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この世界では、ごく稀に、翼の生えた子が生まれてくる。
始めは手のひらほどの小さな翼。成長と共に、だんだん大きくなっていく。最終的なサイズは人によってまちまちだ。ゆったりした服に隠れてしまうくらいの大きさから、両腕を広げたくらいの大きさまで。
翼の生えた人間は翼人と呼ばれ、各種福祉も存在する。ひとつの個性として世間から尊重されているのだ。建前上は。
個性?
私に言わせれば、こんなものただの病気でしかない。
真鳥は毎日昼休みになると私のところへやって来た。
「機嫌はどう? シーラ」
「今最悪になったわ」
「そんないじわる言わないでよ」
「本当のことなのだけれど」
真鳥は相変わらずにこにこしている。私の軽口ひとつやふたつでめげるような男ではないのだった。
「今日の翼はいちだんと綺麗だね。何かしたの?」
「別に、何も」
「きっとトリートメントの種類を変えたんだね」
「……」
「正解でしょ」
「知らないわね」
「まあいいや。翼は美しいに超したことはないからね。いやすべからく翼は美しいんだけど」
「はいはい、そうですか」
「あっ、でもシーラの翼は特別だよ! これはほんと!」
こんなふうに彼は臆面もなく私の翼を褒めちぎる。そのたびに私は奇妙な気分になる。
例えば、自分は不細工だと信じきっている女性がいたとして、「君の顔は美しい!」と賞賛されたらどういう気持ちになるだろうか。
「ねえ、シーラ。頼みがあるんだけど」
「お断りよ」
「今週の日曜、一緒に出かけない?」
「……それって、デートの誘い?」
「そう捉えてもらってもかまわない」
「私がOKするとでも思ったの?」
その言葉にも、彼は微笑みを絶やさない。
「お金は全部僕が出すよ」
「そういう問題じゃないわ」
「欲しい服とかない?」
「……あるけれど」
「じゃあそれを買おう」
「ブランドものよ? 数万はするわ」
「平気だよ。バイトして貯めたお金がある」
「あのねえ」
私は彼の方へ向き直る。
「あなたにそんなことしてもらう義理はないのよ。むしろ困ってしまうわ」
「シーラがどうこうじゃない、僕がお金を出したいんだ」
「強情ね」
「素直なだけだよ」
嘘のない彼の瞳を見て、私は「はぁ」と大きなため息をつく。
「……せめて食事は、割り勘にしてよね」