たちを斬る。
「これで……終わりです!」
私たちは最後の一人を倒し、戦いに一区切りがつく。
周りには、まだ逃げ纏うエルフを追いかけるドワーフがいる。
が、しかし一先ず襲って来る戦士はいなくなった。
「よかった……アイス殿に何かあったら、私……」
「でも、こうしてライト様が助けに来てくれたではありませんか」
「そんな……間に合ったから良かったものの……私、心配したんですからッ!」
私は感極まって、町長の息子を抱きしめる。
勿論、今は鎧を装備しているので、あくまで軽く……だ。
そう、軽く包み込むような形で……。
「今日は許してあげる。私が勇者殺しを優先したせいだから。仕方なくだからねッ!」
背後から魔王の娘の声が聞こえた。
私は驚いて町長の息子に絡めていた腕を解く。
そして、後ろを振り向くと魔王の娘が呆れた顔で私を見ていた。
「あ、あの、これは……つい……その……」
「ドワーフさんたちも粗方エルフを片づけたみたいだから、そろそろ撤退しよっか」
「は、はい」
「でも急いで。この森、焼き払わないといけないから」
森を焼き払う?
何もそこまでする必要が?
いや、そもそもエルフの討伐と森を焼き払う事への関係性が無い。
「……おのれ…………許さ……ない!」
声が聞こえた。
そして、そこに現れたのは魔王の娘に真っ二つにされたはずの森の勇者だ。
「もう復活したの!? ああッ、もう!!」
そう叫んだのは魔王の娘であった。
復活?
まさか、死んでから蘇ったとでもいうのか?!
「これは──?」
「見ての通り。もう3回は殺しているけど、森の力を吸って再生しているみたい」
魔王の娘の口調が若干厳しめになっているようだ。
表情も若干険しい。
勇者を目の前にしているかであろう。
「……喰らえ!」
森の勇者が弓を引いて発射する。
しかし、その攻撃は魔王の娘が自分の剣で簡単に弾き飛ばす。
そして、その勢いで森の勇者の銅を斬り付け、真っ二つにしてしまった。
「ふぅ……今は私を狙っているから大した事ないけど、無差別に狙われたら面倒だし」
そうだ。
こいつが町長の息子を狙いでもしたら、私は……。
「アイス殿、急いで逃げましょう!」
「ええ、ここはエイラムさんにお任せして──」
「急ぎます!」
私は町長の息子を手を引いて、急いで出口へと向かう。
既にドワーフたちにも伝達が行き届いているのか、彼らも同じ方向に向かっていた。
「ちょ、ライト様。自分で、自分で走りますから」
見ると、私に手を引っ張られて町長の息子が若干苦しそうにしている。
私は、慌てて手を話した。
「ご、ごめんなさい!」
「いえ大丈夫です。それより、急ぎましょう!」
「はい!」
私は町長の息子と一緒に森の外へと走った。
とにかく急がないと。
森に火が点いたら逃げられなくなる。
魔王の娘が何時それをやるかわからないのが怖い。
それに、森の勇者の気が変わったこちらに攻撃してくるかもしれない。
だから、そうなる前に早く逃げないと。
走っている途中でエルフの残党が攻撃してくるかもしれない。
だから警戒も怠らない様に逃げないと。
そうして、私たちは無我夢中で森の外へと走った。
やっとの思いで森の外に出ると、結構な数のドワーフたちが既に着いている。
そして、私たちの後からも順次ドワーフたちが森の外へと到着した。
「ふぃーー、やっと到着した」
「まったく、お嬢の大胆な思い付きには困る」
「それも仕方のない事。相手は勇者だ」
安心したのかドワーフたちが思いを言葉にしている。
「これで、全員でしょうか?」
「後は、エイラムさんを待ちましょう」
これで魔王の娘が死ぬなんて事は──無いと思う。
単純に異次元の強さである彼女が死ぬとは思えない。
しかし、勇者を殺すために森まで焼くとは。
これで魔王側が勇者を殺す事に関しては本気で手段を選ばない事が理解できた。
「こりゃ、思ったよりヤバいな」
「熱気がここまで来ている」
「もう少し離れた方がよさそうだな」
森の火災が広がっているのが分かる。
入口にまで火が届いているわけではないが、時間の問題だ。
だが、魔王の娘はまだ来ない。
困ったのは、彼女以外は転移の魔法が使えない事。
とりあえず、全員で近くの町へ行くにしても、帰還するとなると何日もかかる。
「あれ? 皆ここで待っててくれたの?」
魔王の娘が森の外から平然とやって来た。
「エイラムさん? 何でそんなところから??」
「何でって、転移の魔法で脱出してからだよ、アイスくん」
確かに、それなら確実だ。
今更ながら、何故思いつかなかったのか?
「それより、今は燃え広がらない様に火を消さなきゃ」
そう言って、魔王の娘は平然と魔法で浮遊する。
そして、魔法を使って大量の水を呼び出す。
洪水の様に水は森一面へと広がり、洗い流していく。
こうして森に広がった火は、あっという間に消えた。
「ふーっ、これでおしまい。それじゃあ、帰ろっか」
やはり魔王の娘には勝てないと改めて思った瞬間であった。




