3-3:鎧と褒美
仕方なく、私はドワーフの工房があるフロアで過ごした。
1日後には鎧が完成して、ドワーフたちの仕事の早さとその恐ろしさを思い知る。
運ばれてきた鎧は、頭から足まで全身を覆うタイプのもの。
そして、暗黒騎士に相応しい漆黒の全身鎧であった。
確かに、これなら顔が隠れるし、町に出ても気付かれる事はない。
けれど……。
重すぎて、動けなくなりそう。
どうしよう?
無理だと思うけど、折角作ってもらった手前一度くらいは装備しないといけないかな?
──軽い?!
装備しようと手で持ち上げた時、そのあまりの軽さに驚く。
これなら、大丈夫かも。
実際に装備をしてみると、思ったより遥かに着やすい。
この手の鎧は一人で着るのは難しいと聞いた事はあったけど……。
これも、ドワーフの技術力なのかな?
鎧を装備した私は、暫くその辺りを歩いてみた。
やはり、思った通り軽く、そして難なく動く事ができる。
聖騎士の時に着ていた鎧よりも動きやすいかもしれない。
そうして歩いていた時の事だ。
魔王の娘、そして町長の息子が私の様子を見にやって来た。
「やっほー! この調子なら大丈夫そうだね」
「こ、これがライト様……で、いいんだよな?」
目覚めてから初めて見た町長の息子の姿に、私は思わず感極まってしまう。
「アイス殿!」
そう、叫んだのは聖騎士の方の私だと思う。
だけど、そこから先の言葉が思い浮かばない。
色んな事への思いを巡らした上、暗黒騎士の私が何とか自制した結果だ。
私は、頭全体を覆う兜を外して二人のところに駆け寄った。
魔王の娘は、鎧のまま動く私の姿を見て、満足した様子。
そして、私の顔を見た町長の息子は安心したのか、ほっとした様子だ。
「よかった……。本当に、生き返ったのですね」
「へへッ、凄いでしょう?」
二人共、嬉しそうでよかった。
何だか私まで嬉しくなってしまう。
──これも、私が二つに分かれた事による心境の変化だろうか?
「えっと。鎧も完成した事だし、これから暗黒騎士には色々と働いてほしいんだけど──」
いったい、魔王の娘にどんな仕事を要求されるのだろうか?
「まずは褒美って事で、そこのアイスくんを好きにしていいよ」
──え?
た、確かに前々から魔王の娘はそんな事を言ってはいたけれど……。
いいの?
「ちょ、ちょっとエイラムさん……?」
私よりも先に町長の息子が困惑した様子だ。
少しだけ、何かを期待してしまった私は、何だか申し訳ない気持ちになる。
「いいの……私が許すんだから。そこの部屋で少しの間楽しみなさい」
そう言って、魔王の娘は私が仮宿として寝泊まりしている部屋を指差した。
私も正直、突然な事でやりたい事なんて思い浮かばなかったけれど。
部屋で二人っきりだと、やる事なんて……。
「アイス殿。では、行きましょうか」
私は、淡い欲望のままに町長の息子の手を引いて、部屋へと連れ込んだ。
「(ダメッ! 私は、私はこんな事望んでいないッ!!)」
聖騎士の私が心の中で叫ぶ。
だが、以前の様に一瞬でも表に出して喋られるわけにはいかない。
折角の、町長の息子との二人きりの時間なのだ。
「ははっ。エイラムさんにも困ったものです。いきなりあんな事言われても」
「大丈夫です。私に身を任せれば──」
私は、着ていた鎧を脱ぎ始めると、それを見た町長の息子が慌てだす。
「えっ、ちょっと、何をしているのですか!?」
「だって、こうしないと──」
鎧を脱いで薄着になった私は、町長の息子を抱きしめる。
「アイス殿の温もりを感じられないじゃないですか……」
「!!」
自分でも大胆な事をしている自覚はある。
正直、以前の私ならばこんな事はできなかったと思う。
このような大胆な行動に出られたのは、きっと私が二つに分かれてしまったせいだ。
「(ふしだらなッ! こんな事、こんな事、私は……)」
だから、もう一人の私が必死に嫌だと叫んでいる。
そして、この羞恥心から来ている聖騎士の心の叫びが、暗黒騎士の私の悪心に響く。
それがまた何とも心地よくて、私はますます町長の息子を求めてしまう。
「ライト様……」
「もう少し……私に生の実感をください……」
あたたかい……。
生のぬくもり、いいッ!
でも、これはそれだけではない。
「(やめてッ! 私は、アイス殿の事をそんな風に思っていたわけじゃない!)」
聖騎士の私は心の中で必死で否定してくる。
そして、私もいけない事をしているという自覚がある。
恋愛ではなく、無理やりという背徳感が何とも心地よいのだ。
肉欲のまま異性の人肌のぬくもりを受ける淡い快感。
それがまた、何とも背徳感を刺激してくる。
暗黒騎士となって柵が取り払われた私は、そういったものを貪欲に求めてしまう。
「わかりました。ライト様がそう望むなら……」
町長の息子もまた、その両腕で私を抱きしめる。
そこから伝わるぬくもりで、私の淡い快感がますます増してしまう。
「(私は、そんな事……私欲を満たすために従わせるなんて望んでいないのに……)」
「(でも、欲しかったんでしょ?)」
「(それは……)」
「(だったら、楽しまないと)」
結局、もう一人の私も欲しかったんじゃない。
もっと早くにこうするチャンスはあったはずだ。
なのに、正しくありたくて自分の気持ちに嘘を付いていただなんて。
でも私は違う。
あの聖騎士の私とは違って、欲しいものは求める。
だから、許されるならばもう少し……いいえ、もっと。




