新たなる旅立ち
「綺麗な海だなー」
快晴なお日柄の中、目の前に広がってる海を見てると、自分がちっぽけに思えてくる……。とか、そういうのよく解らないけど。この状態の解決策にはならないことはよく解った。
「現実逃避はこれくらいにしよっか」
結局、レアルさんに追い出された……。というよりは、このままここに居ても、私に出来る事は特に何もないから、だったらこの世界を見てこいって送り出された。もしかしたら、追い出されたようなものかもしれない。
町でも見つけられたら良いなーって思って、すぐ近くに見えた海に沿って歩いてたらね、あることに気付いたんだよ。ここ完全に島じゃん。しかも、歩いて一時間もかからずに一周出来るくらい小さな島。
しかも、この島にはほぼほぼレアルさんの研究所しかない。というよりも、島の面積の殆どを占拠されてるといっても良いかもしれないよね。だって、海沿いに歩いてるのと、研究所の周囲を歩くの、殆ど同じことなんだもの。
海の向こうには陸地は見える。距離的にはそんなに無さそうで、ボートでもあれば渡れそうな気がするくらい。だけど、私の持ち物は、今着ている白衣と、貰った拳銃しかない。どう考えても、この二つのアイテムで海を渡る方法は思い付かない。木でも生えてたら、それを加工して船に……できる気はしないしなー。
「もういっそ、泳いで行ってみようかなぁ」
このままここに居ても何も進まないし、正直泳げるかは解らないけど、何事もやってみない事には何も始まらない。という事で、海に入ってみたんだけど、何だろう? 違和感がある、ような気がする。身体に不調があるとか、そう言う事じゃなくて、なんか既視感があるというか、何というか。海にどんどん沈んでいってるんだよね。
「ごぼごぼごぼ!?」
そっか! 私浮かないじゃん! それに、呼吸も要らないじゃん! え、このまま海底を歩いて次の陸地まで行けば良いの? あまり深いとこに落ちなければ、そのまま行けそう。視界も鮮明なんだよね、魚が泳いでるところも見える。捕まえられないかなー、って手を伸ばしてみたけど、海の中だと速度で全然勝てない。それは、そうだよね。
海の中は意外と平穏だった。何か、明らかに肉食です! っていう感じの魚にも出会ったけど、全く襲われなかったんだよね。だって、私には食べる事の出来る部位は無いし、それはそうなのかもしれない。唯一の敵は、海藻。もうすぐ陸地だーって、油断してたら、足を絡まれてね。それはもう、お互いに一歩も引かないバトルになったんだけど、最終的には私の勝ちだったね! 下手に暴れて余計絡んだんじゃないかと一瞬過ぎったけど、そんな事は無い。そんな事は無い筈。
「やっと、新大陸にとうちゃーく」
強敵、絡まった海藻を引きずりながら、やっと陸に上がれたー。日は、ちょっと落ちてるけど、海を渡るのにそこまで時間はかかって無かったみたい。もしかして、私って凄いんじゃない? 海底歩いて隣の大陸、なのか島なのかよく解らないけど、移動できちゃうんだから。後は、海沿いにでも歩いてたら、港町にでも着くんじゃないかなー。
「おい、そこの怪しい奴。何者だ」
歩き出そうとしたんだけど、後ろから話しかけられた。振り返ると、高価そうな衣装と、マントで着飾った金髪の典型的なイケメンって感じの男の人が居た。イメージとしては、何処の貴族? って感じ、愛想は悪そう。あ、でも、よく見ると、角とか生えてるし、マントでよく見えないけど、蝙蝠みたいな翼も見える。ファンタジーとかで有名なヴァンパイアという事なのかな? 確かに、そんな感じにも見える。
「えっと、ヴァンパイアみたいな人に怪しいって言われたくないんですけど」
「ハァ? お前は何を言ってるんだ? 俺なんかより、白衣の上に海藻巻きつけたびしょ濡れな奴の方が怪しいに決まってるだろ?」
「それは、そう」
もしかしたら。ヴァンパイアみたいな恰好は、別におかしい訳では無いのかもしれない。それよりも、白衣と海藻の組み合わせの方が怪しいって言われた。うん、私もそう思う。町に入ってさっそく御用されるのは流石に嫌だし、戦果の絡まった海藻くらいは外しておこう。
「お前、レアル・グリードか!?」
「あ、あーそっか」
私の姿って、レアルさんそのものというか、身体をそのまま使ってるから、見分けつかないよね。というか、この人レアルさんの知り合いだったんだね。なんか、凄く驚いてるみたいだし、かなり長い間会って無かったって事なのかな。あの島、他に人が居なかったしなー。
「レアル、今度は何を企んでるんだ」
あ、この人腰から下げてた剣を持った! しかも両手に、二刀流って事なの!? いやいや、そんな事考えてる場合じゃないよ! なんかこの人凄く強そう! 私の持ってるのなんて、この拳銃くらいしかないけど、抵抗しないとヤバい! お願い、当たって!
「……あれ?」
弾が発射しない。もしかして、湿気ったとか!? そりゃそうだよ! 海に潜ってたんだもん! 武器も無いし、逃げないと! だけど、なんで? 足が動かない、視界が下に落ちていく。
……。一瞬のうちに、四肢を切り取られてバラバラにされたみたい、動けない私に、あの男は、剣を振り下ろした。