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私たちの出番は最後だった。
他の候補者の演説は、それはもう上手なものだった。将来のビジョンや政策について実にスムーズに語っていて、思わず投票したくなるような内容ぞろい。そしてそれは応援演説も同様だった。
「……やっぱり無理よ」
「ここまで来て何言ってるのさ」
「私、あんなに上手く話せない」
「上手い必要なんてない。重要なのは、それが本心かどうかだよ」
真鳥は朗らかに言った。
「日頃思ってること、感じてること、それを素直に話せばいい。簡単でしょ?」
「難しいわよ……」
「ほら、出番だよ。頑張って!」
ぽんと私の背中を押す。同時に私の名前を呼ぶアナウンスが流れた。
私が恐る恐る壇上へ登ると、生徒たちがざわめきだした。全校生徒の中でただ一人の翼人である私が登壇したということへの驚き、あるいは単純に翼そのものへの驚き、それらが混ざっているのだろうと思う。
足が震える。
体が震える。
今すぐ逃げ出してしまいたい緊張で胃がひっくり返りそうだ。
私は思わず袖下の真鳥を見る。
視線が合うと、彼は小首をかしげてにっこり笑った。
人がしんどい思いをしてるというのに……。
でも、まあ、シリアスな顔をされるよりはマシだ。
緊張は収まらないが、とにかく。
話し始めてみよう。
そして私は大きく息を吸った。
「高瀬、詩衣良です。翼人です」
惨敗だった。
それはもう気持ち良いくらい圧倒的な最下位だった。
「何が悪かったのかなあ」
「あなたの演説に決まってるでしょう」
こともあろうに真鳥はあの真剣勝負の場で、自分がどれだけ翼を愛しているか蕩々と話して聞かせたのだ。熱っぽく語る真鳥の目は、ほとんど狂信者のそれだった。生徒も教師も皆唖然としていた。本当に頭のおかしい人物を前にすると人はどのような表情になるのか、私は初めて知った。
でも、まあ、実にこの男らしい。
あのとき、笑いをこらえていたのは、きっと私一人だけだった。