3-2:もう一人の私
「側室!? な、何を! 私とアイス殿はそんな関係では!!」
そう高々と反発したのは、もう一人の私の方。
聖騎士の私が真っ向から魔王の娘の好意を蹴り飛ばした。
「くッ! 失礼。何か琴線に触れると出てきてしまうみたいで」
暗黒騎士の私は、慌ててもう一人の私を抑え込む。
「うーん、面白いからそれでいいかな。その都度、わからせてあげて」
わからせる……?
魔王の娘のその言葉の意図はよくわからなかった。
「でも、まずは食事とか身支度とかしなきゃ。そんな姿で彼に会ったら駄目だよ?」
そうか、起きたばかりでよくわからない。
だが、あの時の記憶は胸を貫かれたのが最後で……。
私は、胸部に手を当ててみたが特に変わりはない。
「へへっ、私が治したんだから。傷とか残っていないし安心して」
どんな方法なのかは覚えていないけれど、治っている事はたしかみたいだ。
でも、私はもう一つの違和感に気付いてしまった。
私は服を着ていない。
さっきまでベッドに寝かされていたのもあってか、無意識に毛布を纏っている。
そして、毛布の下は当然ながら全裸であった。
「あ、あの……服は?」
「それなら治療の時に邪魔だったから脱がして……って、新しいの持ってこなきゃ!」
そう言って、魔王の娘は慌てて部屋を飛び出した。
私は、毛布の下に隠れていた自分の体を覗き込んだ。
自分で見える分にはやはり、傷は一つも残っていない。
むしろ、気になる点があるとすれば左胸に奇妙な模様の様なものが浮かび上がっている事。
──これも治療に関係あるものかもれない。
何かあるといけないので、むやみに触ったりするのは止めておこう。
着替えや食事等を終わらせて、辺りを出歩いてみた。
私がいる場所は、ダンジョンのようであってそうではないような不思議な場所である。
──ドワーフたちの工房、かな?
部屋の外に出て見えたのは、武器や防具を作るドワーフたちの姿。
ある程度、広い空間にはなっているけれど、何かの建物の中みたいな感じ。
私は普段通りに動けている。
胸を貫かれる大怪我が治って目覚めたばかりだという事を忘れそうなくらいに。
このまま、外に出れば以前の様に生活できそうではあるけれど……。
「(ここから脱出して、魔王の娘の事を聖騎士団に報告しないと!)」
「(そんな事、させてたまるか! 私を陥れた聖騎士団なのに……)」
そうだ。
聖騎士団は魔王の娘の敵。
そして、ダンジョンによって潤っているこの町の敵になる相手。
聖騎士団の団長も、ある程度は魔王の関与に気付いていたのかもしれない。
だけど、それは些細な問題。
理由はどうあれ、私はその危険な地に単身送り込まれて死にかけた。
捨て駒にされたのだ!
だから、聖騎士の自分と分裂してしまった今の私には、奴らに対する恨みしか残っていない。
そんな事を考えていた時の事だ。
魔王の娘が私に声をかけてきた。
「調子は大丈夫そうかな?」
「はい……ですが、左胸に何か、その、奇妙なものが……」
「うーん、とね。ここには、貴女の聖騎士だった部分が封印されているの」
そっか……。
もう一人の私、聖騎士の私はここに……。
それでも、時には封印を超えて出てきてしまう。
「そう……ですか。今でも、時々聖騎士が出てきてしまうのは、封印が……」
「聖騎士としての部分がそれだけ強かった。無理にそれを変えようとしても中身が二つに分かれてしまう。今の貴女がそう」
「だとすると、何時かは……」
そう。
今は私が体の主導権を握っている。
けれど、何時かは聖騎士の方に私が乗っ取られる事も……。
「だから、そうなる前に聖騎士の方を説得しなさい。でないと、貴女は結果的に死を選んでしまうから」
魔王の娘に一度殺され、私は生き返った。
けれど、暗黒騎士の私がいなければ、また聖騎士の私が動いてしまう。
そうなると、もう一度魔王の娘に戦いを挑んで今度こそ……。
「折角助けていただいた命ですので……頑張ってみます」
「そんなに気張らなくてもいいよ。解放された生活を貴女が満喫すれば、きっと聖騎士の方もわかるはずだから」
それで上手くいけばいいけれど……。
「そうだ、これを言わなきゃいけなかったんだ。貴女は町では死んだ事になっているから、外に出るのはもう少し待って」
ええ……。
確かに私は一度死にましたけど、これからどうすれば?
「あの、それだと私は町には二度と行けないのでは?」
「それは大丈夫。今、ドワーフさんたちにフルフェイスで顔が隠れる鎧を作らせているから」
それなら……大丈夫なのかな?
「鎧が完成したらアイスくんにお披露目して驚かせよう!」




