2-5:ダンジョンの町の秘密
言ってしまった……。
とうとう、言ってしまった!
町長の息子は、何やら悩んでいる様子である。
だが、その沈黙を彼の友人の女性が破った。
「その通りですわ! あの忌々しい勇者を殺したのは、このわたくしですわ!!」
そして、観念したかのように町長の息子が後に続いて、こう答えた。
「バレてしまっては仕方ありません。エイラムさんの言う通り、私たちで勇者を秘密裏にこの部屋で始末しました」
──当たっていた。
心の何処かでは、違っていてほしいとも思っていた。
けれど、その儚い希望も今の二人の言葉で完全に消えてしまった。
だけど、それならば……。
「何故です!? 何故私に一言相談してくれなかったのですか!? そうすれば、力になれたのに……」
「それは……」
町長の息子は、答えることに躊躇している。
しかし、その理由はすぐに分かる事になった。
「何故なら、あの勇者は魔王を──私のお父様を殺そうとしていたからですわ!」
「魔王? お父様? エイラムさん、貴女は何を言っているのですか!?」
「ライト様にエイラムさん、二人共落ち着いてください。ライト様には私が順を追って説明します」
──魔王。
実在したというのか?
生前のあの勇者はしきりに「この程度では魔王に勝てない」と言っていた。
そして、今の言葉を聞く限りだと、勇者は──。
「まず、勇者を殺した理由について。これは勇者が魔王様を殺そうとしたからです」
「その魔王とは何者ですか? もし、そんなものが本当に存在するならば勇者でなくても倒さなければなりません」
「魔王様というのは……一言で言えば、このダンジョンを作った者です」
「!? つまり、このダンジョンは魔王の住処であると?」
「そういう訳ではないのですが、魔王様の計略によって各地にダンジョンが出現したと説明した方が分かり易いでしょうか?」
聖騎士団の読みは当たっていた。
やはり、ダンジョンは警戒するもので、形はどうあれ私がこの地に派遣されたのも必然。
魔王が何を考えているのか、まだ分からない。
しかし、私は今とんでもない事実に直面している事は分かる。
そして、それに町長の息子が深く関与している……と。
どうして……どうして、こんなことを?!
「話を続けて大丈夫でしょうか?」
「はい、ダンジョンに魔王が関与している事までは分かりました。続けてください」
とにかく、今は話を聞かないと。
おちつけ……おちつけ、私!
「では、続けます。魔王様は、町長である私の父にダンジョンの管理の一部を任せました。ダンジョンの存在を宣伝して、一攫千金を狙う冒険者たちを集めるようにと」
「……!! まさか、町長殿も、アイス殿も……その魔王に協力していると!?」
「ここからは、わたくしが説明致しますわ!」
町長の息子の友人が割り込んできた。
先程の言い分からすれば、彼女は──。
「改めまして、聖騎士様。わたくし、魔王が娘の一人、エイラムと申しますわ」
「魔王の娘!?」
勇者を殺した犯人。
あの勇者を殺せる実力を持った存在。
それが、魔王の娘。
「そうですわ。この町とダンジョンの管理を行うため、地の底にある魔界から地上へと出向きましてよ」
「この町の管理とは何ですか!? 答えなさい!!」
──町の管理?
という事は、町長の息子は目の前の魔王の娘に操られているだけ??
「ダンジョンに集まる冒険者にお金を落としてもらい、町を発展させる。それが魔王の命ですわ」
「戯言を! そんな事をして何になるのですか!?」
「ライト様、エイラムさんの言う事は本当です。私も町長も、そしてこの町も魔王様のダンジョンによって稼がせてもらっています」
そんな……それって……。
「つまり、アイス殿たちは金のために魔王に魂を売ったと!?」
「──従えば褒美を、逆らえば死を。町を守るために、どちらの選択を選ばなければならないかは、分かりますよね?」
「それは……」
魔王の娘は強い。
あの勇者を殺してしまう程だ。
そして、魔王も……。
「私たち……いえ、この町は今では魔王様のおかげでここまで発展し、町民も満足して暮らしています」
「だからと言って、魔王に協力するなんて……」
わかっている。
わかっている。
けれど……。
「国の中央もダンジョンから産出される武器や防具を珍重しています」
「しかし……真実を知ればそんな事、許されるはずが……」
「一体、誰が許さないと言うのですか!?」
突然、魔王の娘が叫ぶ。
私の今の言葉が不服だったのか、叱りつけるように喰いかかってきた。
「聖騎士団ですか? それとも、エルフですか? 貴女を許さないでこの町へと左遷した者たちに、どうして許しを請わなければならないのですか!」
「だ、黙れッ! 魔王の娘の言う事なんて……誰が聞くか!!」
「黙りませんわ!」
「私は聖騎士ライト・ヌーム! 聖騎士として、善なる者として、悪に与する魔王は倒さなければいけません!!」
「ですが、そちら側に貴女の味方はいませんわよ! 聖騎士様……いいえ、ライト・ヌーム。私たちの側へ来なさい!」
まるで、本性を現したかの様に、魔王の娘の口調が変わった。




