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「聞いたよ」
弁当を食べ終えたばかりの私に向かって真鳥が言う。
「陸上部に入ったんだって?」
「ええ」
どうして? とは訊かず、彼はただ「いいことだね、それは」と微笑んだ。
「シーラは足速いものね」
「そんなことないわ」
「いや、速いよ。それに、これからもっと速くなる」
「そうかしら」
「そうだよ、多分」
「何よそれ、無責任ねえ」
私はふふっと笑う。
「まあ、せいぜい楽しむわ。走ることは好きだから」
「何だか明るくなったよね、シーラ」
「そう? 変わらないと思うけれど」
私のその言葉に、彼は何かを言おうとする。だが、数秒ほど逡巡して、結局やめた。
窓の外では紅に色づいた木々を風が揺らしている。秋もいよいよ深まっていた。やがて冬が来て、春が来て、季節が巡って、私たちは大人になっていく。
そのとき、私はどうしているだろう。
翼のことをどう思っているだろう。
あとついでに、真鳥との関係はどうなっているだろう。
わからない。
今は全くわからない。
けれど、翼のある未来も、悪くないかもしれない。
「ところでシーラ」
「何よ」
「お願いがあるんだけど」
微笑む真鳥に向かって、私はにっこりと笑みを返した。
「お断りよ」




