表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/10

5

「生徒会長に立候補しようと思うんだ」

 会うなり真鳥はそんなことを宣った。

 教室の外では雨がしとしと降っている。ようやく秋の雰囲気が漂ってきた九月の中頃だった。

「どうぞご自由に」

「スローガンは『翼のある未来を!』。公約は翼人優遇制度の確立。どう? いい案でしょ」

「あなたはこの学校をどうしたいの」

「将来は政治家になってもいいかと思うんだよね。ほら、世間にはまだまだ翼人差別が蔓延ってるでしょ。それをなくしていけたらいいなって」

「志は立派ね」

 私は弁当を片付けながら言う。

「まあ、頑張ってみたら良いんじゃないかしら。無駄だと思うけれど」

「無駄?」

「ぽっと出の転校生に票が集まるわけないでしょう」

「そこはほら、選挙運動如何でさ」

「一応アドバイスしておくけれど、翼人云々は言わない方が良いわよ」

「どうして?」

「翼人なんて嫌われている存在だわ。それを優遇するなんてもってのほかだと、皆思うはずよ」

「そうかな」

「そうよ」

「現実は厳しいなあ」

 真鳥は寂しそうに微笑んだ。

「ま、でも、それを変えるための戦いだ。頑張るよ」

 彼の行動は素早かった。迅速に申請を済ませ、てきぱきとポスターを作り上げると、それをそこら中で配って回った。A4サイズのつるつるした上質紙には、彼の笑顔とともに、大きなゴシック体で『翼のある未来を!』と印字されていた。

 人の忠告を無視してからに……。

 本当に他人の話を聞かない奴だ。

 彼は演説まがいのことも実行していた。朝、校門の前で、「ですから私は翼という存在に希望を見いだしているわけなのです!」などと喚き、すっ飛んできた教師に「演説は禁止だと何度言えばわかる!」と叱られていた。

 それでも、有志の中間アンケートではそれなりに良い位置につけていたのだから、この学校の生徒も大概である。

 噂を耳にする限り、「ルックスが良い」というのが一番の要因らしい。

 言われてみれば、確かに彼は整った顔立ちをしていた。客観的に見て、格好良いと言える容姿だろう。

「でもそんな理由で投票して良いものかしら」

「まあ高校生なんて普通はそんなものじゃない?」

 そう言って真鳥は笑う。

「で、シーラ。頼みがあるんだけど」

「また?」

「明後日に最終演説会があるじゃない」

「ええ」

「知ってると思うけど、あれ、立候補者の他に応援人の演説も必要なんだよね」

「お断りよ」

「そんなこと言わずに」

「嫌よ。他を当たって頂戴」

「シーラじゃなきゃ駄目なんだ!」

「何でよ」

「わかるでしょ、僕の政策にとって、翼人からの応援は必須事項なんだよ」

「知ったことじゃないわ」

「それに」

「それに?」

「僕がシーラに応援してもらいたいんだ」

 真鳥は私の瞳をじっと見つめる。

 ……はあ。

 私は何度か首を振った。

「……どうなっても知らないわよ」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ