3-5:帰宅
私は魔王の娘、そして町長の息子の三人で、ドワーフたちの居住地を出た。
まず出口の場所に驚く。
ダンジョンに裏口なるものがあったなんて。
しかし、おかげで今日のところは町の衛兵たちと顔を合わせずに済む。
──この姿を彼らが見たらどう感じるのだろうか?
屋敷までの短い道のりで、町長の息子は魔王の娘と楽しそうに会話していた。
私はその後ろを黙って付いていく形。
本当はもっと会話したいけれど、暗黒騎士になっても中々そこは上手くいかない。
屋敷に到着して、私は町長の息子に案内され、宣告通り新しい部屋へと通された。
そして、屋敷のメイドたちにも暗黒騎士として改めて挨拶される。
「部屋の中に暗黒騎士がいる時は、呼ばれない限り決して入らないように」
「は、はいッ!」
町長の息子が私に気を使い、メイドたちに約束させる。
実を言うと、メイドに世話を焼かれるのは若干煩わしくもあったので、丁度良かった。
一通りの事が終わってメイドたちが部屋から出ていく。
私は町長の息子と二人きりになった。
「不便でしょうが、我慢してください」
「いいえ、元はと言えば私のせいですし……」
少しの間、沈黙が走った。
「私が、私がもっと素直になれていれば、こんな事には」
「いえ、私が勇者殺しの事をバレないようにしていれば」
互いに言葉に詰まる。
「──私が側室で、嫌でしたか?」
「嫌とかそういうのではないです。むしろ、嬉しいです。ですが、突然の事で私がライト様の気持ちにどう応えればいいのか、戸惑っています」
当然の反応だと思う。
聖騎士の時の私は、町長の息子に対する好意を隠してきた。
正確には、そう考えるのは悪だと思い、意識しないようにしてきたわけだ。
できるだけ立派な聖騎士として虚栄を張ってきた結果である。
少し優しくされたくらいで好きになってしまう様な、弱いところは見せたくなかった。
だからこそ、暗黒騎士になった私がいきなり好意を寄せれば戸惑うのも当然。
今までのイメージが唐突に崩れてしまったのだから。
けれど、これからはもう隠す必要は無い。
むしろ、側室という立場になった以上は好意を伝えた方がいいくらいだ。
そうでないと、町長の息子だってパートナーに好かれないのは辛いだろうし。
──いいえ、それは単なる言い訳。
本当のところはよくわからない。
私は優しくしてくれる町長の息子を、欲望のまま弄びたい──のかもしれない。
魔王の娘に言われた通り、私は町長の息子に恋している──のかもしれない。
しかし、確かな事は一つある。
私は町長の息子に受け入れてほしい。
そして、彼にもその気持ちに応えてほしい。
だから、まずはこう……提案してみた。
「でしたら、私をアイス殿専属の暗黒騎士にしてください。私は騎士としてアイス殿に就くすので、アイス殿はそれに応えれば、と」
「成る程……わかりました。やってみましょう」
やった、受けてくれた!
ふふ、これで私は町長の息子の暗黒騎士。
「では、誓いを──」
私はそう言って町長の息子に近づき、その手を取った。
すると、町長の息子が何だかドギマギしている様子を見せる。
それがまた、何とも愛おしい。
そして、私は誓いの口づけを、町長の息子の手の甲にした。
「今日からは暗黒騎士として、宜しくお願いします」
互いに顔を見合わせる。
そして、町長の息子がほほ笑み、私も微笑んだ。
だが、その時──。
「ちょっと、アイスくん。何時まで暗黒騎士の部屋にいるの?」
唐突に魔王の娘が部屋へと入って来た。
「もう、今後の事で色々と話とかあるんだからね!」
「わ、わかったよエイラムさん」
「それじゃあ、アイスくん連れて行くから。問題ないよね、私たちの暗黒騎士」
「は、はい」
そう言って、魔王の娘は町長の息子を部屋から連れ出してしまった。
「それではライト様、また今度」
先に町長の息子が部屋から出る。
それから、魔王の娘が私に小声でこう囁いた。
「続きは、次に何か仕事をしたらさせてあげる」




