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女聖騎士でしたが魔王の娘によって暗黒騎士にされてしまいました  作者: ヘラジカ
第七章:魔公トット

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7-5:嫌いな男

 森の中での宴は思ったよりも続いている。


 ドワーフたちが用意した酒。

 魔族の男が用意した肉。


 酒と肉。

 そして、たき火。

 私にはよくわからないが、盛り上がる要素で満たされているようだ。


「呑むぞ、呑むぞ!」

「食べるぞ、食べるぞ!」


 ドワーフたちも盛り上がっているようだけど……。

 あの小さな体で酒を呑んでいる姿には、背徳心を感じる。


 飲み食いする時も、ドワーフたちは強面で髭の生えた男の被り物をしている。

 だから、そこまでではないのだけれど。

 それでも、その被り物の下が子供の姿だと思うと何かを感じてしまう。


 聖騎士の頃の私であれば、無駄に心を痛めていたかもしれない。

 けれど、今の私はどういうわけか心が踊ってしまうのだ。


「あれ? アイスくん、結構呑めるタイプ?」

「うちの家族は、不思議と酒に強いんだ」

「へーーー。私と一緒だーーー」


 町長の息子と魔王の娘はすっかり盛り上がっていた。

 そして、私はテーブルで二人を対岸にして静かに呑んでいる。

 私もあんなに楽しく呑めればいいのだけれど──。


 そうしていると、不意に魔族の男が私の隣に座った。


「よお、呑んでるか?」

「え、えぇ……」


 ──気まずい。


 何で、こいつが私の隣に?

 話す事なんて何も無いし、どうすれば?


「兜を脱いでいる方が綺麗じゃねえか」


 ──は?


 確かに今の私はフルフェイスの兜を脱いでいる。

 でも、それは食べるのに邪魔だから。

 顔を見せようと思っての事ではない。


「この前、中央で飯食った時も綺麗だとは思っていたんだ」

「…………」

「綺麗なんだからさ、普段から隠さずに見せておけよ」


 大きなお世話である。

 顔を隠しているのは一応事情があるし。

 それに、何よりこいつのために顔を見せているわけじゃない。


 だが、そんな私の気持ちを無視して、魔族の男が私にこう言い寄って来た。


「なあ、俺の女にならねえか?」


 突然の事で私は戸惑ってしまう。

 と、同時に酷い嫌悪感に襲われた。


 嫌だ!

 その気持ちが私の中で真っ先に湧く。


「え? あの……?」

「どうした、不満か?」


 不満しかない。

 何をどうしたらこうなるのか?


 はっきり言いたい。

 けれど、魔族の男から来る威圧感で、上手く喋れない。


「あの、私には……」

「エルフを討伐して侯爵になる話か? 俺と結婚すれば公爵夫人だぜ」


 そういう問題じゃないし。

 公爵夫人だなんて権力が欲しいわけでもない。


 私は無意識に、魔王の娘と話している町長の息子の顔を見た。

 その顔は楽しそうでも悲しそうでもない、何だか虚ろな表情である。


「もしかして、あの男か? 駄目だ。アレは俺の妹エイラムのものだから諦めろ」


 悟られた?!

 私が町長の息子を見たせいだろうか?


「今のまま、あそこにいても不幸になるだけだ。だから、俺のところに来い」


 嫌だ、そんなの生きている意味がない!


 戦ってでも拒絶したい。

 けれど、隣にいる魔族の男は魔王の娘の兄。

 つまりは、魔王の息子の一人。


 勝てないッ!

 魔王の娘と戦って負けた記憶を思い出す。


 一度、魔王の娘に殺されたあの記憶。

 その恐怖から、魔族の男に私は逆らえそうにない。


 貪欲に町長の息子を求めるために死にたくない気持ち。

 魔族の男のものになるくらいなら死を選ぶ気持ち。

 この二つが私の中で揺らいでいる。


 私は──。


 だが、その時。

 魔王の娘が突然、魔族の男に突っかかっていった。


「ちょっと、トット兄! この暗黒騎士は私のものなの! 勝手に手を出さないで!!」

「はぁ? こいつをこのまま生かしておいたら、あの男を取られてしまうぞ」

「それは、私が許可しているからいいの! だから、トット兄は余計な事しないで!」

「は? 何だよそれ? ちっ、わかったよ」


 強引だった魔族の男は、その妹である魔王の娘の言葉で素直に引き下がる。


「もう帰ろっか。それじゃあ、明日の朝またここに来て出発するから」


 挨拶も口早に、魔王の娘は転移の魔法を使い、私たちを連れて帰還した。

 移動先は町長の屋敷前。

 一瞬で帰れるのは便利だと改めて実感する。


「大丈夫?」

「は、はい……」

「もう、トット兄ったら。まさか私たちの暗黒騎士に手を出すだなんてサイテー」


 魔王の娘は見るからに不機嫌そうである。

 私を気遣っている感じはするけれど、先程から言葉が何処か荒々しい。


 そして、一緒に帰還した町長の息子もまた落ち込んでいた。


「ライト様……。私は、あの場で見てるだけしか……」

「あの時、アイスくんが動いていたらトット兄に殺されていた、と思うよ。私が止めなきゃ危なかったかも」


 あの虚ろな目は、そういう……。


 かつて聖騎士だった私が町長の息子の事を助けられなかった事を思い出した。

 魔王の娘の圧倒的な力に敵わなかった私。

 そのような状況ならば、凄く苦しいと思う。


 でも、それって町長の息子が私の事を大切に思ってくれているって事では?

 そうだとすれば、凄く嬉しい……。


「いいえ、アイス殿。その気持ちだけで私は……」


 思わず、町長の息子の事を抱きしめたくなったが、鎧を来ていたので思い止まった。


「うーん、何かもう興が覚めちゃったし、今日はもう寝よっか」


 また明日……か。


 明日からはエルフの拠点近くまでの移動の旅。

 けれど、出発地点があの魔族の男がいる場所。


 もう一度、行かなきゃいけないのは気が……重いなあ。


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