5-4:貴族への誘い
私!?
あまりに唐突に声をかけられ、戸惑ってしまう。
相手は、魔王の娘の長兄。
魔王の子供たちの一人である。
それが、私に対して一体何の用があると?
「はい!」
「お前に、侯爵になるチャンスをくれてやろう!」
「……はい?」
侯爵──といえば、王族以外の人間に公爵レベルの権限を与えるための爵位。
公爵でしか行えない雑務を任せたい人間が王族ではない。
そんな不都合を解消するための都合のいい爵位だ。
いや、問題はそこではない。
魔王の娘が町長の息子に爵位を与えるのに失敗したタイミングで、何故私に?
「あ、あの──」
「長兄! 何で暗黒騎士になの!?」
私が、聞くべきかどうかを悩む間を与えず、魔王の娘が魔族の長兄に問いかける。
「暗黒騎士の方がその質問をしたら一喝しようと思っていたのだがなあ……可愛い妹の質問ならば仕方がない。答えようではないか」
あ、危なかった。
私が問いかけてしまう前に、魔王の娘が聞いてくれてよかった、本当に。
「それで、何でなの?」
「無論、聖騎士団を壊滅させた功績に報いるためだ。だが、それだけでは足りぬ。エルフの討伐にも成功すれば、その結果に応じて特別に侯爵の地位を認めない事もない」
魔族の長兄の言葉が何処まで本気なのかは分からない。
けれど、次に私が行わなければならないのは、エルフの討伐である事だけは確かになった。
「そうじゃなくて、何で彼じゃなくて暗黒騎士なのかを聞いているのだけど?」
「はぁ? その人間の男の事を私は知らないのに、侯爵の爵位なんか与えられるわけないだろ!」
言われてみればそうだ。
魔王の娘は、この場の人間に町長の息子が『町長の息子』である事を説明していない。
自分の担当地域の町の偉い人間と政略結婚したいという事を伝えていない。
だが、魔族の長兄はそこに更なる一言を加えた。
「まあ、どうしてもと言うのならば、その男をそこの暗黒騎士と結婚させればいいだろうに」
魔族の長兄の言葉に逆らえば、私も町長の息子もここで殺されるかもしれない。
だから『褒美』ではなく『命令』という形で、私は町長の息子と結婚する事に。
ふふっ、町長の息子を守るためだからな、仕方ないな。
「彼は私の担当するダンジョンがある町の町長の息子なんだよ。だから、政略結婚して支配しやすくしたり、爵位を与えて町からより大きなものにしようと……」
「知らんな! 私からすれば、聖騎士団を壊滅させた暗黒騎士への評価の方が遥かに高い」
「うっ……」
魔族の長兄が言っている事は正しいけれど──。
これは、ひねくれてはいるけれども、魔王の娘に対する最大限の譲歩だと思う。
侯爵という私には過ぎた地位も、魔王の娘の願い通りに直接与えれないからこそだ。
だが、それに魔王の娘が気付いているかどうかまでは、分からない。
そして、私が魔王の娘にそれを伝えてしまえば、彼女のプライドが傷つく。
最悪、見限られて殺されるかもだ。
「……わかった、それでいい」
「決まりだな。エルフの討伐、頼んだぞ」
魔王の娘は、町長の息子を貴族にする事を渋々諦めた。
そして、私を貴族にする提案を許諾する。
結局、どう考えての事かは分からない。
けれど、受け入れた事だけは確かである。
「エルフの討伐は全部こいつに任せればいいのか?」
「……手間が省けて助かる」
「黒曜石の装備に見合うだけの働きは見せてもらわないと」
他の魔族たちも各々に感想を語り合う。
そして、議題は次のものへと移った。
その後は、魔王の娘の兄弟たちが世間話に近い話題で盛り上がる。
各々の方針で進めるダンジョン経営についての愚痴なんかも話題に出た。
結局、世界の今後に関わりそうな重要な話は、最初に出たエルフの討伐だけ。
本当に、ただの兄弟の集まりで終わってしまう。
何か身構えて損した気もする。
けれど、会場自体は各々が複数人を連れてくる想定だった。
ひょっとすると、主催した魔王の長兄も、本当はもっと本格的な会議を想定したのかも。
そして、魔王の娘だけしかその意を汲めなかったのかもしれない。
地味に疑問は残っている。
けれど、とにかく今宵の会食イベントは終わった。
後は──。




