1-3:辺境の町
荷馬車の発着場に到着してからは、簡単だった。
護衛という形で隊商の馬車に乗せてもらい、目的地の町まで一直線。
後は、何事もなければ到着するはず。
「道中、宜しくお願いします」
「いえいえ、お気になさらず。どうせ帰りの便ですし」
「帰り……?」
「ダンジョンから産出された武器や防具の運搬の帰りですよ。最も、中央で仕入れた品物を向こうに運搬するので、手ぶらというわけではないですが」
隊商の代表を務める男との挨拶がてらの雑談。
それによると、中央に武器や防具が集められているようだ。
これも、ダンジョンによる影響なのか?
「いやー、ダンジョンが現れてから景気がいいのですよ。産出されたものを中央に運べば高く売れる。その金で中央の品を仕入れて町で売れば更に儲かると」
「それは、何よりです」
商売の事はよく分からない。
けれど、景気がいいという事は、少なくとも良い影響なのだろう。
「聖騎士様も、そのダンジョンがお目当てなんでしょう?」
「ええ、まあ……」
「聖騎士団の資金を稼ぐのに良さそうですな」
「いえ、そうではなく……危険が無いかどうかの調査なので……」
「成る程、流石は聖騎士様。ご立派ですな」
あまり、褒められている気はしない。
だけど、向こうに悪意は感じられないので……まあ、いいだろう。
「3日もあれば到着します。何事もなければ、良い旅ですな」
「そうですね」
「でも、何かあった時は宜しくお願いしますよ」
「……お任せを」
こうして、荷馬車での移動が始まった。
──そして、3日後。
道中何事もなく、荷馬車は目的の町へと到着した。
「お世話になりました」
「これから、どうなさるので?」
「まずは、宿を探そうかと」
「左様ですか。街の方には冒険者が泊る宿がありますので、不自由はしないかと。特に急がないのであれば、この町の町長に挨拶するのもいいかと。聖騎士様の御力になるでしょうから」
「……親切にどうも」
──町長。
つまり、この町の偉い人への挨拶……か。
真っ先に行かなければいけないのは分かっている。
けれど、こういうのは苦手……だ。
緊張するし、まずは宿探し……からにしよう。
そう思いながら荷馬車から離れ、歩きながら考えていて気付く。
あれ……宿のある街には、道をどう行けばいいのか……?
さっき聞いておけばよかったと後悔。
仕方ない、この町の人間っぽい人を見つけて、聞いてみようか。
とりあえず、今いる場所の周辺を見回してみた。
周りには、私が乗ってきた以外の馬車が沢山出入りしている。
これも、ダンジョンが出現した影響なのだろうか?
人はそれなりに沢山いるけれど、殆どが荷物を運んでいる人たち。
誰か話しかけやすい人はいないだろうかと思っていた時。
一人の好青年の姿が私の目に入った。
私と歳が近そうなその男は、周りと違い一人だけそこそこ上等な服を着ている。
しかし貴族とは違って単なるお金持ちといった感じで、悪く言えば成金。
その場に不釣り合いではあるけれど、田舎町にはお似合いといった感じだ。
もしかすると町の有力者かもしれない。
普通の人間ならば声なんてかけないところ……だけど、今の私は聖騎士。
挨拶も兼ねて、思い切って聞いてみるか。
「あのーー?」
「ん? 何だ、今忙しいんだが?」
私が後ろから声をかけてみたのだが──。
男は振り返らずに面倒そうに、そして若干のイラ立った感じで答えた。
怒らせてしまったか?
けれど、ここで臆するのは悪手でしかない。
何より聖騎士としてのプライドが。
「忙しいところをすまない。貴方はこの町の人間か?」
私がそう問いかけると、男は私の方に振り返った。
「もしかして、この町に派遣された聖騎士様でしょうか?」
男の態度は一変した。
それも聖騎士を恐れての事ではない。
何故かは知らないが、私が来る事を知っていたようだ。
「確かに、私はここに飛ばされ……いや、派遣されたライト・ヌームという聖騎士だが、何故それを?」
「先ほどは失礼致しました。私はこの町の町長の息子で、アイス・アルデヒドと申します。ライト様をお迎えするために参上致しました」
「そっ、そうなのか!? そういう事ならよろしく頼む」
迎え!?
そんな話は聞いていない。
けれど、そういう事だとすれば、もしかして私は期待されているのか……?
とりあえず、世話になって……って、そうだ。
先に宿の事を聞いてみよう。
「ところで、まずは宿を探したいのだが」
「それでしたら、うちに御泊りください。聖騎士様がいらっしゃるという事で、町長である父が既に部屋も食事も用意させていますので」
うーん。
そういう事ならば、今日は町長の家に泊まった方がいいかも?
「そっ、そうですか。そういう事なら今夜はそちらに」
「いえ、一泊だけでなくこの町にいる間はうちに御泊りください」
そんな。
到着して早々に住むところまで決まってしまうなんて。
待遇は凄くいいけれど……その分だけ何かに期待されているのかと思うと怖い。
「えっ……? わかりました、お世話になります」
「では、早速ご案内致します」
とりあえず、今はこの町長の息子に付いて行ってみるか。