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走ることが大好きだった。
小学校では、かけっこで誰にも負けたことはなかった。
きっと私はこれからもずっと走ることをやめないだろう。
そう思っていた。
中学生になって、翼が急激に大きくなるまでは。
私にとって体育祭とは、ただ一日ぼーっと座っているだけのイベントだ。
通常、必ず一種目は参加しなければいけないのだが、私は特別に不参加を許されていた。翼を怪我する可能性があるからというのが理由だったが、それはもちろん建前上の話で、実際は大きな翼が他の生徒の邪魔になるからだろう。
その待遇に、私は特に不満はなかった。
私の勝手で皆に迷惑をかけるのは本意ではなかったし、そもそも私は団体競技が好きではないのだ。
「ほんとに?」
真鳥はめずらしく真顔で言った。
「ただ遠慮してるだけじゃないの?」
「そんなことないわ」
「シーラはもう少しわがままになってもいいと思うな」
「しかたないでしょう。そういう性格なのだから」
「性格、ね」
真鳥が少し顎を引いて、私の瞳を覗く。
「性格ってのは与えられるものじゃなくて、自分で作っていくものだよ」
「そりゃあ、あなたはそうかもしれないけれど」
「何か一種目くらいはやろうよ、シーラ。翼人でも、希望すれば参加できるでしょ」
「……」
私は無言で目をそらす。
「うーん、残念だなあ」
「あなたには関係ないでしょう」
「大ありだよ! その真っ白な翼が日光できらきら輝きながら動き回る姿を見られないなんて、僕には耐えられない!」
「耐えろよ、それくらい」
真鳥はその後も何度かこの話題を出しては私に参加を勧めてきたが、何を言われようと私は気を変えるつもりはなかった。
土台、体育祭というものは普通の人間のためにできあがっているものなのだ。