6-2:町長の息子への相談
ドワーフたちとの用事を終え、私は屋敷へと帰った。
エルフの討伐について魔王の娘としなければ。
そう思いつつ、とりあえず自分の部屋へと戻ろうとした時の事。
廊下で町長の息子とすれ違った。
「あの、調子はどうですか?」
「アイス殿──はい、大丈夫ですが……」
町長の息子が話しかけてくれた。
しかも、私の体調を気遣ってくれている。
挨拶程度の些細な社交辞令。
それが分かっていても、思いのほか……胸がときめいてしまった。
だけど……今なら丁度いいかも?
何かお話し……してみよう。
「少し、お時間よろしいですか?」
「はい、大丈夫ですよ」
「では、私の部屋まで……」
私は、自分の部屋に町長の息子を招き入れる。
単純に、廊下で立ちながらは良くないと思っただけの事。
別に他意があるわけではない。
ここは町長の息子の父──つまり、町長の家。
町長の息子が自分の家の部屋に出入りするだけ。
それに……。
「ごめんなさい、突然……」
「謝る必要なんてないです。エイラムさん──魔王の娘に仕組まれたとはいえ、私は貴女の夫なのですから」
私たちは夫婦なのだ。
私はあくまで側室で、魔王の娘が正妻だけど。
それでも、町長の息子が私を妻だと認めてくれることに嬉しさと申し訳なさを同時に感じる。
「それで、私はどうすれば?」
「あの……す、少し話がしたくて……と、とりあえず座ってください」
私と町長の息子は、とりあえず椅子に座る。
別に緊張するような事ではない。
落ち着いて……落ち着いて話そう。
「エルフの討伐──アイス殿はどう思いますか?」
違う……。
いや、合っているけど、これじゃない気がする。
「先日の魔王側の会食で出たアレですよね?」
「そうです」
「やりたいのであれば、よいのではないですか?」
エルフの討伐はやりたい。
あいつらも聖騎士団と同じく復讐の相手だから。
けれど、今聞きたいのはそんな答えでは……。
しかし、町長の息子は続けてこう言った。
「でも、私に相談するという事は、そんな事が聞きたいのではないのでしょう?」
──察してくれた?
とにかく、今度こそ。
「はい……実は、私の中にいるもう一人の私が──」
合っているけれど、今度はストレート過ぎて伝わらないかも。
「──エイラムさんから薄々は聞いています。聖騎士の部分の事ですよね?」
「!! そ、そうです!」
よかった。通じた。
「も、もしかして聖騎士の部分が前面に出てきそうなのですか!? アレが出てきてしまうと──」
「そ、それは大丈夫です。意外と抑え込めていますし」
「よ、よかった……」
聖騎士の私に体の主導権を握られ、もう一度死ぬ心配はもうないと思う。
けれど、そんなに私の事を心配してくれるなんて……もう……。
たぎる感情を押さえつつ、私は話を続ける。
「抑え込めているからこそ、聖騎士の部分も諦めて消えるか私と一つになって欲しいのです」
「すると、その口ぶりでは……」
「はい、弱っているとは思うのですが、未だに私の中に存在します」
そう、だから……。
「どうすれば、聖騎士への未練が断ち切れるのか? このまま、エルフを討伐すれば達成できるのか? アイス殿の意見が聞きたいのです」
私がそれを伝えると、町長の息子は考えこんでしまった。
──しばしの沈黙。
そして……。
「確証はありません。ですが、暗黒騎士の行いが正しいと証明できれば、聖騎士のライト様も認めて、一つになってくれるかもしれません」
町長の息子が言った事は、合っている気がする。
けれど、具体的にはどうすれば……?
「私は魔王側が付く事が町のためになると考えています。そして、聖騎士団やエルフが魔王と敵対するならば、奴らは町の敵であるとも考えています」
そんな……と、いう声が私の中から聞こえた気がした。
でも、私ではない。
きっと、もう一人の私──聖騎士の私の悲痛の叫びだと思う。
「だから、今回の討伐に私も同行します。暗黒騎士の行いを私や町の皆が認めていると証明するために。そして、町を守るために」
町長の息子が私を気遣ってくれるのは、嬉しい。
けれど……。
「しかし、アイス殿の身に何かあっては……」
私一人であれば、魔王の娘から授かった装備で対処できる。
先日、聖騎士団を皆殺しにしたように。
だけど、相手の数は多い。
私が戦っている間に町長の息子が襲われたらと思うと……。
だが、その時だった。
「ふふん。それなら、このエイラムちゃんに任せなさい」
唐突に魔王の娘が現れる。
そして、私と町長の息子との会話に乱入し、続けてこう言った。
「私が守るから大丈夫。暗黒騎士は安心して戦いなさい」
「えっ……?」
「私も一緒に行くって言っているんだけど」
つまり、魔王の娘と町長の息子を加えて三人。
聖騎士団を滅ぼした時の様に一人でやらなければいけないと思ったのに。
けれど、これならばもう一人の私も観念して一つになる事を選ぶかもれない。
聖騎士団を滅ぼした時は、あくまで私の復讐心に聖騎士の私は反発していた。
だけど、理由が単なる復讐心ではなく町を守るためならば……?
かつて私が聖騎士だった頃、ダンジョンでの修行を三人で行っていたのを思い出す。
あの時も、二人に修行を手伝ってもらったおかげで強くなれた。
だから、今回も三人でなら……きっと上手くいくに違いない。
「あ、ありがとうございます……」
「べっ、別にお礼を言われるような事じゃないからッ!」
私の礼に対し、魔王の娘は何だか照れくさそうにしている。
「そ、それにッ。今回はドワーフさんたちも一緒だから、そのためだよ」
それは初耳だ。
けれど、理由は何となく分かる。
ドワーフたちはエルフ討伐の事を悲願だと言っていた。
だから、自分たちでも何かしたいと居ても立ってもいられないのだろう。
「そう……ですか。今回は大所帯ですね」
人数が増えたところで私がやる事は変わらない……か。
「それで、エルフ討伐の事で相談したい事が……?」
「うん、いいよ。まずは、エルフの事について聞かせて?」




