9-4:森の勇者
「うッ!」
突然の事!?
何かが鎧に当たった。
けれど、並大抵の攻撃ならば大丈夫なはず。
しかし、その攻撃の衝撃は妙に大きい。
鎧は壊れたり欠けたりこそしていないのに、重く感じる。
私は軽くダメージを受けた感じがした。
「暗黒騎士、気を付けろ! 森の奥から矢が飛んできている!!」
声の通り、確かに森の奥から矢が飛んでいるのを確認した。
私は思わず剣でその矢を受ける。
──空気が揺らいだ。
「うわッ!」
私は思わず声が出てしまった。
剣で受けた矢の攻撃は重く、思わず後ろに転げそうになる。
しかし、剣に力を入れて何とか矢を弾き飛ばす。
「大丈夫か!? あの攻撃は只者じゃねえ!」
先程から、私に話しかけてきたのはドワーフたちだった。
戦場でこんな形でドワーフに話しかけられたのは初めての経験だ。
「な、何とか。しかし、あんなに強い攻撃をするエルフがいたとは」
「あれは多分エルフじゃない。恐らくは勇者によるものだ」
──勇者?
死んだ勇者の事が頭に過るが、そんな筈がない。
そもそも、あの勇者は弓矢なんて使わなかったし、明らかに別人。
危惧していた通り、他に勇者が?!
まさか、エルフに協力している勇者が他にもいたとは。
いや、今まで見つかっていなかったエルフの集落だ。
知らなかったのは仕方ない。
「いいか、暗黒騎士。今、俺たちの一人がお嬢を呼びに行った。だから、お嬢が到着するまで持ち堪えろ」
お嬢というのは魔王の娘の事。
ならば……?
「私が魔王の娘のところに向かった方が早いのでは?」
「駄目だ。今は暗黒騎士を狙っているが、それでもギリギリだ。他の奴に狙いが変わったら大変なことになる」
それは……駄目だ!
ターゲットが町長の息子に変わったら、私は助けられないかも──。
ならば、ここで私が奴を引き付けておく他ない。
「……くッ!」
森の奥から矢がまた飛んで来た。
それをまた剣で受け止めるが……やはり、重い!
「うッ……こちらからは、何もできないのか?! 私を狙っているのならば、この手で──」
「無理だ。今の暗黒騎士は、装備に対して魔力を使いこなしていないからな」
そうか。
私には聖騎士の才能はあっても、暗黒騎士としては修行すらしていない。
それでも今まで戦えてきたのは、装備に対して敵が弱過ぎたから。
だけど、今は違う。
他の雑魚は倒せても、勇者の力にはこの醜態。
修行で何とかなるかも分からない上に、今からでは……。
そう考えていた時、ドワーフたちがこう言った。
「手が無いわけでもない」
「……どういう、ことです?」
「このまま防戦一方で待っているのも面白くないだろう?」
面白いとかそういう問題ではない。
しかし、手があるのならば……?
「どうすれば?」
「俺たちの魔力を暗黒騎士の剣に送る。だから、後は撃て」
撃ての意味が分からない。
けれど、剣に魔力が送られれば単純に強化されるはず。
そう、聖騎士の装備が聖なる魔法で強化される様に。
「いくぞーー!」
「おーー!!」
私の剣にドワーフたちの魔力が届く。
すると、剣が漆黒の炎に包まれた。
丁度、魔王の娘がやっているのと同じ感じだ。
「うッ……まただ!」
この間にも森の奥から矢の攻撃は続く。
しかし、剣で矢を受け止めた時の反動が、先程よりも幾分か軽い。
「よし、暗黒騎士。このまま矢が飛んできた方角に向かって剣を振り下ろすんだ」
「……やってみます!」
私が、森の奥に向かって剣を振り下ろすと、凄まじい波動が発生した。
暗黒騎士の漆黒の剣から発せられた闇の波動が森を切り開く。
成る程、これが撃てという事か。
「これが、この装備の本当の……力?」
「どうやら、成功した様だな」
あの一撃を放った後、矢は飛んでこなくなった。
勇者を、あれで倒せてしまったのか?
それなら、安心なのだけど。
「おのれ! 許さない!!」
その叫びと共に、森の奥から一人現れた。
弓を装備した少女の姿。
エルフではなく、人間の勇者である。
「私は……森の勇者。森を汚す貴方たちを……殺す!」
そう言って、森の勇者は弓で私を攻撃してきた。
距離が近いせいか先程よりも攻撃が更に重く、そして何より速い!
相手は布の服に短めのスカートの軽装。
一撃でも与えれば簡単に殺す事ができそう。
なのに、今の私では矢を必死で剣で防ぐだけで攻撃できない。
これが、勇者の力なのか……?
くッ、このままでは!?
──その時、だった。
誰かが宙返りで森の勇者の後ろを取った。
「勇者? なら、お父様のためにも死んでもらわなきゃ」
その言葉の前にはもう、森の勇者は縦に真っ二つになっていた。
「動ける? 私たちの暗黒騎士」
森の勇者を殺したのは、魔王の娘であった。
「あの……?」
「動けるなら、早くアイスくんを守りに行きなさい! 私がここに来たという事は、わかるでしょ?」
いけない!
魔王の娘が救援に来てくれたという事は!!
「勇者殺しはできなくても、それならできるよね?」
私は、急いで町長の息子がいる場所に向かって走った。




