3-1:蘇生
ここまでが、私の記憶──。
いや、生前の私の記憶……だろうか?
私は、あの場で一度死んだ女聖騎士から作られた存在。
魔王の娘によって、女聖騎士が救われた存在だ。
その事は、何故か最初から自覚していた。
あの後で、魔王の娘が女聖騎士を秘術で復活させた結果が私。
だから、早く目を覚まさないと……。
「おお、目が覚めたようだぞ」
目覚めた時、私はベッドに寝かされていた。
ここは、何処かの部屋みたいだけど、見覚えは無い。
周りには複数人の小人がいる。
いかつい顔の中年で頭身の低い感じ。
私の生前の記憶から察するに、ドワーフだと思う。
私は、とりあえずドワーフの一人に話しかけてみることにした。
「魔王の娘……エイラム様って言った方が分かりやすい? 彼女に挨拶したいのだけど」
「おっと、そうだったな。お嬢にも、目覚めたら連絡しろと言われていた」
そう言って、小人の一人が魔王の娘を呼びに行った。
「しかし、お前さん。目覚めたばかりなのに随分としっかりしているなあ」
「ええ、だって私は……」
私がそう言いかけた時、魔王の娘が部屋に入ってきた。
そして、私の中にいる『もう一人』が、いきなり出てきて……。
「お、おのれ魔王の娘! 今度こそ!」
そう叫んだ矢先、私は慌てて自分を抑え込む。
──そういう事なのだ。
私は魔王の娘に作られた従順なる下僕……。
だけれども、元になった女聖騎士が消えたわけじゃなかった。
記憶は共有している。
これまでの聖騎士団での行いや、勇者に逆らって左遷された事だって覚えているし。
むしろ、全部私がやった事。
ダンジョンのある町での生活も、町長の息子に優しくしてもらった事だって覚えている。
これも、記憶を引き継いだなんてものじゃない。
全部、全部私が体験した事。
なのに、なのに、どういうわけか聖騎士への未練が無い。
魔王の娘に対するモヤモヤする感情が抜け落ちている。
まるで、さっき出てきた元の私にそういうのを全部持っていかれたみたいで……。
「失礼。貴女の忠実なる下僕、ただいま目覚めました」
「へー。成る程、私に従うのが嫌過ぎて人格を二つに分けちゃったんだ」
「? と、仰られますと?」
「安心して。貴女は貴女、本物の聖騎士ライト・ヌームだから」
つまり、私は魔王の娘によって新たに作られた存在ではなく、元の聖騎士と同じ。
そして、さっき出てきたもう一人の私もまた、元の聖騎士と同じ存在。
単純に二つに分裂しただけ。
「うーん、でも貴女はもう聖騎士じゃないし、これからは私の暗黒騎士として生きなさい」
そう言って、魔王の娘は私を暗黒騎士に任命した。
成る程、それなら分かりやすい。
私が暗黒騎士で、もう一人の私が聖騎士。
聖騎士の私を暗黒騎士の私が制すれば完璧になれる。
「畏まりました。貴女の暗黒騎士として忠誠を誓いましょう」
「って、そんなに畏まらなくていいって。もっと気楽に行こうよ」
「でも、これが私の性分ですので」
「そ、そこは変わらないんだ……」
二つに分裂したのは聖騎士としての部分だけ。
暗黒騎士になろうと私は私。
魔王の娘に忠誠を誓うのは私の意思で、強制されたものじゃないのか。
私が聖騎士であった時は頑なに魔王の娘を拒んでいた。
けれど、本心では仲良くしたいと思っていたんだ、私。
私と魔王の娘、そして町長の息子の三人で。
「そうそう、貴女が暗黒騎士になったからには新しく装備を用意しなきゃだね。ドワーフさんたち、お願い!」
「おう、任せとけ!」
そうか……私はもう聖騎士ではないから、神樹の剣や鎧は装備できないのか。
他の人たちと同じ、金属を鍛え上げたもので作った装備にしないと。
「安心して、私の暗黒騎士に相応しい強力な装備を用意するから。ダンジョンから出るものよりも強いものにしちゃう」
「よろしいのですか?」
「当然! この装備で強くなってやってもらいたい事とか結構あるし」
そういう事か。
褒美でも何でもない、働くための支給品の装備。
けれど、活躍の場も含めて与えられるのは素直に嬉しい。
「そうだ。私に協力する事への『ご褒美』をあげなきゃ」
「へ? 何でしょうか?」
何だろう?
新たな人生に、新たな装備。
この上、これ以上に何が……?
「アイスくんの事、特別に許してあげる。暗黒騎士、貴女を町長の息子の側室にしてあげる」




