市街地の様子 1
「山村君、日向君に何があったの? さっきはらしくなかったけど?」
「そんなこと、俺がわかるわけないだろ?」
「嘘ね。山村君はさっき日向君に何か聞こうとしていたし、絶対何か知ってる」
「別にたいしたことじゃないから気にするな」
先程日向が家に戻ってから、終始三村は怒っていた。主に日向が三村に対して何か秘密にしていることがあるんじゃないかと。
世の中には知らなくてもいいこともあるのに。何で三村の奴こういう時だけ無駄に鋭いんだよ。
「何で私だけ仲間はずれにするの? それってずるくないかしら?」
「別にずるくないし、それに俺だって日向の心の内を聞いたわけじゃないんだ。聞きたかったら、直接日向の奴に聞け」
三村はむすっとしたまま黙りこくってしまう。だが、今はそれでいい。
特に今の三村には日向の持っていたサンドバッグの中身のことは知らない方がいいだろう。
変に知ってしまうと日向に対して気を使うからな。
それなら自然体で接してくれた方が日向としてもありがたいはずだ。
そんな三村とたわいもない話をしていると、玄関の扉が開いた。
「おまたせ。ごめん、遅くなって」
「全然待ってないわ。それよりも日向君、もう準備できたの? 早かったわね」
嘘付け、さっきまで『まだ終わらないの?』とかぶつくさ俺に言ってたくせに。
本当日向の前だと人が変わるよな。毒舌は一切言わないし、睨んでこないし、愛想もいい。
日向だけじゃなくて、もう少し俺への待遇も改善してほしいものだ。
「うん、もう片づけが終わったから大丈夫だよ」
「そうか」
日向の家は2階建てだが、家は大きくガレージも2つある。
庭も広く、植木鉢など観葉植物が所狭しと並んでいた。
「初めて日向君の家に入るんだけど、結構大きいのね」
「確かにな」
以前来た時からこの家は大きいとは思っていたが、そう思うのは俺だけじゃなかったみたいだ。
日向のじいちゃんの家も道場付きで、この家以上にでかかった。
育ちのよさといい、日向は本当に恵まれて育ったんだな。
「中に入って」
「「おじゃまします」」
家に入り俺達が案内されたのは、1階のリビング。
ダイニングキッチンが併設されていて、家族が食べる用のテーブルもある。
そして50インチもあるテレビの前には3人でくつろげそうなフカフカなソファーと小さなテーブルがあり、その上にはテレビのリモコンが置かれていた。
「とりあえずリビングでくつろいでて。お茶を入れるから」
「日向君、ありがとう」
日向は冷蔵庫に入っていたお茶をコップに入れ、俺達の前あるテーブルに置く。
そしてその場に立っている俺を他所に、ソファへと座ったのだった。
「そういえば、空は何で立ってるの?」
「座ってるのが疲れるからだよ」
これは半分本当で半分嘘である。どうせだったら三村と日向を隣同士にさせてやろうって言う俺なりの心遣いだ。
まぁ、三村の隣に座るなオーラがすごかったのもある。
だって隣に座ろうとしたら睨んで来るんだよ。そりゃ大人しく日向が座るのを待ちますよ。
「そうだ、日向。テレビ見てもいい?」
「テレビ?」
「テレビが使えれば、今の世界の状況とか色々わかるだろ?」
それこそこの現象が俺達の町だけしか起きてないのか、それとも世界規模で起きているのかがわかる。
先程日向が冷蔵庫を使っている所も確認したし、まだ電気も使えるだろう。
電気が使えるって事は、よっぽどのことがない限りテレビも使えるはずだ。
「山村くんにしてはいい考えね」
「『俺にしては』は余計だ」
三村はいちいち俺に突っかからないと気が済まないのかよ。元気なのはいいことだけど。
さっきの戦闘では散々吐いていたが、どうやら持ち直したみたいだな。
「うん、いいよ。テレビもたぶん使えると思う」
「それならはやくつけましょう。今の時間なら、ニュース番組がやってるかも」
「テレビがつけばの話だけどな」
リモコンを押し電源をつけると、テレビの画面が写った。
テレビの中では、ニュースキャスターが原稿を持って専門家と何かを話している。
上の方には『速報 市街地で謎の怪物が現る!?』という見出しつきで。
「テレビの人達が話してる話題って、ゴブリンのことかな?」
「そうだな。ゴブリンだけじゃなくて、コボルト達のことも含まれていると思うけど」
もしくはそれに順ずるモンスター達。もしかしたら、俺達が見たこともないモンスターがまだ生息しているのかもしれない。
専門家の話が一通り終わると、話はキャスターの方に戻ってきた。
『ありがとうございます。それでは現在、先程起きた地震の影響で出現したと思われる謎の怪物を相手に、自衛隊が応戦しています』
『現地の中継と繋がっています。それでは現場の様子を見て見ましょう。現場の神戸さん』
画面が切り替わるとそこには市街地の様子が映し出されていた。
髪を茶色に染めた見た目が可愛いアナウンサーが、自衛隊をバッグに映し出されていた。
「空、僕この人知ってる。朝の情報番組に出演してて、今人気急上昇している人だよ」
「そんな情報はいらないから、今は黙ってニュースを聞け」
俺達がしょうもない話をしている間にも放送は続く。
日向と話している時に重要なことを聞きそびれたかと思ったが、それもなく現地のレポートは続けられていた。
『皆さん、こちらを見て下さい。現在自衛隊が謎の怪物を相手に善戦しています』
どうやら自衛隊が相手にしているのはゴブリンらしい。自衛隊の銃がゴブリンを1体。また1体倒していく。
「ゴブリンぐらいなら、俺達でも対処できたけどな」
「空、何独り言を言ってるの? 気持ち悪いよ」
「別にいいんだよ。それに気持ち悪いは余計なお世話だ」
俺の独り言なんて聞いてないで、黙ってリポーターの話に耳を傾けてろ。
日向もさっきから、俺の話ばかり拾いすぎなんだよ。
『撃て! 撃て!!』
テレビに映し出されているのは、ゴブリン達を圧倒している自衛隊の隊員達。1体、また1体が自衛隊の銃でハチの巣にされていく。
手に持っていたマシンガンのような銃で自衛隊がゴブリン達を相手に圧倒していた。
「あれって僕達がさっき戦ったゴブリンだよね?」
「そうだな。あれぐらいなら俺達でも簡単に倒せたんだから、自衛隊ならもっと余裕で倒せるだろ?」
実際jobを持っていない俺達でも倒せたんだ。
既に複数のモンスターを倒していて、jobも持っている自衛隊には楽な相手だろう。
「空、ゴブリンの後ろから何か出てきたよ。何だろう? あれ? 豚みたいな顔をしたモンスターだけど?」
「豚の顔‥‥‥‥モンスターで例えるなら、オークって所か」
オークと言えば豚の顔をしている凶暴なモンスターだ。
コボルトが持っていた剣と同じものを装備しており、体に鎧を着ているところを見ると間違いがないだろう。
だが、そんな新しい敵が出てきても、自衛隊は怯まない。1匹、また1匹と連携してオークの群れに致命傷を負わせていく。
『見て下さい、この自衛隊の勇敢な行動を。これが国民を守るための正義のヒーローの姿です』
「空、それにしてもこの人達、なんで自衛隊が戦っている所を見せてるんだろう?」
「たぶん、自衛隊がこれだけ活躍してますよって所を見せたいんだろう。モンスターはすぐ消えるから、一見殺しているようにも見えないからな」
「自衛隊にとっては格好のパフォーマンスになるってことね」
「そういうことだ」
この映像は、自衛隊が頑張ってますよというこれ以上ないアピール材料となる。
最近自衛隊の話もあまり聞かないので、宣伝の一種としてテレビもこの映像を写しているのだろう。
日向の話だと女子アナも今人気急上昇中の人を起用しているという話だ。
その辺りを踏まえると、女子アナの知名度を上げたいテレビ局と自衛隊の思惑が一致したって所か。
『これこそが人命救助に命をかける国民の誇りです。ではここで‥‥‥‥ん?』
テレビのレポーターが自衛隊の宣伝活動中、今まで相手にしていたオークの後ろから別のオークが出てくる。
そのオークは他のオークの2、3倍も体格が大きい。まさに別次元のオークと言っていいだろう。
そんな巨大なオークが自衛隊の前に立ちはだかったのだった。
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