4-5:聖騎士団を一方的に殺します
中央の聖騎士団本部。
その建物の手前に私はとうとう戻って来た。
ここに来るのはダンジョンのある町への左遷が決まった日以来。
だが、あの日と違って今は立場が違う。
今の私は魔王の娘の配下である暗黒騎士。
聖騎士団を滅ぼすために来た存在。
皮肉なもの。
かつての私は、魔王の軍勢と戦うための訓練がきっかけでここを出ることになったのに。
今の私は、その魔王側として本番を成し遂げるためにここにいる。
正面の入口には見張りが二人。
私は今、堂々とその近くを歩いているのだが、慌てる様子もない。
存在には気付いているものの、まさかこれから襲って来るとは微塵も考えていない様子だ。
「ん? 何だお前は?」
「おいおい。ここは、冒険者が来るような場所じゃないぞ」
漆黒の鎧に身を包み、顔もフルフェイスの兜で隠れている私を見てそれか。
見るからに怪しいだろうに、冒険者だと勘違いする腑抜けた様子。
呆れながら、私は見張りの一人を漆黒の剣で斬り殺した。
「え? ちょ……! ひ、ひぃい……?!」
見張りは、鎧ごと胴体から真っ二つになる。
もう一人の見張りはその様子に一瞬固まり、そして顔を真っ青にしながら急いで中に逃げようと慌てふためく。
しかし、私はそれを後ろから剣で突き貫いた。
「そ、そんな……痛い、痛いよ……たすけ……」
私が剣を引き抜くと、その見張りも倒れてしまった。
平和ボケしていた結果だろう。
最後の力で仲間に危険を伝えるわけでもなく、これなのか。
「(ああッ! 何て、何て事を! 仲間を殺してしまうだなんて!!)」
「(黙れ! あれは貴女の仲間であって私の仲間ではない!)」
私の中にしつこく残るもう一人の私が嘆く。
またこれか。
弱い聖騎士の一人や二人を殺したくらいで──。
「(これも、これも全部魔王の娘のせいなの?)」
「(そんな事を言って私を止めたいのか? どの道、魔王の配下の誰かが殺す命だ)」
「(それでも、貴女にだって彼らと過ごした日々の記憶はあるでしょうに)」
「(ええ、あるとも。だからこそ高ぶるというもの。私を一度殺した聖騎士団なのだから)」
ふふっ、そうだ。
もっと嘆き叫べばいい、もう一人の私。
嘆き疲れて消えてしまえ!
そして私は、聖騎士団本部の中へと進む。
奴らを皆殺しにするために。
建物の中にいた聖騎士たちは、私の姿を見て最初は呆気に取られていた。
何か変な奴がやってきた程度の反応。
だがそれも、その中の一人が私に斬り殺されるまでの事である。
「敵襲……だ……と?!」
「くそッ、門番は何をしていたんだ!?」
「とにかく、今は一刻も早く装備を!」
事態に気付いた聖騎士たちは急いで装備を整える。
神樹で作られた剣と鎧を装備し、それを聖なる魔法で強化。
魔法の力で木製の武器や防具は銀色に輝く金属製のような見た目に変化した。
かつて聖騎士だった私も使っていた装備と魔法。
聖騎士の特徴であるこの力は確かに強力だ。
だがしかし、それも魔王側の装備の前では無力。
──それは、私が身をもって知っている。
取り囲んで来る聖騎士たちに、私は魔王の娘より授かった剣を振り下ろした。
「ぬわぁッ、け、剣が……!」
私の剣撃を受け止めようとした聖騎士の剣が折れる。
そして、そのまま彼の鎧に目掛けて攻撃した。
「ば、ばか……な……」
聖騎士は鎧ごと私の剣に斬られて倒れた。
攻撃を少しも防ぐことのないまま、魔法で強化されたはずの鎧が打ち砕かれた結果である。
「ええい、くらえッ!」
私が聖騎士の一人を斬り殺した隙をついて、取り囲んでいた他の聖騎士たちか一斉に遅いかかる。
複数の聖なる剣が私を攻撃してきた。
だが──。
「か、固いッ!」
「畜生、どうなっているんだ!?」
魔王の娘から与えられた鎧は聖騎士たちの攻撃を通さない。
私の全身を覆う鎧は全ての攻撃を防いでしまう。
おかげで私は少しもダメージを受けなかった。
皮肉なもの。
暗黒騎士の装備を我が身に包み、それで聖騎士たちと戦う事で分かってしまう。
魔王の娘に挑んだ過去の私が、如何に無謀だったという事が。
そして、一方的な攻撃はかつての勇者そのものだ。
あの時は一応訓練だったけれど今は違う。
まさか私の手で本番を行う事なるだなんて。
「だ、ダメだ。こんなのに勝てるわけがない。に、逃げよう!」
「逃げるって、団長たちは──」
「知るか!」
数いる聖騎士の中から逃げる者が現れ始めた。
追いかけるべきかと私は一瞬考える。
しかし、魔王の娘の命令は聖騎士団の壊滅で皆殺しではない。
逃げたい者は捨て置く事にした。
むしろ、この力を前にして戦う方がどうかしている。
そう、かつて聖騎士だった私の様に。
団長──。
こんなに騒ぎになっても出てこないなんて。
ひょっとして、他の聖騎士たちを置いて逃げた?
とりあえず、団長の部屋まで行ってみようか。
どの道、アレを殺さない事には騎士団を壊滅させたとは言えないし。




