幼馴染
「ねぇ、日向君。帰りにクレープ食べていかない? 最近出来たおいしいお店があるんだけど?」
「いいよ、せっかくだから寄っていこう」
学校を出て、俺達3人は一緒に帰っている。
いや、正確に話すなら2人と1人、俺はあの2人の後ろについて行っているだけ。金魚の糞のように。
端から見ると、日向と三村の2人はカップルだと言っていいほど仲むつまじい。美男美女、まさに理想的カップルだ。
ちくしょう、あんないい雰囲気を醸し出しながらで歩きやがって。なんてねたましい。
「空ももちろん行くよね? クレープ屋さん」
「どうせ俺に拒否権なんかないんだろ?」
「よくわかってるようね、山村君は。お礼に私と日向君のクレープ代を払う権利をあげるわ」
「そんなのもらって喜ぶ奴なんかいるか」
そんなことで喜ぶ奴はドМだけだ。
「あら? てっきり山村君は涙を流して咽びながら喜んでくれると思ったのに?」
「何? 俺はドMなの? お前達俺をそんな風に見ていたの?」
何? その『嘘でしょ?』みたいな顔。人を典型的なドMみたいな目で見ないでくれますか、三村さん。
それに日向、お前もそんな目で俺のことを見るな。そして引くな。
「空にそういう性癖があるのは置いておいて、空と悠里ちゃんと仲よくなってよかったよ」
「ちょっと待て。今お前の中で多大な誤解が生まれてるのは気のせいだよな?」
「そんな細かいこと気にしてるの? 貴方、将来禿げるわよ」
「全く細かくないからな。それに人を禿げさせるようなことをいう奴のセリフじゃないぞ」
三村はいつも俺に対しては毒を吐き続けるな。さっき女子同士で話してたときとは印象が全然違う。
だけど入学した頃と比べれば、三村も色々な人と饒舌に話すようになった。
入った時の三村はもっと鉄化面で氷の美少女って感じだったから、それにくらべればとっつきやすくはなったと思う。
「そういえば、日向君と山村君も付き合いが長いんだっけ?」
「そうだよ。僕達は中学校からクラスもずっと一緒だったからね」
「そうなの?」
「三村、勘違いするなよ。俺達は仲がいいんじゃない。こいつとは単なる腐れ縁だ」
俺が初めて日向と出会ったのは中学1年生の時。たまたま同じクラスになったのがきっかけだ。
昔から日向は勉強も運動もでき、性格も明るく優しい人柄のため誰からも好かれていた。
目つきが悪く、見た目だけで周りから白い目で見られる俺とは大違いだ。
正直初めて見た時は、こんな完璧な人間がいるんだなと素直に感心したよ。
だが日向との付き合いが深くなるにつれて、その印象は変わっていく。
端からみれば人辺りが良い完璧人間。だが、奥手で人見しりでシャイな一面があり、本音で日向と話すと熱い一面が垣間見れて面白い。
馬があったのか、高校に入っても日向とのつながりは続いている。
そんなこんなで日向と一緒に行動を始めてから、既に4年の月日が経過していたのだった。
「そう考えると僕達って長いよね」
「そうだよな。何で一緒にいるんだろ?」
「相性がいいからでしょ?」
「俺はそう思ったことなんか1度もないけど」
「えっ?」
「いや、普通に考えてそうだろ? 周りも絶対にそう思ってるぞ? なっ、三村」
「確かにそうね。クラスの殆どがそう思ってると思うわ」
ほら、三村の言う通りだ。俺と日向はやっぱり釣り合ってないんだよ。
学園の王子様と目つきの悪い見た目だけのヤンキー。うん、全く合わない。
「でも、それはあなた達のことを知らない人の意見だと私は思うの」
「三村さん?」
「高校からだけど、あなた達のことを近くから見ていた私は、生涯最高のパートナーだと思うわ」
三村は俺達2人を見比べながら笑う。
日向の方を見ると、何故だか知らないがとても満足そうにしていた。
「空もそう思うよね?」
日向に話を振られるが、俺にその実感はない。
正直日向には手を焼いていて、げんなりしてるってところか。
三村もどこをどう見たら俺達の仲がいいと思うんだろ。一度眼科か脳外科で見てもらった方がいいんじゃないかな。
「そんなことよりついたわよ。早くクレープを買いましょう」
「そうだよ。早く行かないと売り切れちゃう」
「そんなに慌てなくても売り切れないから。だから日向はおとなしくしてろ」
はしゃぐ日向を抑え、俺達はクレープを買うために列に並ぶのだった。
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