5-1:二つに分かれた心は戻らない
結局、夕方までには余裕で間に合った。
しかし、時間にはまだ早い。
町長の息子と魔王の娘が戻ってくるには、まだ時間がかかりそうだ。
二人が戻ってくるまでどうしようか?
そんなに時間はない。
だから、静かに待つ事にした。
待っている間に先程の事を振り返る。
私の剣で無残に死んでいく聖騎士たち。
かつての私が魔王の娘から受けたのと同じ仕打ちである。
私がやった事に後悔は無い。
かつての私が魔王の娘に殺された事にも後悔はない。
力が及ばなかった聖騎士が、敵にやられただけなのだから。
私に殺されて死んでいった聖騎士たちは、私を恨んでいるだろうか?
もし、そうならば復讐としては最高の形だ。
私を身代わりにして、自分だけは安全だと思っていた奴らをどん底に突き落としたのだから。
少なくとも、あの男。
聖騎士団の団長はそうであろう。
行っている最中は、そうでもなかったのに──。
こうして、思い返してみれば……ふふ、中々愉しいではないか。
実に愉快。
しかし、不愉快なのは、もう一人の私の存在。
「(どうして、消えない!?)」
「(私は私なのに、消えるだなんて──)」
仮に私が消えようと思っても消えられないのと同じ……か。
最も、私は消えるつもりはないけれど。
やはり、認めさせて一つの存在になるしかないのだろうか?
「(聖騎士団はもうない。だから、聖騎士という存在を諦めたらどうだ?)」
「(それでも、私は正しく生きたい! だから、こんな間違ったやり方は認めたくない!)」
聖騎士の私は、威勢よく暗黒騎士の私に言い放つ。
だが、その力は以前に比べて何処か弱々しく感じた。
聖騎士団を滅ぼした事、特に団長と対面した事が原因だろうか?
少しずつではあるが、もう一人の私に迷いが生じているのかもしれない。
だったら、このまま暗黒騎士としての生活を続けれは何時かは──。
「おっまたせー!」
元気よく魔王の娘が戻って来た。
町長の息子も一緒にいる。
「それで、上手くいった?」
「……はい」
「そっか。だったら今夜のイベントで発表しなきゃだね!」
発表……?
国王と魔王が取引云々の噂通りなら、国王に聖騎士団の壊滅を突きつけるのか?
それとも、まさか中央の住民の前で大々的に発表して宣戦布告……?
いや、それは暗黒騎士の私にとってはどうでもいい事。
国がどうなろうが、既に魔王側の私には関係ない。
だが、私と違って町長の息子は何やら気になっているようだ。
「発表って……エイラムさん?」
「だから、アイスくん。イベントの詳細は夜までナイショ!」
私以上に町長の息子は何も知らされていない様子。
だから、必要以上に不安がるのも無理はない。
しかし、何故魔王の娘はこれからの事を知らせないのであろうか?
まさか、今夜のイベントで町長の息子に何か良くない事でも……?
私は本来死ぬ運命だったところを魔王の娘に助けられた身だ。
だから、彼女が私に死ねというのならば諦める事もできる。
だけど、私は町長の息子を失うのは嫌だ!
もし……もしも、話。
魔王の娘が彼を手に掛けるのならば、私は町長の息子を優先する。
「どうしたの? 緊張してる?」
不意に魔王の娘が私に話しかけてきた。
「い、いえ。そんな事は……」
「一仕事した後だしね。昂ぶりとか、まだ収まっていないのかも?」
突然の事で驚いた。
変な事を考えていたのが見透かされた……のでは、ないと思う。
それでも、何かしらが私の態度に出てしまっていたのかもしれない。
今は兜で顔が隠れているというのに、恐ろしい……。
そんな事を考えている私に、魔王の娘が私の耳元で兜ごしに囁く。
「夜のイベントが終わったら……ご褒美、あげなきゃだね」




