表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/5

5.ダメガミ卒業


「いらっしゃいま……あ、みなさんお久しぶりです。ようやく営業できるようになったっす」


 バーのマスターが店内に入ってきた女性たちに声をかける。


「マスター久しぶり! パステールのせいでマジで久しぶりだよ。飲めないから仕事にも身が入らなかったわ」


 燃えるように赤い髪をなびかせて切り出したのはヤラヌス。


「ヤラヌスさんはいつも仕事していないですわ。はっ! ボクはなんて酷いことを言ってしまったんだ、ヤラヌスさん、ボクを叩いてください!」


 青い髪と童顔が印象的なドエミーが答える。




 神々の住む世界、「神界」。


 ここは神界の中でも最大の都市。


 この都市の外れに、バー「大宝律令701」はある。


 大幅に損壊したバーの改修工事をしていたため、三週間ぶりの営業である。




「バーを壊すなんて最低なヤツはアタシが斬ってやる!」


 メリハリのあるボディをラフな格好で包んだパステールは憤っている。


「飲んだときの……記憶ないって……便利ね……。私は……記憶飛んだことないから……。もし飛んだら気づいたときには裸でベッドに横たわっていてさらに隣には見知らぬ男性がいてその男性がやっぱり裸でキミ昨日は激しかったよとかなんとか言われてそのまま起き抜けにもう一度……!」


 ウェーブのかかったピンク色の髪と豊かなバストが特徴的なエイロが自分の世界に入っていく。




 バーの外観は赤茶色のレンガ。内装は黒い木目をを基調としたおしゃれな雰囲気。五つのカウンター席と四人掛けのテーブル席二つだけだ。


 しかしバーにしては珍しく食事のバリエーションも豊富で、お酒だけでなく料理にもマスターのこだわりが詰まった密かな名店である。


「四人でいらしたのは初めてっすね、テーブル席どうぞ。何飲みます?」


「みんなとりあえずビールでいいよな。マスター、全員ビール!」


 威勢よく答えるヤラヌス。


「ビール三つにウーロン茶ひとつっすね、了解っす」


 確認するマスター。


「おいおいおい。マスターさんよ、ヤラヌスは全員ビールって言ったんだぜ? どこをどう間違えたらウーロ……」

「黙って、パステール……」


 パステールの文句を遮るエイロ。


 マスターは長身の男性。黒のカッターシャツに白のベスト、臙脂色のネクタイ。黒い髪を一昔前のオールバックにしている。いつも眠たい表情になってしまう重そうな瞼が特徴的で、格好いいかそうでないか評価の別れる顔つきだ。


「じゃあ「大宝律令701」のリニューアルに、カンパニュラメディウーーム!」


「ウーーム!」


「なんすかその乾杯」


「知らないんですかマスター、あのカンパニュラメディウムを。今女神の間で大ブームなんですよ。ボク、家にあります」


「私も……家にある……」


「ウチは面倒くさいから持ってないけど、さすがに知ってるな」


「ウーロン茶美味い。マスター、唐揚げ」




 ひととおり酒や料理が進んできたところでマスターが尋ねる。


「そういえば皆さんは仕事しないんすか? 勇者を召喚して異世界を救うのが転生神の仕事っすよね」



「めんどくさい」


「ヤラヌスさんはそうっすよね」



「私……召喚した……けど課長に……取り上げられて……」


「断片的なのに予想できてしまうっす。召喚した勇者にエロいことしようとして課長に契約を書き換えられたエイロさんが目に浮かぶっす」



「アタシは自分が行きたい派だからな! 召喚なんて性に合わないのさ!」


 パステールが手羽先を食べながら答える。



「ボクも自分で行きたいです。それで魔王にボコボコにしてもらいます! あ、マスター。ファジーネーブルをフェイスで」


「何か流れでお酒を顔にかけてもらおうとしてますけどダメっす。何すかフェイスって。前に同じ味だから大切にするって話になったっすよドエミーさん」



「でもな、マスター。ウチらもそろそろ転生者を送らないとダメかもしれないんだ」


「そうなの……。課長が倒れて……」


「おう! 胃に穴が開いたらしいんだよな! ストレスみたいでさ」


「ボクが課長の代わりに穴開いてほしかったくらいです」


 聞いたマスターが声を落とす。


「それは……、大変っすね。課長の分までがんばらないとってことっすね」


「まあ魔法でもう治ったんだけどね」


「え」


「ボクの魔法で一発でした」


「課長が倒れた話の意味あったんすか!?」


 マスターが聞き返すと、ヤラヌスは脚を組み変えて答える。


「もちろん! さすがにこれがもっと上の耳に入ったら、課長飛ばされるかもしれないじゃん。課長以外のところで働く羽目になったらこんなにダラダラ過ごせないしさ」


「自覚あったんすね」


「だから、みんなと話して今年中に一度は転生の仕事やるか、って話になったんだ」


「動機はともかく、皆さんがやる気になったのはよかったっす」




 そして閉店時間。


「ってわけで、ちょっとカンパニュラメディウムしたら転生させてくるわ。ウチらの土産話楽しみにしててくれよ」


「アタシの活躍聞かせてやるよ!」


「そのときはボクのやられっぷりを沢山話してあげます」


「私も話すわ……ふたりっきりになれるところで……」


 四人は去っていった。


「がんばってほしいっす。……ところで、カンパニュラメディウムって何すか?」





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ