8-1:馬に乗るのは難しい?
翌日の朝、私たちは再びあの場所に移動した。
昨日と同じ場所。
移動自体は魔王の娘が使う魔法で一瞬だ。
──あの魔族の男と顔を合わせたら気まずい。
そう思っていたところ、待ち構えているかの様にあの魔族の男はいた。
どうしよう?
魔王の娘と喧嘩になっても嫌だなあ。
「それじゃあ、出発するね。トット兄も、まあ……頑張って」
それだけ?
いや、その方がいいのかもしれない。
魔王の娘が一言別れの挨拶をして、それで終わらせた。
これで、いよいよ出発。
──の、はずだった。
「おいおい待てよ。お前ら」
魔族の男が私たちを引き留めた。
まだ、何かあるというのか?
「何? 別に急いでいるわけじゃあないけど、トット兄の遊びに付き合い続ける程暇じゃないんだよ」
「はあ、何だよそれ? お前ら、まさか徒歩で行く気なのか?」
「そうだけど?」
「馬くらい用意してやるから乗って行け」
魔王の娘が徒歩で移動する気満々だったから失念していた。
いや、確かにエルフの集落には道の都合上徒歩で行く必要があるのだが……。
「私たちの暗黒騎士、馬で移動できる場所なの?」
「エルフの集落に近い人間の村までは行けます」
「へー、それなら馬で移動した方がいっか」
魔王の娘の言葉には何時もに比べて元気がなかった。
だが、かと言って落ち込んでいるようには聞こえない。
あくまで、何時もに比べてというだけで、元気な事には変わりないのだが。
「決まりだな、ちょっと待ってろ」
魔族の男が町の方に向かって歩いて行った。
おそらく、町で馬を仕入れてくるのだろう。
「あー、行っちゃった。どうしよう? 私、馬に乗った事ないんだけど」
それは知らなかった。
魔王の娘だし一応はお嬢様だから、馬に乗るなんて経験をしてこなかったのか?
まあ、お嬢様にしては戦闘経験は豊富だし、馬に乗れないだなんて考えもしなかった。
「エイラムさん、もしかして魔界ってところは馬が──」
「アイスくん正解! 馬は地上に来て初めて見たんだよ」
町長の息子の指摘で謎が解けた。
そうか、魔界には馬に乗るなんて習慣がないから、乗れなくて当然。
「乗っている人間は何回も見た事あるし、一度くらい乗ってみたいと思っていたけど、初めてで楽々乗れるか不安なんだけど」
乗馬の習得は才能に左右される。
けれど、魔王の娘が心配している通り、最初から乗れるなんてのは稀。
大抵は練習が必要だ。
「エイラムさん。それなら、馬車ってのはどうだい?」
──馬車。
道を知っているのは私だから、私が運転する他ない。
そうなると、車内は町長の息子と魔王の娘の二人っきりの空間。
別に大した事じゃないはず。
なのに……なんだかモヤモヤするなあ……。
「うーん、馬車だと若干移動速度落ちちゃうから、微妙」
「それなら、もう誰かと一緒に乗るしかないな」
魔王の娘は町長の息子の馬に一緒に……。
馬車で無くなった事により、むしろ二人の距離が縮まってしまう。
「それならアイスくんの馬に──」
やっぱり……。
「って言いたいところだけど、騎士様と一緒がいいかな?」
……え?!
「そういうわけだから後ろに乗せてね、私たちの暗黒騎士」
「……はい」
魔王の娘には何時もの笑顔が戻っていた。
本当に馬に乗る事だけが若干の不安だったのか。
「待たせたな」
魔族の男が馬を三頭連れて戻って来た。
「トット兄、ありがとう。でも、二頭で大丈夫」
「ん? そうなのか?」
「それじゃあ、乗っていくね」
私と町長の息子が馬に乗り、それから魔王の娘が私の後ろに乗る。
「エイラム、もしかして馬に乗れないのか?」
「むーッ! 乗った事ないだけだから!」
「ははは、そういう事にしておいてやる」
「早く行って、私たちの暗黒騎士」
私は馬を走らせ、その場を離れた。
同じく馬に乗った町長の息子が私の後に続く形だ。
「トット兄のせいで余計な時間がかかったけれど、行きましょ」
ようやくこれで一歩前進。
まずは、エルフの拠点近くの人間の村へ。
そして、魔王の娘が私だけに聞こえる大きさの声でこう言った。
「私とアイスくんが二人っきりってのは流石に辛いでしょ? いちゃいちゃを見せつけながらの移動も悪くなかったけど、今回は勘弁してあげる」




