表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/55

1-2:左遷通告

 勇者とのやり取りからの数日後の事である。

 私は団長に呼び出された。


 団長と直接話をする事なんて、これまでに殆ど無い。

 何か、悪い予感がすると思いながら、私は恐る恐る団長の部屋へと入った。


「ライト・ヌーム。君にやってもらいたい任務がある。これから、この場所にまで行ってくれないか?」


 そう言って、団長は私に地図と指令書を手渡した。


「近年、ダンジョンなるものが出現した町の調査……ですか」

「そうだ。報告がある八つの町のうちの一つだ」


 遠方の町への調査任務?


 討伐任務では遠方に向かうこともある。

 稀に強力なモンスターが出現して、聖騎士団の手が必要になるからだ。

 けれど、調査でそれも遠方なんてのは聞いた事がない。


 奇妙な任務だと思いながら、私は指令書に目を通す。


 書類に書かれている場所は、中央から離れた辺境にある町。

 何でも、その町に出現したダンジョンから貴重な武器や防具、アイテム等が出るらしい。

 その為、一攫千金を夢見た冒険者の類が集まっているとも聞く。


 けれど、そんなに美味しい話があるのも変である。

 だからこそ、聖騎士団としても調査を行い、その真偽を確かめたいのかもしれない。


「何か質問は? なければ早速取り掛かってくれ。現地までの移動手段はこちらで手配する」

「あの……? 指令書には人数や期間が記載されていないのですが……?」


 何かおかしいと思ったら──。

 こんな肝心な情報が抜けているだなんて。


「ライト・ヌーム。この任務は君一人で行ってもらう。そして、時間をかけてじっくり調査してほしい」


 一人で……?

 しかも、じっくり調査って、もしかして無期限??

 この条件だと、調査が終わるまで帰還できない?!


「調査の大まかな目的や目標は何でしょうか?」


 せめて、これくらいは知っておかないと。

 でないと一生帰還できないかも。


「今後、聖騎士団が現地で何かしらを行う場合の案内役にもなってもらう。それから、何か異変があれば逐一報告するように」


 ──答えになっていない。

 いいえ、これは暗に帰れないという答え。

 事実上、一生そこに赴任しろというお達し。


 赴任先は町とはいえ、ほんの数年前までは農村だった場所。

 ダンジョンによる好景気で町へと成長したらしいけれど、所詮は田舎。

 要するに、誰も行きたがらない場所での仕事を私に押し付けたわけだ。


 ──そういう事。


 私は、先の勇者との争いを思い出した。

 つまり、これは勇者からの圧力による結果。

 厄介払いと不人気任務の双方を解決するためにと。


「つまり、勇者の件による左遷……ですか?」

「私にそれを聞いてはいけない!」


 団長は答えてくれない。

 けれど、それこそが答えなのだと思う。


「では、行きたまえ」


 ──これ以上は、答えてはくれなさそう。

 仕方なく、私は部屋を出る。

 部屋を出ると、団長直属の部下の一人が私を待っていた。


「ライト・ヌーム、話は聞いてるな?」

「……はい」

「では、身支度を済ませたら早速向かおう」

「あの? 向かうというのは……?」

「荷馬車の発着場だ。馬車の警護を兼ねて乗せてもらう事になっている」


 もう帰れないというのに急過ぎる。

 これも、あの勇者の指金なのか?

 私に対する嫌がらせで、一刻も早く私を聖騎士団から追い出すために。






 私は、急いで家に戻り、最低限の荷物を持てるだけ詰め込み始める。


「とにかく、何にも無いところへの旅だから、本だけはできるだけ持って行かないと」


 行先がどんな場所かは分からない。

 けれど、少なくとも野宿が必要だとかそういう場所ではない。


 仮にも町だから衣類や食料は何とでもなる。

 けれど、道中に何かアクシデントがあるかもしれない。

 万が一の場合に備えて、最低限のものは持っていかないと。


 私は、着替え一式を鞄に詰め込む。

 続いて、家にある保存食の内、運べるものを。

 そして、空いたスペースに持っている本を入れた。


「これが、限界……かな?」


 元から手持ちは少ないので、持っていきたいだけの本は入ったと思う。

 これなら、しばらくは娯楽には困らない……と、信じたい。


「行かなきゃ……」


 本当は行きたくない。

 けれど、私には聖騎士団を辞められない理由がある。

 それは、私の家の問題だ。


 聖騎士の名門ヌーム家に才能を買われた私は、聖騎士になるために養子になった。

 だから、私は家のためにも聖騎士を辞めるわけにはいかない。


 ──辞めたところで、他に仕事が無いと生活できないし。


 これが、本音かもしれない。

 家のためというのは些細な事だ。

 仕事も帰る家も無くなる恐怖から、従う他ない。


「やってしまった事は仕方ない……か」


 勇者に逆らった事は後悔していない。

 あの時我慢できたとしても、次の日我慢できそうになかったし。

 遅かれ早かれ結果は変わらなかったはず。


 だから……今は、行くしかない。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ