9-1:今度のエルフは強いかも
あれから私たちは幾つかのエルフの拠点を潰した。
だが、これまで潰した拠点の中で一番大きかったのが最初の場所。
あの場所は儀式用の神殿があったりと特別だったのかもしれない。
その後は、小規模な集落を潰して回る活動が続いた。
片手間というわけではないが、最初に比べれば大した事ではない。
正直、手ごたえの無い戦いが続いている。
だけど、今回の対象はどうも違うようだ。
私と魔王の娘は、先程から私の部屋で今後の方針について話し合っている。
話し合いとなると、町長の屋敷内にある私か魔王の娘の部屋で行う事が多い。
町の中では私が顔を見せられないからだ。
実は、ドワーフたちの工房で行うという手もある。
けれど、町長の屋敷内であればお茶にお菓子が用意できるのが良い。
なので、それを気に入っている魔王の娘は、極力屋敷内で行いたがるのだ。
それで、今日もお茶をしながらでの会話なのだが……。
「うーん、今度のはちょっと大きいかも」
魔王の娘がお茶を飲みながら、何時もより少しだけ真面目にそう言った。
「ランチ姉が、この辺りにエルフの拠点があるかもって」
地図を出して提示した領域は、私の知らない場所。
周辺地域を支配する魔族が見つけた場所だとの事である。
「報告通りなら、大きいですね……」
「でしょでしょ?」
多分、この大きさならば最初の時かそれ以上の大仕事になりそうだ。
むしろ、今までよく見つからなかった。
──いや、私が知らない場所だという事は、今まで人間との交流を拒んでいる集落なのかもしれない。
「うーん、なるべく早く対処したいのだけど、どうしよう?」
「……何か、あるのですか?」
「実は──」
珍しい。
魔王の娘が懸念するなんて一体何が?
「ここ半月くらいで何人も死んでいるんだ」
「それは……確かに不安ですが……」
「その死因をランチ姉が調べていたら、今回の集落が見つかったんだよ」
つまり、その集落に殺しの原因があると?
そもそも何人かが殺されたところで、エルフの仕業ならば不思議ではない。
それも、聖騎士団すら知らない集落ならば単なる口封じの可能性も。
「ですが、これと言って準備できるものはないかと。ただ、油断しない様に改めて注意するくらいしか」
「それもそっか。私でしか倒せない敵が出た時の準備なんて、やれるわけないし」
──?
確かに、私が倒せない程の強敵が出現すれば魔王の娘に頼む他ない。
しかし、そんな敵がいるとすれば勇者くらいだ。
だが、あの勇者は既に死んでいる。
もしかしたら、確認されていない別の勇者がいるかもしれない。
けれど、そうなるとやはり対処どころか事前の準備すら無理だ。
できる事があるとすれば、勇者がいない事を祈るのみ。
だけど、私はともかく同行者の安全が心配になる。
町長の息子は元より、ドワーフたちだって危ない。
──相談するべきであろうか?
そう思っていた時、町長の息子が顔を出してきた。
「二人で集まっていると聞いたので、何かあればと」
「やっほー、アイスくんもお茶飲んでいくよね?」
「ええ。ライト様、お菓子も頂いても?」
「は、はい。どうぞ」
魔王の娘がカップにお茶を入れ。
私がお菓子の入った皿を手に取る。
そして、町長の息子にそれぞれを渡した。
「ありがとう。では──」
受け取った町長の息子が、お茶と焼き菓子を嗜む。
彼が一服したと思ったタイミングで、私は聞いてみる事にした。
「アイス殿、相談が……」
「何でしょうか、改まって?」
「次に攻めるエルフの拠点の事で」
「今、それについて話し合っていたところ!」
魔王の娘が会話に割り込んで入ってきた。
でもまあ、三人で話した方がいい内容かもしれない。
「ライト様、それでしたら是非私も聞きたいです」
「実は、今回の場所に強い敵がいるかもしれなくて」
「まさか、それで私は来ない方がいいかもしれないと?」
「アイス殿だけでなくドワーフさんたちも危なそうなので、どうしようかと」
私と魔王の娘で、次に攻めるエルフの拠点について町長の息子に話した。
大き目の集落である事。
拠点の周辺で何人も死んでいる事。
もしかしたら、勇者かそれ相応の強い敵がいるかもしれない事。
「事情はわかりました。ですが、私はライト様一人を危険な目にあわせるわけにはいきません」
「ですが……」
「これは、私のケジメでもあります。この町を守るためにライト様一人に危険を押し付けるのは嫌です」
気持ちは嬉しい。
けれど──。
「私たちの暗黒騎士、そういうのは良くない……と、思うよ。ドワーフさんたちだって、危険は覚悟の上。皆でやりたい戦いだから集まっているんだよ」
「皆……ですか」
「そう、暗黒騎士だけじゃなくて皆の戦い。だから、死ぬ時も一緒。死なせたくなかったら貴女が頑張らなきゃ」
何か、いいように魔王の娘に言いくるまれている気もする。
だが、皆の戦いである事は確か。
だから、私一人が思い上がって出しゃばるのは違う。
「わかりました。もう何も言いません。次の戦いも皆で頑張りましょう」




