勉強一筋18年。受験に成功したので、次は彼女を作ってみようと思います
受験とは、戦争だ。
そう言われ続けながら、俺・神崎浩太は高校生活を送ってきた。
「志望校に受かりたい? だったらドラマやアニメみたいな青春が送れるなんて、ゆめゆめ思うんじゃねぇぞ」
それが担任の口癖で、現実にクラスメイトの中で彼氏持ち或いは彼女持ちは、2、3人しかいなかったと思う。
朝女の子と一緒に登校するなんて、そんなことはない。登校中のお供は単語帳だと決まっている。
昼休みに女の子の手作り弁当を食べるなんて、そんなことはない。だって昼休みは自主学習する時間だろ? 昼食はその前の10分休みでパパッと済ませてしまう。
休日女の子とデートをするなんて、そんなことはない。学校のない日は、予備校に行かないといけないからな。
志望校に合格する。ただそれだけを目標に高校3年間……いや、これまでの人生を生きてきた。
世間の高校生からしたら、「お前、そんな生き方で楽しい?」と思われかねない青春を送っていたわけだけど、余計なお世話だ。
なぜならその甲斐あって、俺はこの4月から第一志望の大学に進学することになったのだから。
心待ちにしていた大学生活が始まって、早くも2ヶ月が経過した。
高校までとは違う授業形態やサークル活動にも、俺は徐々に慣れつつあった。
キャンパスライフを楽しみながら、俺は思う。まさに俺は、この瞬間の為に勉強を頑張ってきたのだと。
青も春もない。氷河期と言っても過言じゃない高校時代があったからこそ、俺は今をこれだけ謳歌することが出来るのだ。
勉強一筋18年。そんな生活は、もう終わりだ。
これからは恋愛にだって、力を注いでいくぞ!
そう意気込んだ俺は――現在サークル主催の合コンに参加していた。
「それじゃあ運命になるかもしれない出会いを祝して、かんぱーい!」
『かんぱーい!』
周りのノリについていくように、俺もそこそこ大きな声で「かんぱーい」と言う。
合コンの参加者は、俺を含めて8人だ(内訳は、男4人女4人である)。
全員同じ大学の学生で、話を聞いているとそのほとんどが恋愛経験有りのようだった。
対して大学デビューの俺は、一般的な大学生の恋愛観というのがわかっていない。だから、そんな俺にさり気なく胸を押し付けてくるな! こちとら女の子と手を繋いだことすらないんだっての!
合コン開始直後は、まだ良かった。
女の子たちが品定めも兼ねて俺に話しかけてくれたので、都度返事をすれば会話も成り立つ。
しかし、そんな付け焼き刃がいつまでも通じるわけもなく。2時間程経つ頃には、女性陣も「あっ、こいつ童貞隠キャ野郎だな」と察したのか、段々と俺に話しかけなくなっていた。
彼女たちは、どうやら百戦錬磨のイケメン先輩の方がお好みのようだ。
居た堪れなくなった俺は、気分転換に外の空気を吸ってくることにした。
一応「ちょっと席外します」と伝えるも、誰も聞いていない。
店の外に出るなり、俺は大きな溜め息を吐く。
「恋愛って、思ったよりも難しいんだな」
勉強は、やればやった分だけ自分の力になる。
恋愛も同じだ。沢山の成功や失敗、後悔を糧にすることで、本当の幸せを掴み取ることが出来る。
だとすると、俺には当分彼女が出来そうにないな。勉強だけして生きてきた俺は、圧倒的に恋愛経験が不足している。
今日の合コンは、間違いなく失敗だ。だからこの失敗を分析して、次に活かすとしよう。
その為にも、いつまでもくよくよしていないで、先輩たちの言動を観察するとしようかな。
そう考えた俺が店内に戻ろうとすると……「神崎くん!」と、突然背後から名前を呼ばれた。
振り返ると、そこにいたのは合コンに参加していた女学生の一人で。名前は確か……遠藤陽だったか?
「もしかして遠藤さんも、外の空気を吸いに来たのか?」
「まぁ、そんなとこ。あぁいうリア充のノリ? にまだついていけなくて。ちょっと休憩」
確かに、他の人たちに比べて遠藤さんはどこかぎこちないというか、大人しい印象を受けた。
それでも俺と比べたら、だいぶマシだが。
「高校時代は勉強ばっかりで、恋愛なんてしてこなかったからね」
「そうなのか?」
「そりゃあ、そうだよ。あの高校にいたら、恋愛する時間も気持ちの余裕もなくなるって」
笑いながら言う遠藤さんだが、いや、君の通っていた高校の話なんて知らないって。だから「あの高校」とか言われても、共感出来なかった。
思っていたのとは違う反応をする俺を見て、遠藤さんは「ん?」と首を傾げる。
「もしかして……気付いてない?」
「気付いてないって、何が?」
「私、去年神崎くんと同じクラスだったんだけど」
……何だって?
俺は頭の中で、去年のクラスメイトを出席番号1番から順に思い出す。浅井、飯田、伊藤、岡島……あれ?
「遠藤なんてクラスメイト、いなかった筈だが?」
「……あぁ。実は先月母親が再婚して、遠藤に変わったんだ。去年までの苗字は、水瀬だよ」
水瀬陽……その名前には、聞き覚えがあった。
「そうか。お前はあの水瀬だったのか」
「元クラスメイトに気付かないなんて、薄情だよね。私は神崎くんだって、一発で気付いたよ?」
「気付くわけないだろ。高校の時とは比べ物にならないくらい、綺麗になってるんだし」
「え?」
一瞬驚いたような顔をした遠藤だったが、みるみる内に顔を真っ赤にする。
「綺麗とか、簡単に言うなし! この女たらし!」
「綺麗って言っただけで女たらし認定されるなら、口を開けば口説き文句の先輩は最早性獣じゃねーか」
こういう発言からも、俺たちにろくに恋愛経験がないことが窺える。
「恋愛には教科書や参考書がないから、余計に難しいよね。ただでさえ私たちみたいな人間は、他の人より出遅れちゃっているわけだし」
「Fラン高校の生徒が、難関大学受験向けの講習を受けるようなものか。そりゃあ今日の合コンも、場違いなわけだ」
「そうだね。FランはFラン同士、一歩ずつ成長していこうよ」
「だな」
……ん? 思わず返事をしてしまったけど、それってどういう意味だ?
隣を見ると、遠藤が俺に手を差し出している。
「私たち、付き合ってみない?」
付き合う? 俺は現国偏差値70の頭脳をフル回転させて、その言葉の意味を考える。
この場合の付き合うというのは……買い物に付き合うとか、そういう意味じゃないよな? 交際するって意味だよな?
でもそれが勘違いだったら、この上なく恥ずかしい。なので俺は、念の為確認する。
「それって……俺と恋人同士になるってことか?」
「そうだよ」
「つまり……遠藤さんは、俺のことが好きってこと?」
「それは違うね」
違うのかよ……。期待していた分、ショックを受けている自分がいた。
「好き合うんじゃなくて、付き合うことが目的っていうのかな。身の丈にあった交際をすることで、一緒に恋愛とは何なのかを学んでいきたいと思うんだよね。そしてそれが出来るのは、同じ高校出身の神崎くんしかいない」
「……それについては、今日の合コンで嫌って程理解した」
「だったら、話は早いね。……もう一度聞くけど、私と付き合ってみない?」
交際経験なんて、したくて出来るものじゃない。特に俺みたいな恋愛初心者には、またとないチャンスである。
この好機を棒に振るなんて、愚の骨頂。ならば、答えは決まっている。
「あぁ、よろしく頼む」
俺は差し出された遠藤の手を、しっかり握る。
大学生活2ヶ月目。仮ではあるけれど、早くも俺は彼女を作るという目標を達成したのだった。
◇
翌日。この日も何の変哲もない平日なので、普通に大学がある。
席に着き講義が始まるのを待っていると、マイハニー(仮)の遠藤さんが声をかけてきた。
「おはよう、神崎くん。隣、良い?」
「おう。別に構わないぞ」
俺の了承を得てから、遠藤さんは隣に座る。
隣で講義を受ける準備をする彼女を、俺は横目で見た。
高校の頃は、お世辞でも可愛いとは言えない制服を着ていた。だけど今は、どこぞのアパレルショップのマネキンが着用しているようなコーディネートをしている。
きっと大学生になるにあたって、必死でおしゃれの勉強をしたのだろう。改めて観察すると、遠藤さんはめちゃくちゃ可愛かった。
「……どうかした?」
「えっ、何が?」
「いや、私のことジーッと見ていたからさ。もしかして、可愛い陽ちゃんに見惚れちゃった的な?」
まさしくその通りだよ。
しかし肯定するのは恥ずかしかったので、俺は咄嗟に「違う」と嘘をついた。
「それより、友達と待ち合わせしていたりしないのか? 付き合っているからと言って、別に講義中まで一緒にいることはないんだぞ?」
そしてすぐさま話題を逸らす。会話における常套手段だ。
「大丈夫。さっき友達から、「今日の講義はサボる」って連絡がきたから」
「講義をサボるって……そんな選択肢があるのかよ」
「本当にね。私も思わず、耳を疑ったよ」
こういうところも、普通の大学生と俺たちとの価値観の差なのだろう(それでも講義をサボっちゃいけないという考え自体は、間違っていないと思うが)。
講義を受けながら、俺たちはこの交際における大前提を確認する。
「この交際の目的は、交際を重ねることで恋愛の経験値を積むこと。だから私たちは形式上付き合っているだけで、互いに好き合っているわけじゃない。ここまではOK?」
「OKだ。どちらかに意中の相手が出来た場合、この関係は破綻する。つまり別れるというのが、前提条件になっているんだよな?」
「理解が早くて助かるよ。流石はあの高校出身だね」
その発言は、あまり誉められているような気がしないな。
しかし思考パターンが似ているというのは、確かに楽だ。考え方があまりにかけ離れている相手では、たとえ経験を積む為であっても付き合える気がしない。
「現状私にも神崎くんにも、好きな人はいない。そんな私たちが、まず行うべきことといえば、何なのか? ズバリ、デートだと思います!」
デート、か。それはカップルと切っても切り離せない単語の一つだ。
世の中カップルたちは毎週のようにデートに勤しんでいると聞いたことがある(あの高校在学中に聞いた話なので、真偽の程は定かでない)。
「一応聞くけど、神崎くんにデートの経験は?」
「女の子と遊びに行くことをデート言うならば、前に一度だけ。近くに住んでいる女の子と近所の公園に行ったことがある」
「へー、そうなんだ。……因みに、それは何歳の時の話?」
「……5歳の時だ」
勿論互いに恋愛感情なんてなく、それ故デートと呼ばないことは重々理解している。
……認めますよ。見栄を張りました! 遠藤さん相手にマウントを取ろうとしました!
仮にそれをデートと呼ぶとしても、今の俺たちはもう5歳じゃない。大学生だ。
大学生には大学生らしいデートというものがある。……と思う。
「何事も経験だからな。初デートは、土曜日で良いか?」
「うん。午前10時に、駅前集合ね」
今日は木曜日。土曜のデート本番まで、今日を入れてもあと2日しかない。
この2日間で、最低限のデートの知識を叩き込んでおかないとな。取り敢えず、今日は一夜漬け確定だ。
◇
迎えた土曜日。俺は待ち合わせ時刻の1時間前に、駅に到着していた。
事前情報によると、デートで待ち合わせ時間に遅れるのはご法度らしい。遅刻しなかったとしても、女の子を待たせるのはあまりよろしくない。
そうなると、確実に遠藤さんより早く着くよう家を出る必要があって。電車の遅延や、困っているお婆さんの手助けなど、様々な可能性を考慮した結果、1時間前という選択に至ったのだ。
俺は念には念を入れる男。大事な日ならば、尚のことだ。
現に高校時代も、模試の日は開始90分前に会場入りしていた。
遠藤さんをガラスで自分の姿を確認する。
……大丈夫だよな? 変な格好していないよな?
今日はデートだから、いつもの無地の服ではなく柄付きのシャツを着用している。ワンポイントのどくろマークが、俺のおしゃれポイントを底上げしてくれている筈だ。
駅で待つこと10分。待ち合わせ時刻より50分早く、遠藤さんがやって来た。
俺の姿を見るなり、遠藤さんは舌打ちをする。
「まさか負けるとは、微塵も思っていなかったよ」
待ち合わせ時間で勝負するカップルなんて、恐らく俺たちくらいのものだろう。ていうか50分前でも、早すぎるくらいだ、
「さて。これから私たちは初デートに挑むわけだけど、神崎くんは何か予習をしてきたのかな?」
「当たり前だろう? ぶっつけ本番なんて、そんな真似はしたことがない」
「だよね。……それじゃあ、予習の成果を聞かせて貰おうかな。映えある初デート、その最初の行き先は!?」
「聞いて驚くなよ? ……ホテルだ」
言った途端、遠藤さんは口をポカンと開けて固まった。
「おいおい、前置きで「驚くな」って言っておいただろ? それなのにそんな顔するなんて、全く情けないな」
「いや、普通驚くって。初デートの最初の行き先がホテルとか、どんなカップルだよ。ちゃんとネットとかで調べてきたんだよね?」
そうだとも。
ネットで「大人 デート」って調べたら、ほぼ全てのカップルがホテルに行っていた。だからホテルが最重要なのだと判断したんだ。
俺のホテル発言に、遠藤さんは呆れている。
「どうやら今日は、私がエスコートしないといけないみたいだね。……まずは、ショッピングでもしようか」
「ん? 何か欲しいものでもあるのか?」
「欲しいものっていうか、ねぇ?」
遠藤さんは俺の服を見ながら、何やら意味深に言う。
「紳士服売り場に行こうよ。もっとデートに相応しい服を、私が見繕ってあげる」
暗に「お前の服ダサい」と言われて、俺はデート開始早々心にダメージを負うのだった。
初デートは、俺の洋服を含めたショッピングで終わった。
単なる買い物の筈なのに、価値観の似ている女の子と一緒だと、こうも楽しいものなのか。そう思えたのも、一つの成果だと言えよう。
デートは一回だけじゃ終わらない。
毎週というわけにはいかなかったけれど、その後も俺たちは定期的に休日デートを実践した。
映画を観たり、遊園地に行ったり、遂には遠藤さんの自宅にお邪魔したり。
因みにホテルには行っていない。真実を知ったヘタレの俺が、二度とその単語を口にすることはなかった。あの発言は、紛れもなく黒歴史である。
遠藤さんとの交際期間を重ねていくにつれて、俺は「恋愛って面白いな」と感じ始めていた。
勉強ばかりの高校時代まででは、そんなこと思いもしなかった。恋愛の素晴らしさを教えてくれたのは、他でもない遠藤さんだ。
俺に好きな人が出来る予定はない。だから当面この関係性が続いていくことだろう。そう思っていたんだけど……
楽しい日常というのは、予期せず終わりを迎える。
遠藤さんが告白されたことで、俺たちの関係は大きく変化しようとしていた。
◇
「私、告白されたんだよね」
遠藤さんからそう言われたのは、付き合って3ヶ月が経過した時期だった。
彼女に告白したのは、俺を初めての合コンに誘ってくれたイケメン先輩。なんでもあの合コンの日から、気になっていたらしい。
世の中のカップルのほとんどが3ヶ月の壁というものに直面するらしいが、どうやら俺たちにもその難関が襲いかかってきたようだ。
「それで、遠藤さんは何て返事をしたんだ?」
「一先ず保留にしてある。返事は、神崎くんに相談してからにしようと思って」
「俺に相談? 何でだよ?」
俺は反射的に、そう答えてしまった。
俺と遠藤さんは付き合っているけど、それはあくまで恋愛経験を積む為。どちらかに好きな人が出来れば、即刻別れる。そういう契約だ。
だから遠藤さんが俺に相談する必要なんて、何一つない。重要なのは、彼女がイケメン先輩をどう思っているのか? それに限る。
そのことを遠藤さんに伝えたかった。その筈なのに……
「先輩はイケメンだからな。俺なんかと違って、恋愛経験豊富だし。……良かったじゃないか。これからはもっと実のある恋愛が出来るぞ」
俺はつい、棘のある言い方をしてしまった。
クソッ。これじゃあ単なる嫌な奴じゃないか。
「……本当に、そう思ってるの? 神崎くんは、私と別れても良いの?」
「だからそれを決めるのは、俺じゃないって話だ。遠藤さんが先輩を好きなら、潔く別れる。そういう約束だったろ?」
「何それ? 神崎くん……ずるいよ」
何がずるいのか、自分でもわかっていた。
約束や条件を盾にして、俺は重要な選択を遠藤さんに押し付けている。
自分の意見を言ってはいけないと言い聞かせて、何一つ言おうとしない。
どうして遠藤さんが俺に相談しようと思ってくれたのか、その意味すら考えずに。
「……バカ」
そう言い残して、遠藤さんは去って行く。
俺たちの初めての喧嘩は、最悪の結果で終わろうとしていた。
◇
家に帰った俺は、部屋で一人自分の気持ちと向き合っていた。
どうしてこんなにもモヤモヤするのか? どうして「別れて良いの?」と言われて、あんな答えを返してしまったのか?
その原因を、自分なりに考えてみる。
多分俺は、遠藤さんと別れたくないんだ。
だけどそれを口にするのがはばかられて、だから思ってもないことをつい口走ってしまった。
彼女との交際は、自身の恋愛スキルを格段に向上させてくれたから。
……いいや、違う。本当は、恋愛経験出来なくなるのが嫌なんじゃない。俺は遠藤さんを失うのが、嫌で嫌で仕方ないんだ。
遠藤さんと付き合い始めてからというもの、俺は多少なりとも女の子と話せるようになってきた。
ゼミやサークルの女の子と話す機会は幾度となくあったし、その中には可愛い子もいたけれど、俺が恋愛感情を抱くことは一度もなかった。
それはどうしてか? 俺は自分でも気付かない内に、遠藤さんを好きになってしまったのだ。
遠藤さんと付き合って3ヶ月、今になって彼女への恋心を気付くなんて。
でも、まだ遅すぎるなんてことはない筈だ。諦めずに挑戦し続けることが大事だと、俺は受験勉強で学んだ。
遠藤さんと同じ「あの高校」出身だからこそ、俺は彼女に想いを伝える義務がある。
俺は遠藤さんに電話をかける。もしかしたら、もう俺なんかに見切りをつけてしまったかもしれない。
そんな不安を抱きながらも、それでも俺はコールし続ける。果たして遠藤さんは……電話に出てくれた。
『神崎くん?』
「遠藤さん、今ちょっと良いか?」
『別に良いけど……どうしたの?』
「実は昼間のことを、謝りたくて。ごめん。あの時の俺はどうかしていた」
『……私も感情的になってた。ごめんなさい』
互いに謝罪をしたところで、本題に入る。
「その上で聞きたいんだけど……先輩には、もう返事をしたのか?」
『ううん。まだしてないよ』
「良かった。……だったら、もし遠藤さんが良ければなんだけど……その告白、断ってくれないか? 俺はこの関係を、まだ続けていたいっていうか。遠藤さんと別れたくないっていうか」
『うん、それで?』
急かすことはしない。それでも遠藤さんは、その続きを聞きたがっていた。
「だから、その……好きです。これからも恋人同士のままでいてください」
人生で初めての告白は、正直大学の合格発表の時より緊張した。
俺はそれ程までに、遠藤さんとのこの関係を終わらせたくないと思っていて。
あぁ、そうか。これが「恋愛」ってやつなんだな。
俺の告白に対する、遠藤さんの答えはというと――
『やっぱり、気が合うね。私も「神崎くんが好きだから、先輩とは付き合えません」って言うつもりだった』
……マジかよ。
ただでさえ速かった鼓動が、一層速くなる。
だけど既に、緊張はなくて。俺の心は、歓喜と幸せで埋め尽くされていた。
勉強一筋18年。それから恋愛を始めて、数ヶ月。俺は理想の大学で、理想の彼女と付き合うことが出来た。
次の目標は……それこそ、遠藤さんと一緒に相談して決めるべきだな。
だって愛というのは、二人で紡いでいくものだから。