マルサ・麻雀・大理石
毎度、馬鹿馬鹿しい噺を一つ。
最近では、どこぞのお偉いさんが、外出自粛期間中に新聞社の記者と麻雀をしていたとか何とかで、ずいぶんゴタゴタしております。
噂によると、賭け麻雀だったのではないかという疑惑まで浮上しているそうで。権力に金銭が絡むと、警察も黙っていませんし、財務省だって動くことでしょう。
財務省といえば、外局に国税庁という部署がございまして、中でも脱税を取り締まる査察部は、往年の映画『マルサの女』で一躍有名になりました。査察部のサをマルで囲ったことからマルサというわけですが、出来ることなら、ご厄介になりたくないものです。もっとも、マルサも暇ではございませんので、万単位、億単位の脱税行為でもなければ、踏み込まれる心配もありませんがね。
さて。今日お話しするのは、とある間抜けな窃盗団についてでございます。
この窃盗団は四人組でして、それぞれ脛に二つ三つの傷を持つ者たちばかりでございます。
ある夜のこと。四人が隠れ住んでいるアパートからそう遠くない一戸建てが、お盆休みで家人が留守になっているという情報を聞きつけました。
「大将。そろそろ、お足を増やした方がいいっすよ」
「そうだな、三郎。おい、半太、丁次。その家の間取りは、どうなってんだ?」
「見たところ、ごくごく平凡な3LDKですな。金目の物があるとすれば、一階の爺さんの部屋だろうと」
「家の周囲には高い生け垣があるんで、一度忍び込んでしまえば、外からは見えませんぜ」
「そいつは好都合だな。よし、この回が終わったら忍び込もう」
この回というのは、麻雀のことでございます。まっ、四畳半で大の男が四人集まってすることの定番ですな。ジャラジャラと牌をかき混ぜながら作戦会議すれば、ご近所に声が漏れる心配もありません。
はてさて。使い込んだ雀卓を片付け、七つ道具を持って盗みに入った四人組。不用心にも、一階の和室の窓が開いていたものですから、これ幸いと思って靴を脱いで畳の上に降り立ったわけですが、いくら探しても金目の物が見つかりません。目を惹くのは、和室の隅に置かれた真新しい麻雀卓くらいのものです。
「大将。どうやら、今回もスカを引かされたみたいっすね。どうします?」
「ケッ。手ぶらで帰るのも癪だ。そこの雀卓をかっぱらって行こう。おい、丁次。そっちを持ってくれ。半太は、先に庭から外へ出て、表を確かめろ」
「へい、大将」
「よっと。けっこう重いな、コイツ」
それから一ヶ月後の雨の日こと。
四人がジャラジャラと牌をかき混ぜながら作戦会議をしていると、雨音に交じり、アパートのドアをノックする音が聞こえてきました。無視しようとしても、廊下の人物は何度もしつこいくらいにノックを繰り返し、帰る気配はありません。
「誰っすかねぇ?」
「さぁな。俺が出るから、お前らは適当に世間話でもしてろ」
大将がドアを開けると、そこにはスーツを着た女性が立っていました。
「失礼ながら伺いますが、下のゴミ捨て場に麻雀卓を捨られてたのは、貴方でしょうか?」
「だったら、何なんだよ。三百円のシールなら貼ったぞ」
「今お使いの麻雀卓は、どちらでお買い求めになりましたか?」
「なんで、そんなことお前に言わなきゃならねぇんだ」
「それは、お買い求めなら消費税、譲られたのなら贈与税をお支払いいただかなければならないからです。申し遅れましたが、私、国税庁査察部の者です」
窃盗団たちが盗み出したのは、牌が大理石、マットがベルベット、台枠が銘木で造られた最高級品だったのです。せっかく高級外車が買えるほどの物を盗み出しておきながら、窃盗団は、誰一人その価値に気付かなかったというわけでございます。当然ながら、四人は、このあとすぐに御用となりました。いやはや。悪い事は出来ませんな。
以上、マルサ・麻雀・大理石の三題噺でした。おあとがよろしいようで。