勇者の覚醒
目を開けると、景色が歪んでいる。いや、どうやらガラス製のカプセルに入れられているらしい、何かよく解らない機械とか、モニターとか、よく解らない紙束が散乱してる。まるで何かの研究室のようであり、SF的な何かなのかもしれない。少なくとも、自分は、研究室的な部屋の中心に置いてあるガラス製カプセルの中に入れられているらしく、さながら、何かの実験体のようだ。
これは所謂、人体実験のようなものなんだろうか。どこかに鏡でもあれば、自分の姿を確認できるんだけど、都合よくそんなものは落ちてない。とりあえず、手を見てみる。普通の人間の手にしか見えない。少なくとも、変な化け物にされている訳では無いらしい。
そんな事を考えていたら、この部屋に誰かが入って来た。何というか、半そで短パンの凄く運動用って感じの服の上に、白衣を着こんでいるボーイッシュな感じの女性、多分女性だと思う。髪とかも短髪にしてるし、見間違えてもおかしくは、いや、流石に見間違えないか。
「ふーん、成功したんだ。アンタ、意識はちゃんとある?」
「ごぼごぼごぼ」
自分の入っているカプセルには、何かの液体がつまってた。つまり、声が届かない。なんか、凄く呆れた表情をしてる。そんな明らかに落胆しましたみたいな、そんな反応はやめて欲しい。その人が何か装置を動かすと、カプセルの中の水が抜けて、そのまま開いた。なんか凄く近未来って感じ。
「アンタ、頭残念だったりする? それとも、素のアタイって大した演算能力無かったりするのか?」
「ねぇ、何の話をしてるの?」
急にそんな事言われても何も解らない。何なら、今の自分の姿すら解らない有様。あ、鏡があった。自分の姿を確認すると、どうやら私は、女性であったらしい。何なら、普通に人の姿をしていて、何らかの改造を受けた様子もない。ただ、気になるのは、私の姿が、この研究室の主人らしき人と、瓜二つという事。
「鏡を見つめてどうしたんだ」
「ねぇ、私の姿、あなたと全く同じに見えるんだけど」
「当たり前だろ? アタイの身体の一体を流用したんだから」
身体の一体を流用? どういう事なのかよく解らないけど、クローンとかそういうものなのかな。そうなると、私は、このよく解らない人のクローンって事になる。つまり、どういう事なんだろう?
「えっと、私はクローンなの? よくSFとかで、なんか、ほら。研究でやるやつ」
「少なくとも、アタイはアンタの知能の低さに驚いてるし、現状を何にも理解してないんだな」
知能が低いって、ある意味私は生まれたばかり? みたいな感じだから仕方ないんじゃないかなと思うんだけど。もしかしたら、知能が高くなるように何かされたとか? そうだ、こういう場合、SFとかだと、超能力とか、なんかすごいパワーが使えても良いような気がする
「ねぇ、私には何か凄い力があったりする?」
「アンタ、何処まで記憶があるんだ? 名前を言ってみろ」
えっ? 記憶? 私はクローン的なので作られた訳じゃないの? それなら記憶とか言われても、うーん。でも確かに、私は普通の人だったような気もする。だけど、名前とか言われても、何も思いつかないし、どんな人間だったのかさえも、思い出せない。それとも、私がこの人のクローンなら、この人の記憶が無いとおかしいって事なのかな?
「普通の人間だったような気がするけど、よく解らない。私はあなたのクローンなの?」
「そうか。記憶は引き継がれないのか……、もしくは、そうあるべきと再構築されたか……。あー、言っておくけど、アンタはアタイのクローンって訳じゃないからね」
あれ? クローンって訳じゃないの? それなら、この人とは姉妹だったとか? お姉さんとか、妹さんのクローンって事? 物語とかだと、事故とかで亡くして、それで生き返らせようとしてるとかかな。それで、記憶があるとか、無いとか、そう言う事なのかな?
「えっと、それなら私は誰のクローン?」
「誰のクローンでもない。アンタはアンタでしかない」
えぇ、それなら。誰だかよく解らない人を、自分そっくりにした挙句、記憶まで消したヤバい研究者的な人だったって事? このまま実験動物みたいな感じにされるのはやだなぁ、どうにかならないのかな。このままだと絶対ヤバいよね。
「えーっと、人体実験は良くないと思います」
「へぇ、アンタは自分が人間だと思ってるんだ」
まさかの私は人間では無い説が浮上してしまった。やっぱりなんかの改造を受けてたのかも、でも、鏡を確認してもおかしなところが見当たらない。羽と尻尾とか、生えてくる様子も無いし、もしかして揶揄われてるんだろうか。
「でも、人間にしか見えない」
「アタイの作った人工皮膚は、凄い精度だろ? まさか、機械本人が、自分自身を勘違いするほどだとは想定できなかったけどな」
「えっ、機械??」
つまり、私はロボットだったって事? でも、なんで……。あれ? どうして、私は、私が人間だと思っていたんだろう。人間だった記憶も無い筈なのに、そう思い込んでた。何か引っかかるような気もするんだけど、これ以上考えても仕方ないような気がする。
「言っただろ? アタイの身体を流用したって。ほら」
そう言って、その人は自分の腕を取り外すと、断面を見せつけてきた。うん、物凄く機械です。つまり、私はこの人と同じ身体を流用してるって事?
「うーん。私って、既製品みたいだね」
「……。そうだ、名前をやるよ。混沌の管理者レアル・グリードが、従者であるアンタに名前を設定してやる。アンタはオリジンスフィア、少なくとも、他の誰でもないって訳だ」