9-3:大きいのが隠れてました
報告にあった場所へ行くと、そこにはやはりエルフの拠点となる集落があった。
いや、正確には最初に攻めた場所と同じ様な壁。
木や蔦で作られている様に見える障壁である。
「へっへーん! このエイラムちゃんの力が必要かな?」
呼んでもいないのに、魔王の娘が自慢げに前へと出て来た。
「それじゃあ、行くよッ!」
魔王の娘が剣を抜き、その刀身に漆黒の炎を纏わせる。
そして、それを壁に向かって振り下ろすと、やはりガラスの様に砕け散った。
物理的なものではなく魔法で作られたものだという証拠である。
壁の奥には、やはりエルフが住んでいると思われる集落が広がっていた。
以前の壊滅させた場所のものと似たような建造物。
そして、その規模は以前よりも大きい。
「な、何だ一体!?」
「結界が崩れるなんて不吉な……」
「み、見て! あそこに誰かいる!?」
中にいるエルフたちが徐々に気付き、騒ぎ始める。
前回の時と違うのは、好戦的な魔法系のエルフが先行して攻めてこない事。
もしかすると、この場のエルフたちは戦いに慣れていないのかもしれない。
「先手必勝だ!」
「行くぞ!」
「おーー!!」
エルフたちが出遅れているのを見て、ドワーフたちが一気に攻め入る。
「行ってきていいよ、私たちの暗黒騎士。この出入口周辺はアイスくんと一緒に守っているから」
「は、はい」
町長の息子も魔王の娘と一緒ならば安心だろう。
決して彼が弱いわけではなく、むしろ人間の仲では強い方だと分かっている。
ただ、それでも私は心配なのでできるならば守りたいのが本心。
でも、私なんかよりも魔王の娘と一緒の方が安心……か。
悔しい、悔しいけれど、この事実は揺らがない。
だから、私は魔王の娘に言われた通り、任務を優先して進む。
任務……いや、本当は個人的な復讐とけじめなだけであった。
しかし、町長の息子の期待に応えるという新たな事情。
エルフの討伐を成功させ、侯爵の地位を貰うというのが今の目標。
「ライト様ならば必ず成し遂げられると思います。ですが、無理はしないで頑張ってください」
「──はい!」
町長の息子から応援の言葉を貰い、私は高揚を覚える。
これは、他でもなく自分のための戦い。
それを直接応援しに来てくれた町長の息子のためにも頑張ろう。
「では、行ってきます」
「はい、私もこの出入口から逃げようとするエルフ程度なら倒せます。お互い気を付けて」
挨拶を終え、私は先行したドワーフたちを追いかけた。
ドワーフたちは片っ端から目についたエルフを殺している。
私は、なるべくなら武装したエルフを優先して処理し、ドワーフたちのサポートを。
「ドワーフがこんなところにまで」
「まともな戦いなんて何時以来だ!?」
「今は目の前の厄災を何とかしないと!!」
遅れながら、武装したエルフたちが集落の奥から出てきた。
「エルフの戦士たち、御覚悟!」
そう叫んで、私は武装してエルフたちに向かって切りかかる。
「な、何だ貴様は!?」
「こいつ、ドワーフではないぞ!」
私は一人で四人以上のエルフたちに突っ込む。
人数の点では圧倒的に不利であるが、装備の差は歴然。
私の攻撃はエルフの防具を貫き、エルフの攻撃は私相手にはビクともしない。
「相手の装備が……強過ぎる!」
「我らの魔法力では足りないというのか……」
装備の差にエルフたちが怯えている。
これは、かつて私が聖騎士だった頃に魔王の娘から受けた屈辱に似ているだろう。
あの時は、たった剣一本だけで聖魔法で強化された装備を打ち砕かれたのだ。
「ハハハ、どうだエルフ共!」
「我らドワーフが作った武具には敵わないようだな」
「成長した俺たちの強さを見よ!」
私の近くにいるドワーフたちがエルフたちに野次を飛ばす。
積年の怨恨もあるのだろうが、純粋に自分たちの作品を自慢したそうでもある。
私はドワーフたちと共にエルフの戦士たちを一気に叩く。
その圧倒的な力を前に、エルフたちは成す術もなくやられた。
「はぁ……はぁ……貴様、もしかして人間……か……?」
瀕死のエルフが私に問いかけてきた。
「そうです。貴方たちに捨て駒にされた元聖騎士……今は、暗黒騎士ですが」
「聖騎士……? ごほッ……人間と……交流しているあの村……か……はぁ……はぁ……」
言葉の意味はよく分からない。
だが、エルフの集落にも人間と積極的に交流している所と、そうでない所がある。
そして、この集落はそうでない方だという事は何となく分かる。
「だから、私たちは……はぁ……はぁ……人間との交流には、反対だったのだ……」
「そんな事情は知らない!」
「今回の襲撃も……きっと、アイツの……うッ!」
苦悩の表情を浮かべながら、エルフはそれ以上動きそうにない。
今ので、何故この場所が今までバレなかったのかが分かった。
単純にここは聖騎士団を含んだ人間全般を拒んだエルフの集落。
だから、ここを知る人間がいなかったと。
付近を通りかかった人間を殺さなければバレる事も無かったのに。
間抜けな話もあったものだ。
──ん?
さっきまでの相手に人間を軽く仕留められるようなエルフはいただろうか?
あのエルフの戦士たちも人間を傷付ける事はできるだろう。
しかし、殺す前に逃げられる程度の実力しかなかった。
だとすれば、一体誰が人間殺しを……?




