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08 目覚めとお婆さん

 マリー婆さんの手には一粒の丸薬がある。

それは薬であるかぎり必ず、マリー婆さんの目的が込められていることを意味している。

病気でもない私に渡すからには、風邪薬の類いでは無いことは察しがつく。

以前、婆さんが私を警戒、お茶と騙し遅効性の毒薬を飲まされた記憶が蘇る…


「マリーさん…それはどういったものですか?」


婆さんは無言で近づきニヤリとまた笑う。


「さてね。とりあえず飲みな。」


手のひらに渡され婆さんは私の顔を見つめる。

飲めと言う強い意思は分かるが何よりも恐怖心が先に立ち、その先へ進めない。


「毒じゃないよ。いいから飲みな。」


私の思うところが伝わったのか、静かに諭すように再度言われた。

私は意を決し一思いに飲み込む。止まったら二度と口にすることは出来なくなると確信していたからだ。

なんとも言えない、例えるならミント風味の酸味のある黒い腹痛薬のような後味が喉の奥から漂ってくる。激しく吐き戻したい衝動に駆られるが必死に堪える。


これで毒じゃないだと…嘘だろ…


そこで私は意識が混濁し床に倒れる。

まるで泥酔したときのように世界が回り立っていられない。


「キシシ。さてどうかねぇ…」


老婆は邪悪ともいえる笑いを携えながら目だけで私を見下ろしている。

私は回る世界に必死に抗おうと努めるが、無駄な努力と直ぐに悟り目を瞑った。


どうか殺されませんように…






 目が覚めると変わらない天井が見えた。

お世辞にも綺麗とは言えない小屋の埃の浮いた天井だ。部屋の隅には、少しでも餌を多く取ろうとクモの大きな巣が見える。

その横には覗き込む婆さんの姿。

その目は私の挙動を少しも逃すまいとする意思を感じた。

この目は知っている研究者の目だ。


私は倒れたまま放置されていたようだ。

婆さんに見つめられたまま…

ふらつく頭を押さえながら重たい体を何とか持ち上げることに成功する。


椅子に腰かけた婆さんが口を開く。


「さて始めるよ。」


意味もわからず婆さんの声を黙って聞く。


「あんたはこの世界でスキルを得るには年が行きすぎているからね。少し巻き戻したよ。」


「どういう意味ですか?」


婆さんは私の問いかけに、キッチンの水桶を指差す。

覗き込むと口許とおでこのシワが消えた私が水鏡に写っていた。


「10才程度戻したよ。今は20後半から30才くらいかね。」


椅子から立ち外へと向かう婆さん。

ついてこいという意味だろう。

数歩遅れてついていく。


「これからあんたにはスキルを得て貰うよ。それがなきゃこの世界で生きていくことは出来ないからね。」

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