5-2:魔族たちとの会食
夜が訪れた。
私と町長の息子は、魔王の娘に連れられて城の中に来ている。
聖騎士時代に私は何度か入った事があるけれど……。
慣れない場所なのか、町長の息子がますます不安がっていた。
「エイラムさん……ほ、本当に大丈夫なのか?」
「うーん。門をすんなり通れたから、話はついていると思うけど?」
確かに、城の門番は魔王の娘の姿を見て、すんなりと通した。
けれど、私たちが門を通る姿を見ていた門番たちは、嫌そうというか怯えた様子。
快く受け入れた感じではない。
「いや、話はついているって、まさか国王に?」
「違うよ」
町長の息子が更に不安になる回答を魔王の娘が言い放った。
「聞かなきゃよかったかも……」
「アイス殿、国王でもなくても城の誰かという可能性の方が高いです」
咄嗟に、私がフォローする。
これで、少しは町長の息子の不安が和らいでくれるといいけれど……。
だが、魔王の娘がそれを台無しにしてしまった。
「私は、中央を支配したお兄様の一人に呼ばれただけ。で、二人はそのための付き添い」
「ま、まさか──」
驚きを隠しきれなかった町長の息子が、思わず声に出してしまった。
「国王が魔王と取引をしたという噂なら、私も聞きました」
「こ、国王が既に懐柔されている……!?」
「そんなに驚くの? アイスくんの町だって、そうだと思うけど?」
そうなのか?
魔王の娘が言うからには、そうなのだろう。
かつて聖騎士だった私が赴任した時は、そんな気配は微塵も感じなかったけれど。
「そう言われると、返す言葉もない……」
町長の息子は、落胆した感じでそう答えた。
突然の事に混乱して彼が落ち込むのは分かる。
だが、あの町と同じ様に中央も平和的に支配されているならば問題ない。
と、暗黒騎士となった私はそう判断する。
そして、今の私は町長の息子のために町の平和さえ守れれば、他は何も要らない。
だから──。
「アイス殿、大丈夫です。私が付いています!」
「う、うん。ありが……いえ、心配をかけてすみません。もう大丈夫です」
私の言葉で少しでも町長の息子の気分が和らいだのなら、嬉しい。
「うんうん、その調子で会食も頑張ろう!」
──会食?
魔王の娘は確かに今、そう言った。
時間的にも夕食の頃合いである。
「今日のイベントって、まさか中央にいるエイラムさんのお兄さんとの食事会の事?」
「それだけじゃなくて、地上に出てきた兄弟全員の集まりだよ」
魔王の娘と町長の息子がそう話していると、給仕の女性が私たちに声をかけてきた
「──会場までご案内致します」
「あっ、お城のメイドさんだ! これはこれで可愛い!!」
はしゃぐ魔王の娘をよそに、私と町長の息子は不安しかなかった。
魔王の娘の兄弟──つまり、魔族たちの会合。
事前に知っていれば、町長の息子を守るために二人で逃げていたかもしれない。
だけど、こうなったからには逃げるという選択は難しい。
──私が守らないと!
給仕の女性に連れられた私たちは、広間に通された。
広間には何組かのテーブル席が用意されているが、まだ誰も来ていない。
「やったー、一番乗り!」
「本当に集まるのか? 時間も時間だし、他に誰か来ていてもよさそうなのに」
「魔法で移動するから、直前にやってくると思うけど」
私たちは昼の間も中央にいたせいで、少し早めに着いてしまったようだ。
だけど、もう時間も時間。
すぐにでも集まるかもしれない。
程なくして一人、そしてまた一人と広間にやってきた。
外見は人間、魔王の娘と同じ褐色の肌。
服装は──着飾る事のない普段着といった感じだ。
「やべ、一人で来ちまった。まずかったかな?」
「人間……? 誰かを同伴させているのは、エイラムだけ?」
「へえ、エイラムもこっちに来ていたんだ」
各々が、こちらを見て挨拶代わりに感想を述べていく。
そして、全員が集まるの待つために席へと座った。
「よし、全員集まったようだな」
最後に入ってきた男の魔族が一言そう放つ。
その言葉からして、彼が魔王の娘たちを招待した中央を担当する魔族なのだろう。
広間に集まったのは自分たちを含めて9組。
その内の一組が中央の担当であるから、残りの8組がダンジョンの担当だろうか?
丁度、確認されているダンジョンの数と一致する。
「では、食事を楽しみながら、今後について話し合おうではないか」
中央担当の魔族がそう言った後、各自のテーブルに食事が運ばれてくる。
どうやら、彼の進行でこの場は進むようだ。
この場に、魔王らしき姿はない。
そして、魔王が来そうな感じでもない。
集まっている魔族は、魔王の娘の兄や姉のようだ。
魔王が中央に君臨して、国を乗っ取る儀式ではないのか……。
本当に、魔王の子供たちによる兄弟姉妹で集まっての食事会。
その証拠か、先程から魔族の全員が特に会話もなくテーブルの料理を楽しんでいる。
「二人も今のうちに食べて。話し合いが始まったら食べてる余裕なんてないよ、たぶん」
魔王の娘が、町長の息子と私にそう言った。
本番は食事の後……と、いうわけか。
食事も終わり、食後のお茶を楽しみ始めた頃の事。
中央担当の魔族が立ち上がって、こう言った。
「食事はどうだったかな? この国で一番の料理だったはずだ」
そして、その自慢気な言葉に対し、他の魔族たちはこう答えた。
「うーん、美味しかったは美味しかったけど……」
「うちの町の料理の方が美味しいかな?」
「そう、それ」
「中央は各々の地方から食材集めているだけだから、地場で食べた方が美味しいはず」
──自慢に対して評価は散々の様だ。
「あの……エイラムさん? あの方は何時もあんな感じなのか?」
「長兄の事? そうだよ。お父様から中央を任せられて張り切っているみたいだけど」
「そ、そうなんだ……」
「そんな事より、始まるよ」
魔王の娘が珍しく真剣な表情を見せる。
楽しい兄弟たちの食事会はここまで。
「ここからが、本当のメインディッシュですか──」
「う、うん。そだね……」
私の発言に、魔王の娘の表情が少し和らいだ。




