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「生徒会長に立候補しようと思うんだ」
会うなり真鳥はそんなことを宣った。
教室の外では雨がしとしと降っている。ようやく秋の雰囲気が漂ってきた九月の中頃だった。
「どうぞご自由に」
「スローガンは『翼のある未来を!』。公約は翼人優遇制度の確立。どう? いい案でしょ」
「あなたはこの学校をどうしたいの」
「将来は政治家になってもいいかと思うんだよね。ほら、世間にはまだまだ翼人差別が蔓延ってるでしょ。それをなくしていけたらいいなって」
「志は立派ね」
私は弁当を片付けながら言う。
「まあ、頑張ってみたら良いんじゃないかしら。無駄だと思うけれど」
「無駄?」
「ぽっと出の転校生に票が集まるわけないでしょう」
「そこはほら、選挙運動如何でさ」
「一応アドバイスしておくけれど、翼人云々は言わない方が良いわよ」
「どうして?」
「翼人なんて嫌われている存在だわ。それを優遇するなんてもってのほかだと、皆思うはずよ」
「そうかな」
「そうよ」
「現実は厳しいなあ」
真鳥は寂しそうに微笑んだ。
「ま、でも、それを変えるための戦いだ。頑張るよ」
彼の行動は素早かった。迅速に申請を済ませ、てきぱきとポスターを作り上げると、それをそこら中で配って回った。A4サイズのつるつるした上質紙には、彼の笑顔とともに、大きなゴシック体で『翼のある未来を!』と印字されていた。
人の忠告を無視してからに……。
本当に他人の話を聞かない奴だ。
彼は演説まがいのことも実行していた。朝、校門の前で、「ですから私は翼という存在に希望を見いだしているわけなのです!」などと喚き、すっ飛んできた教師に「演説は禁止だと何度言えばわかる!」と叱られていた。
それでも、有志の中間アンケートではそれなりに良い位置につけていたのだから、この学校の生徒も大概である。
噂を耳にする限り、「ルックスが良い」というのが一番の要因らしい。
言われてみれば、確かに彼は整った顔立ちをしていた。客観的に見て、格好良いと言える容姿だろう。
「でもそんな理由で投票して良いものかしら」
「まあ高校生なんて普通はそんなものじゃない?」
そう言って真鳥は笑う。
「で、シーラ。頼みがあるんだけど」
「また?」
「明後日に最終演説会があるじゃない」
「ええ」
「知ってると思うけど、あれ、立候補者の他に応援人の演説も必要なんだよね」
「お断りよ」
「そんなこと言わずに」
「嫌よ。他を当たって頂戴」
「シーラじゃなきゃ駄目なんだ!」
「何でよ」
「わかるでしょ、僕の政策にとって、翼人からの応援は必須事項なんだよ」
「知ったことじゃないわ」
「それに」
「それに?」
「僕がシーラに応援してもらいたいんだ」
真鳥は私の瞳をじっと見つめる。
……はあ。
私は何度か首を振った。
「……どうなっても知らないわよ」