~転生を司る神なのに転生者の召喚を禁じられた四人の女神様~
スマホが壊れてしまい10万以上課金したゲームが藻屑と消えましたどうもエスです。
今回は、
あまり肩肘張らずに気楽に読めて、
自分も他の作品を書いているときの息抜きにできるような、
ゆるーい感じで作っていけたらと考えています。
週1、2回の更新をしていきたいと思っています。
途中で変わるかもしれませんが。
引き継ぎコードとかはどうにもならないけど、SIMは生きているからどうにかならないものか。
何をだかわかりませんがどうぞよろしくお願いいたします。
「いらっしゃいま……あ、ヤラヌスさん。他の人はどうしたんすか?」
バーのマスターが店内に入ってきた女性に声をかける。
「やほー。あいつらは何か課長に呼び出されて怒られてるよ」
神々の住む世界、「神界」。
ここは神界の中でも最大の都市。
この都市の外れに、バー「大宝律令701」はある。
「ヤラヌスさんは呼び出されなかったんすか?」
バーの外観は赤茶色のレンガ。内装は黒い木目をを基調としたおしゃれな雰囲気。五つのカウンター席と四人掛けのテーブル席二つだけだ。
しかしバーにしては珍しく食事のバリエーションも豊富で、お酒だけでなく料理にもマスターのこだわりが詰まった密かな名店である。
「呼び出されたけど行かなかった」
「いやいや。行った方がいいっすよ、絶対」
「だって行ったら怒られるじゃん。ウチは怒られたくないし」
「そりゃあ怒られるんでしょうけどね。まあ俺はヤラヌスさんがよければ全然構わないっす。ところで何飲みます?」
マスターは長身の男性。黒のカッターシャツに白のベスト、臙脂色のネクタイ。黒い髪を一昔前のオールバックにしている。いつも眠たい表情になってしまう重そうな瞼が特徴的で、格好いいかそうでないか評価の別れる顔つきだ。
「なんだっけ、はなび? あれがいいな」
「前に飲んだ花陽浴のことすか。折角のバーなのにいきなり日本酒って萎えるっすね」
「そんなことより」
「流されたっす」
「何で日本酒は常温で飲むのに『ひや』って言うんだ? 気になって会社に行けなかったわ」
女性はちょっと気の強そうな表情をしているが、神々しいまでの美しさを備えている。女神なので神々しいどころか神そのものだが。
腰まで伸びた頭髪は燃えるように赤い。服も赤と白を使った花魁に似た衣装で、胸元から豊かな胸の谷間が見えるデザインだ。
「さっき怒られたくないから行かなかったって言ってたじゃないっすか」
「いいから教えてくれよー。聞かなきゃ仕事が手につかなくなっちまうよー」
「いやヤラヌスさん、もう何年も転生の仕事してないっすよね」
「まだ三十年しか休憩してない」
「三十年も転生者一人も送ってないってことっすか! 転生神の仕事をしていてそれはまずくないっすか?」
「あと三十年はこのまま何もしないでイケる気がするんだよね」
「たぶん仕事クビになりますよ。そしたらどうするんすか?」
「困る」
「でしょうね、はい」
カウンターに座っているヤラヌスの目の前に、日本酒の花陽浴が置かれる。
早速始めの一杯を胃に流し込み、くぅ~~と唸る。
「あーーっ、たまらん! やっぱあいつらが怒られている最中に飲む酒は一段とうまいな」
「女神とは思えないセリフっすね」
「だろ。ウチはそこいらの神様とは一味違うんだよ」
「そのポジティブさは見習いたいっす」
「いい心がけだね。ウチの生き様からどんどん学んでいいよ」
「皮肉は通じないのでやめとくっす。あれ、さっき三十年って言ってましたけど、ひょっとして俺以降の転生者は誰もいないってことっすか?」
「あー、そういうことだね」
「マジだったっす」
「マスターの転生はウチの担当だったけど、言われてみればそのあとは転生者を召喚してないから誰もいないな。そっか、マスターが来てから三十年も経つんだなー、おかわり!」
「俺も別に異世界に転生せず神界にいるだけだから役に立ってないっす。純粋に疑問なんすけど、ヤラヌスさんはなんで俺を転生させないで『バーを運営してくれ』って言ったんすか?」
慣れた手つきで新しく用意した日本酒を空の容器と入れ替える。ヤラヌスは満面の笑みでお猪口に酒を注ぐ。
「あのときはな、本当に緊急事態があったんだよ。それでマスターを異世界に送り込むことができなかった」
「一体、何が」
「どうしても酒が飲みたかったんだ」
「もう聞かなくていいかなって思ってきたっす」
「ウチは前の任務で失敗して荒れていた。しらふで」
「しらふって必要な情報っすかね」
「でも荒れているとき普通に思ったんだ。荒れると言ったら普通お酒を浴びるように飲むだろう? 普通しらふで暴れるか?」
「普通の基準がわからないっすけど、想像はできるんで続けてください」
「で、ウチは次の転生者、つまりマスターである君を召喚して使命を与えた。『バーを運営してくれ』と。これで前回の失敗を酒を飲んで荒れることができる。そして今に至るってわけ」
「三十年が薄っぺらいっす」
「そのお陰でマスターはお酒も料理も上達し、文句のない店になったんだからよしとしないとね」
「楽しくはやらせてもらってるし、勉強することもたくさんあるんで満足はしてますけどね」
「だろだろ。じゃあ問題ないって! おかわり!」
ヤラヌスが飲み干した日本酒の容器を見ながらマスターが話す。
「そうそう、元々日本酒は温めるのと常温の二種類しか飲み方がなかったんす。で温める方を『熱燗』って呼んで、反対に温めずに冷たいまま飲むことを『ひや』って言うのが語源だそうっす」
「え、急に何の話してんの?」
「もういいっす」