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女聖騎士でしたが魔王の娘によって暗黒騎士にされてしまいました  作者: ヘラジカ
第二章:聖騎士の敗退

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2-6:対決、そして敗北

「魔王の側に来いと!? ふざけるな! 誇り高き聖騎士がそんな事、できるわけがない!!」


 少し前までは、何か事情があるならば勇者殺しも仕方がないとは思っていた。

 だけど……だけど……。

 まさか、こんな理由だったなんて!


「ライト様、お願いですから落ち着いてください。冷静に考えてください。ライト様がこちら側に来なければ、私たちは貴女を殺さなければいけませんし、こんなところで死んでも何も守れません」

「何故です……何故です、アイス殿! ただ勇者が町にとって邪魔だから殺したと言ってくだされば、私は町のため……アイス殿のために事態を黙認して、これまで通りの日常を過ごせたのに……ううッ……」

「ライト様……」

「なのに……なのに……何故、魔王なんかに、魔王の娘なんかに協力してしまったのですか!!」


 こんな真実、知りたくなかった……。

 知りたくなかった!


 この町が魔王の手に堕ちてしまうのなら。

 いいえ、既に魔王の手に堕ちてしまっているのならば……。

 聖騎士である私は、今まで何をやっていたというのだ!!


「ライト様、でしたら聖騎士など辞めてしまわれればよいではありませんか。そうすれば、魔王様に逆らう理由も……」

「聖騎士を辞めろだなんて……アイス殿のお願いであっても、そんな事をしたら私にはもう何も……何もかもが無くなってしまいます……」


 私の価値なんて聖騎士である事しかない。

 私が私でなくなってしまう。

 それは、つまり死ねと言われるのと同じ。


 それに……。


「もうッ! 言ったでしょ? 貴女は聖騎士団からも見捨てられているの、既に何にも無いの! でも、私たちの側へ来るなら望むものは可能な限り何でも……」

「黙れッ! 例え聖騎士団の大半から見限られていても、私を養子として拾ってくれたヌーム家のためにも諦めるわけには!」

「その、貴女を養子に引き取った第二の実家とも言えるヌーム家は、この町に配属された貴女のために何かしてくれた? とっくに見限られているに決まっているじゃない!」

「くッ!」


 この町に左遷させられたのは、不本意ながら私の失態。

 だから、ヌーム家に見限られるのも仕方がない。

 それに、意味のある任務だと分った以上は聖騎士団は誇るべき存在だ。


「いいじゃない、こっち側に来れば。歓迎するから」

「黙れ! 誰が魔王の娘の言う事なんか」

「またそれ? 強情! だったら、アイスくんの事は要らないんだね」


 何故そこで、町長の息子?

 要る要らないとは……??


「気付いていないと思ったの? 好きなんでしょ、アイスくんの事?」


 な、な、な、何を!

 町長の息子には、今まで散々お世話になっていただけ!

 そこに恋愛感情なんて、あるはずが……。


「違う! 私とアイス殿はそういう関係じゃない!!」


 魔王の娘に言われて初めて意識する。

 意識してしまった!


 今まで、私が町長の息子のために役立ちたかったのは、恩返しの気持ちだと思っていた。

 けれど、そう意識してしまったら、町長の息子に好かれたかったからの様にも思える。

 もっと言えば、町長の息子に嫌われたくなかったから……。


「ほらほら、照れなくてもいいから」

「私にとってアイス殿は恩人として尽くしたい相手なだけで、そんな、恋仲になりたいとか、ふしだらな気持ちじゃない!!」


 そう。

 今までは意識した事なんて無かったのだから、そんな気持ちでは接してはいない。

 接していたとしても、それは無自覚なもの。


 だけど、意識してしまった今は……。


 ──わ、私は何を考えて!?


「ふーん、いいよ、だったら私がアイスくんの事を独り占めしちゃうから」

「い、いきなり何を言っているんですか!?」

「言ってなかったっけ? 私はアイスくんと政略結婚するんだよ」

「ほ、本当なのですか、アイス殿!?」

「はい。エイラムさんがそう言うならば本当です」


 な、何? この喪失感?!

 町長の息子を取られたから……?

 いいえ、そもそも取られたとかそんなんじゃないし!


「アイスくんはね、私の言う事なら何でも聞いてくれるんだから。例えば──ねえ、キスして。アイスくん」


 魔王の娘が町長の息子に命じると、町長の息子は言われた通りの事を行った。


「お……俺は、何を!?」

「私の言う事なら何でも聞いてくれる……そういう契約を交わしたの。だからアイスくんは私だけのもの。私が命じれば足だって舐めてくれるんだから」

「え……エイラムさん、これは一体!?」

「ごめんね、アイスくん。あの時、契約の口づけを交わしちゃった。てへッ」


 ショックだった。

 町長の息子が魔王の娘と唇を重ねていた、それだけなのに……。


「そ、そんな……」

「そんなに動揺してどうしたのかな? でも、貴女が私に仕えてくれるなら、貴女にもアイスくんを好きにさせてあげる。魅力的な話だと思わない?」

「思いません!!」


 ──でも、そういう事。


 町長の息子は、魔王の娘に操られているだけ。

 だから、魔王に協力している。


 何だ、悩む必要なんて無かった。


 この町は……町長の息子は、私に助けを求めている。

 だったら、私が助けるしかない!


「今、ようやく迷いが吹っ切れました。アイス殿は魔王の娘に操られていただけで、何も悪くないと。そして、私は戦わなければなりません。アイス殿をあの女から解放するために!」

「ちょっと! 今までの話ちゃんと聞いてた?」

「黙れ! 例え勝ち目が無くても戦わなければいけない時があるのです!」


 あの勇者を殺した相手。

 私では勝てない事くらいわかっている。


 少し前までの私ならば逃げていたと思う。

 逃げて、この事を聖騎士団に伝えて改めて対処するために。


 だけど……だけど、私は気付いてしまった。

 町長の息子に対する気持ちに気付いてしまった。


 あの人が私に助けを求めている。

 町長の息子が私に助けを求めている。


 だったら、もう逃げられないじゃない!


「私たちが戦って一体何になるの? こんなところで犬死にとか駄目だって」

「ええい、覚悟!」


 私は剣を抜いて、魔王の娘に斬りかかる。

 しかし、魔王の娘もまた剣を抜き、私の剣をそれで軽く受け止めてしまった。


 重いッ!

 剣が少しも進まない。

 ありったけの力を入れても、少しも進まないッ!


 聖なる魔法の力を剣に集中させる。

 私のこれまでで一番強い攻撃になっているはず。

 けれど、魔王の娘相手には少しも進む事ができない。


「私、まだ全然本気を出していないんだよ? 今だって軽く受け止めているだけなの、分かるでしょ?」

「それでも! 私は、大切なものを守るために戦わなければならないッ!」


 私は自分の剣を振り上げて、魔王の娘の剣を力いっぱい叩きまくった。

 けれど、鈍い金属音が響くばかりで魔王の娘は少しも動かない。


「守るって、その程度の力じゃ何一つ守れないって。冷静に考えてよ」

「黙れ黙れ黙れ黙れ、黙れッ!」


 私は剣を振り回し続けた。

 しかし、ただ闇雲に体力を消耗するだけで、何も変わらなかった。


「満足した?」

「はぁ……はぁ……この程度で諦めるわけには、はぁ……はぁ……」

「呆れた。私たちの側に来る事の何が不満なの?」


 町長の息子を、魔法か何かで操っておいて、よく言う。


「そう言いながら、私たちの事を無理やり支配するのでしょう? はぁ……はぁ……」

「確かに、お父様の下で統治はするけど、変に逆らわない限り無理やり支配したりはしないって。この町の現状みたいに基本は自主性に任せたいし」

「だったら、何でアイス殿をあんな風にしたのですか!!」


 騙されない!

 町長の息子が助けを求めている。

 だから、ここで私が引くわけにはいかないッ!


「だって、だって、たまにはアイスくんにも積極的に迫って来てほしかったんだもん!」

「……は?」

「だって、さっきみたいに自分から私にキスしたりとかしてくれないんだもん。私は政略結婚の相手なんだよ? 少しは意識して色々してくれてもいいのに、キスの1つくらいおねだりしてきてもいいのに、何にもしてこないんだもん。仕方ないじゃん」

「ふ、ふざけるなあーー!!」


 どうしようもない「怒り」の感情が込み上げてきた。


 私は、怒りに任せて再び魔王の娘の剣を自分の剣で叩きまくる。

 しかし、やはり先程と同じく魔王の娘は少しも動かない。


 ──圧倒的な力の差。


 勝てない事はわかっている。

 魔王の娘が手を抜いている事もわかっている。

 だけど、それでも認める事はできない。


 自由気ままな悪である魔王の娘に対するどうしようもない感情。

 それをぶつける時間が続いた。

 しかし、そんな私に痺れを切らしたのか、魔王の娘が動き出す。


「何? そんなに必死になって。やっぱりアイスくんの事、好きなんじゃない!」

「違う違う違う違う! 私は……」


 今まで動かなかった魔王の娘が剣を振り上げ、そして一撃を放つ。

 私は何とかそれを剣で受け止めるが、しかし重く、それだけで吹き飛ばされそうになる。


「強情! もっと自分の欲望に素直になりなさい!」


 魔王の娘が連続して剣で攻撃してくる。

 私は、その一つ一つを何とか剣で受け止めるが、その度に後ろへと下がってしまう。


「違う! 私は、そんな事、望んでない!」


 私は何とか前に出ようと、魔王の娘の攻撃に合わせて負けじと剣をぶつけ合う。

 しかし、それでも向こうの攻撃が強過ぎて後退するばかり。

 このままだと、私の剣の方が耐えられないかも……。


「違わない!!」


 魔王の娘が、自分の剣に力を込める。

 すると、刀身は力を増して漆黒の炎に包まれた。

 先程までの攻撃さえも、手加減されたものだったなんて。


 こんなの、耐えられるはずがない。

 私は、直観で死を悟った。


 耐えきれなかった神樹の剣は折れてしまう。

 そして、魔王の娘の剣は私の鎧を貫き──。



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