4-7:ヌーム家との決着
聖騎士団の本部からヌーム家の屋敷までは差ほど離れていない。
私は、再びフルフェイスの兜を身に着け、そのまま歩いてヌーム家に向かった。
ついさっき、あれだけの騒ぎを起こしたのだ。
道中に何らかの形で襲われるかと思ったけれど、そんな事はなかった。
まさか、まだバレていない……?
いや、バレていたところで、私を相手にするものがいない。
その可能性の方が高いか。
道中で時々誰かとすれ違うが、皆怯えて距離を取ってくる。
これは、私が聖騎士たちを殺しまくった事への恐怖なのか?
それとも、単純に漆黒の全身鎧に身を包む存在を恐れての事なのかは分からない。
こうして、しばらく歩いていると、ヌーム家の門前まで来た。
「誰だ、貴様は!? 怪しい奴め!!」
門番が私を見るなり、そう言った。
勿論、彼とは面識がある。
けれど、兜で顔まで隠している状態だ。
私だと気付かないのは当然の事。
私は兜を脱いで、門番に顔を見せた。
「ライト……様?!」
「通って……いいでしょうか……?」
「そ、それは旦那様に確認してみない事には……」
そう言って、門番は慌てて中に入って行き、門はがら空きになってしまった。
この隙に、私も中に入ろうかとも思ったが──。
無理に会う程でもない……か。
聖騎士団と違って滅ぼしに来たわけではないし。
そんな事を考えていたのも束の間、門番が戻って来た。
一人ではない。
ヌーム家の人間と一緒にいる。
「色々と騒がしいと思って来てみれば……生きていたのか」
彼は私の顔を見るなり、そう言った。
出てきたのは、ヌーム家の先代聖騎士の長男。
もしも、彼に聖なる魔法の才能があれば、私が養子になる事もなかった。
「聖騎士団内での地位を追われ、聖騎士の名門であるヌーム家に泥を塗って、今更どうして戻ってきた!!」
やはり、こういう態度……か。
形だけの当主……だった私を、家を存続させるための道具としか見ていない。
予想はしていたけれど、やはり腹立たしく苛立ちを覚える。
だから、私はこう言い返してやった。
「ええ、その聖騎士団はついさっき私が滅ぼしました。これで、聖騎士の名門ヌーム家も終わりです」
私のその言葉に、目の前の男は絶望すると思っていた。
落ち込んだところを私はあざけ笑い、聖騎士にされた積年の恨みを晴らそうと──。
しかし、ヌーム家の長男の反応は違った。
「ふふ、ふははははははッ! 憎たらしい聖騎士が、聖騎士団が壊滅。しかも、妬ましたかったお前の手で!」
彼は笑っていた。
「近隣が騒がしかった原因はそれか。まったく、よくやってくれた」
──何がそんなに嬉しいのか?
「聖騎士である事だけで俺に勝っていたお前が、まさか自ら聖騎士という存在を消すとはな。ははは、これで俺の……勝ちだッ!」
──ああ、そういう事か。
ヌーム家の長男もまた聖騎士という存在に囚われていた。
かつて聖騎士だった私と同じ様に。
そして、聖騎士団の壊滅によって彼は解放された……と。
聖騎士たちを殺しても何か引っかかっていたのは、それだ。
私には呪縛から解放された実感がなかったから。
だって、私は魔王の娘の手によって、既に解放されていたから。
聖騎士団を滅ぼしたのは、個人的には単なるけじめ。
そして、建前となる理由は魔王の娘による命令。
だから後悔とかそういうものもない。
単純に刺激が足りなかっただけだと、気付けた。
皮肉にもヌーム家の長男のおかげで。
「(どうして……どうして、あの男は笑っていられるの?)」
「(分からないか? いや、分かっていても認めたくないのか?)」
この場で一人嘆くもう一人の私に対し、私はこう答えた。
「(重荷であった『聖騎士の名門の家系』から解放させれた。ヌーム家の長男も私も)」
「(そんな……先代の当主は家を存続させようとあんなに頑張っていたのに……)」
「(だからこそ、だ。未だに本心を認めて一つになる事も、あるいは未練を解消して消える事もできない者には、到底理解できないであろうな)」
自分の心の中で語っていて気が付いた。
それが、分裂してしまったもう一人の私、聖騎士のが消えない理由……か。
そして、そんな自問自答をしていると、ヌーム家の長男が私にこう問いかけてきた。
「一つ聞きたい。何故、聖騎士団を滅ぼした? 俺と違ってお前には聖騎士団しか無かっただろうに。自暴自棄か?」
──何だ、そんな事か。
「魔王の娘からの命令です。聖騎士団を潰せと」
「……魔王……と、言ったか?!」
流石に魔王の名前が出れば、ヌーム家の長男も驚いたか。
「今の私の魔王の娘に使える暗黒騎士です」
「驚いた。いや、本当に驚いた。ならば、あの噂も……」
「噂?」
「国王が魔王と取引をしたという噂だ。そんな馬鹿な話があるかと思っていたのに!」
もしかして、夜のイベントというのは国王と関係があるのか?
態々、中央まで来たということは──。
「ところで、俺も殺すのか? 聖騎士の名門、ヌーム家の人間を」
「貴方は、聖騎士ではないでしょう?」
「そうだったな。今日、初めて聖騎士でない事を良かったと思えたぞ」
場合によっては殺そうと思っていたのに。
今となってはそんな気も失せている。
「今日訪れたのは、近くまで来たついでの別れの挨拶です」
「そうだな。聖騎士団が無くなった今となっては、お前がヌーム家の養子であり続ける理由もない」
「それでは、もう二度と会う事もないでしょう」
「どうだろうな? 元よりヌーム家は、聖騎士のコネで代々築き上げた政治力の方が主力だ。国が魔王側に傾くならば俺もそっちに取り入るし、まだ何処かで会うかもしれないぞ」
──会いたいとは思えない。
「じゃあな、お互い元気で行きたいものだ」
そう言って、ヌーム家の長男は屋敷の中へと戻っていった。
ちゃんと話をしてみれば、思ったより悪い人でなかったと思う。
けれど、何というか、自身に満ちたようなポジティブな態度が、嫌いだ。
──私は、何をしに来たんだ?
確かに迷いは晴れたけれど……。
夕方に間に合うように戻ろう……か。




