jobとスキル 1
「なるほどな。そこら辺にいるモンスターを倒すとレベルが上がって、自分にあった武器が手に入るってことか」
「違うよ。武器が手に入るんじゃなくて、jobを取得することが出来るの。jobを取得した後、スキルとその職業専用の武器が手に入るようになってるみたい」
先程から日向が熱弁を振るっているが、いまだに俺は日向が話す内容に疑問を思っている。
ゴブリンを倒してから機械的な声が聞こえ、jobとスキルという謎の能力を取得したという日向。
にわかには信じがたいが、これが今日向に起こったことらしい。
「日向、それは本当の話だよな?」
「そうだよ」
jobってRPGでいう職業のことだよな。 それにスキルも取得できるって。これじゃまるで‥‥‥‥。
「ゲームの世界じゃないか」
「だからゲームみたいな世界になったんだって。僕達がいる世界が」
日向は先程からずっとそのように主張しているが、いまいち信用できない。
さっき俺が襲われたゴブリンだって、もしかして俺が見た悪い夢なんじゃないかと今でも思ってる。
「現実が見えていない盲目な男である山村君は信じないようだけど、私は信じるわよ。日向君のこと」
「ありがとう、三村さん」
おい三村、お前さっきまで俺の話信じてなかっただろ。
さっきまで俺に医者を紹介してやるって言っていたのに、なんで日向のことだけは無条件に信じてるんだよ。
「だって、日向君の言っていることが間違っているわけないもの。現実が見えていない山村君とは違って」
おいこら、何で急に都合のいいこと言ってるんだよ。
現実が見えていないって、むしろさっきまで俺のゴブリン発言に頭がおかしくなってたって言ってただろ?
何、この手のひら返し。お前の手首はどれだけ回転すれば気が済むの?
「空は僕の言ってること、信じてくれないの?」
「信じるも何も、現に俺はゴブリンに襲われたわけなんだし、信じるしかないだろ」
「ありがとう、さすが空だね。僕の友達」
「やめろ日向、俺に抱きつくな。男同士で抱きつくなんて気持ち悪い」
「そうよ、日向君。そんなに山村君に近づくなんて気持ち悪いわよ。変なばい菌がついたらどうするの」
ちょっとまて、三村。さすがにばい菌扱いされると俺が傷つくんだけど。
それに菌って何だよ? 菌って。俺ってそんなに汚いの?
「ちなみに山村菌に感染すると、皆目つきが悪くなってヤクザっぽくなるわ」
「完全な誤解だろ⁉︎ 俺って、そんなに目つき悪い?」
「「悪い」」
「酷くない? お前達」
わかってるよ。どうせ俺は目つきが悪いですよ。
それにしても日向の奴。こんな時でさえ、俺に精神攻撃をしてくるんだな。
三村はいつも通りだから馴れてるけど、日向まで加勢してくるならさすがの俺も泣くぞ。
「ごめんごめん空。今のは冗談だから」
「そんなのはわかってる」
「いっとくけど、私は本気よ」
「それもわかってる‼︎」
もういいや。三村のことは放っておこう。
今もクスクス笑ってるし。こんな状況なのに楽しそうで何よりだ。
「それより、これから俺達はどうすればいい?」
状況が飲み込めていない俺達より、日向の方が今の現状を把握している。
下手に動くよりは日向の指示に従った方がいいだろう。
「そしたら2人共。まずはモンスターを1体ずつ倒そう」
「モンスターを倒す? 普通にやっても俺達に勝ち目はないぞ」
「大丈夫大丈夫。その辺は僕が上手くやるから」
そう言って自分の胸をポンと叩く日向。日向の身体から自信みよるオーラが満ち溢れているようだ。
正直こういう時の日向程、不安なことはない。
こういう時は俺がしっかりしてないと。何が起こっても大丈夫なように。
「キーーーーー」
「キーーーーー」
「モンスターだ」
「結構近いね」
「たぶんさっきのゴブリンの仲間が戻ってきたんだろ?」
「それなら好都合だね。あっちに行こう」
日向が指を差したのはさっき俺達がいたところだ。
そっと音を立てないように林の中を覗くと、先程座っていたベンチの近くにゴブリンが2体いた。
「さっきの仲間みたいだな」
「ちょうどいいね。空と悠里ちゃんのレベルを上げるのに」
「待て、日向。もっと慎重に動くべきだろ?」
「大丈夫だよ。空は心配性なんだから」
そういって勢いよく飛び出した日向は目の前のゴブリンに飛び掛る。
不意打ちが成功したのか、ゴブリン達は面くらい、日向の剣の柄で頭を殴られ昏倒したのだった。
「奇襲成功だね」
「なぁ、三村。日向ってこんな好戦的な奴だっけ?」
「そんな事私が知るわけないでしょ。でも、積極的な日向君も格好いいわね」
三村よ、お前はさっきから日向のことを格好いいとしか言ってないけど、そのことに気づいてる?
恋に盲目なのもいいけど、そろそろ現実を見ろ。今までのお前ならそんなこと言わなかったぞ。
「2人共、そんな所にいないでこっちにおいでよ」
「今行くから。そこで待ってろ」
そういって、俺と三村は日向の元へと行く
日向の目の前には気絶しているゴブリンが2体横たわっていたのだった。
「全く、どうすればこんな見事にゴブリンを昏倒させられるんだよ」
「そんな褒めないでよ」
「褒めてないからな」
それにしてもこのゴブリン達、全く起きる気配がないな。
ピクリしないので、思わず死んでるのではないかと錯覚してしまう。
それよりも今は日向だ。先程は手を震わせ動揺していたのに、今はけろっとした顔でゴブリン達を昏倒させている。
一連の手際も鮮やかで、慣れてないとこんなことはできるはずがない。
「あれ? 日向ってこんなに強かったっけ?」
「確か日向君の両親って、剣道の指導をしてたんじゃないかしら?」
「両親じゃなくて、おじいちゃんとおばあちゃんが教えてるんだよ」
「そうなの?」
「うん。後どちらかというと剣道というよりは剣術かな。子供の頃から、僕も門下生の人達と一緒に習ってたんだ」
喧嘩に強く勉強やスポーツも人並み以上にできる。それにイケメンで人あたりもよく人望も厚い。
なんだよこいつ。これじゃあまるで‥‥‥
「ただのチート主人公じゃん」
いかん、思わず本音が口をついた。
慌てて口を塞ごうとするがもう遅い。三村から罵倒の嵐が‥‥‥‥ってあれ? 何故か三村だけでなく日向からも好意的に受け止められているぞ。
日向もチート主人公って言葉を聞いてまんざらじゃない感じだし、三村は相変わらず目をキラキラさせて日向のことを見ている。
もしかしておかしいのは、俺の方?
「そうね。日向君ってずっと主人公感があるって思ってたのよ。たまにはいいことを言うじゃない。山村君も」
「空、そんなこに褒めてくれるなんて照れちゃうよ」
「だから俺は褒めてるつもりはないんだけどな」
2人が都合のいい解釈をしてくれるならそれでいい。弁解せずにいこう。
それよりも今は目の前で気絶しているこいつ等だ。
「それで日向、このゴブリン達をどうすればいいんだよ」
「この剣で背中を突き刺せばいいんだよ。ほら、持ってみて」
「突き刺すって簡単に言うけどな‥‥‥‥って重っ!? こんな重いものお前は持ってたのかよ」
俺が両手で持ってフラフラするものをこいつは片手であんな簡単に振り回してたのかよ。
大の男が両手で持ってふらふらするのに。こいつ本当になんなの? チート主人公?
「うん、身体強化のスキルを使ってるから楽に持ち上げられるんだ」
「身体強化?」
「物は試しで、その剣で早くゴブリンを倒して」
「わかったよ」
日向に支えられよろよろしながらも剣をゴブリンに突きたてられると、頭の中に国民的RPGのファンファーレが流れる。
何だこれと思った瞬間、今度は頭の中に無機質な機械の音声が聞こえてきたのだった。
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